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青い春など春ではない  作者: 猫屋の宿
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周りの生徒達は、学年の輪を超えてお互いの趣味だったり、最近の事だったりを躊躇なく話している。

すごいな…。

こんな短期間で仲良くなれるなんて。

俺には羨ましくても絶対出来ない…。

俺には気の合うだけの友達さえいればいいと、今まで思っていた。

けれど、教室内ではいつも和人がいたから分からなかったが、俺もまた上坂さんと同じ様に孤独なんだ。

いや、違う。

そう思っているのは俺だけで、上坂さんは孤独だとか思っていないんだろうな。


「…そろそろ時間になりますので、今日はこの辺で。


皆さんお疲れ様でした」


「…上坂さん!」


周りを見渡しても既に姿は見えなかった。




「お…凪じゃないか〜。係の仕事終わったのか?」

「あ、田中先生。先程終わりました」


下足箱へ向かう途中の廊下でばったりとジャージ姿の田中先生に遭遇した。


「何だか疲れた顔してるなー。若いもんがそんな顔してると本当に歳とっちゃうぞ」


「…先生こそ」

「お!何だ〜私の心配してくれてるのか。いや〜私もまだまだモテてるな〜」

「……」

「どうした…?今日の仕事でうまく行かなかった事でもあったのか?凪の顔は疲れてる…と言うより…」

「何でもありません。疲れもその、周りが見知らぬ人ばかりだったので…少し気を張ってしまって」

「おいおい、3年生の先輩が見知らぬ人ばかりって…まぁでも上坂との初めての共同作業だったもんな!分かるわかる。緊張して疲れちゃうよなあ」

「別に…上坂さんは関係ないです!それに、俺は自分で望んで上坂さんとペアになった訳ではないし…先生が無理矢理俺をペアにさせたから…」

「そうだな。……だったら、ペア辞めるか?」


田中先生はとても(ずる)い人だ。冗談を言う先生がいれば、突き放すような事を言う先生もいる。どの目をしている時が本当の先生なのか…分からなくなりそうだ。


「…辞めないです」

「そうか。先生との約束な」


私の目に映った蒼井凪はどうしようもない何かにぶつかり、漆黒の闇の真っ只中にいる様な…表情だった。


『凪……お前はどうしてそんなにも悲しい顔をしているんだ』



先生の言う通り、今日の俺は疲れているのかもしれない。

先程からずっと少しふらつく様な感覚がある。

俺の疲れの感情が血管を伝い体全身に行き渡り、心も身体も重くなっているのがはっきりと分かる。

何かに挑戦すること、新たな一歩を踏み出すこと、他人の手助けをすることを無条件で諦めさせようとしていた、成長したくない…変わる事を拒んでいた…少し前の俺が目の前に見えた。

彼はゆっくりと俺を包み込み、優しく囁いた。

「勉強だけじゃない、誰かと関係を維持するのも、構築しようとするのも、体育祭の準備をするのも君にとっては何も意味なんてないんだよ。そんな無駄な事ちゃっちゃと辞めちないよ」

変わろうとする自分に、俺は変われるんだと思っていた自分がただのうぬぼれであった事に気が付いた。

体育祭の準備もそうだ。誰かの為だけにどうして俺が…手を貸さなければいけない。

言い方が上から目線?どうだっていい。

いや…違う。

本当は……、

俺が手を貸さなくても…何も変わらないんだ。

誰かの為に何て言葉は、誰かに必要にされている者のみが使っていい言葉であって…俺にはその権利は無い。

俺は存在していようが、そうでなかろうが周りに影響を与える事が出来ない。

いっそうのこと、俺を知っている人がいない場所に行きたい。

誰も知らない、新たな場所で新たなスタートをきりたい。きったところで進めるかは分からないが。

勇気なんて、元から無いものに見栄を張って、カッコつけたものにしか過ぎなかった。

俺はバカ正直に当たった…恐怖していた結果がこれだった。


俺は俺が思っている以上に脆い人間だった…。


……。


…。





「……」




「…あ、おはようございます」


「え?ぁあ、おはよう」


「…え!!!!上坂さん!?」


「驚かせてしまいごめんなさい!その蒼井君がここのベンチで寝てたので…誰かに意地悪とかされたら危ないって思って…」


身体のどこから湧き出てきたのか分からない面白さに支配され、俺は笑いが止まらなかった。

俺は疲れすぎてしまいこんな変わった夢を見ているそうだ。


「…ありがとう。俺を助けてくれて。本当に感謝してる」


「感謝って…そこまで言われる程私は何もしてません」


「俺さ…どのくらい寝てた?」


「…30分ぐらい?ですかね。私が見つけてからですけど」


下足場にある自販機の近くには木製ベンチが二つ連なって置かれている。そこから見える外の様子は地面を照らす照明がはっきりと見えていた。


「それにしても…上坂さんは、どうしてそんな時間に?係の仕事終わってから随分と時間あるけど」


「教室で勉強してしました。ここ最近は体育祭の準備で放課後勉強にあてる時間が減ってしまっているので!」


拳を上げ、やる気十分な上坂さんの瞳には真っ直ぐな気持ちがこもっていた。

それにしても、俺は係の仕事で色々疲れていると言うのに、上坂さんはそんな事気にもとめず、一人の教室で黙々と勉強に取り組んでいた。


ああ、そうか。疲れすぎて理想的な夢を見ているらしい。名前しか知らない男子生徒にあの上坂さんがここまで友好的なのは夢の中でコントロールされているからだ。


だったら…


「上坂さんは本当凄いよ。誰にも流されない固い意志を持ってる。勉強だけでなく運動や学校行事にも力を尽くして…」


「私だって…周りが見えなくなり、途方に暮れる事だってあります。配分間違えちゃって計画通りに進まなかったり、こけてしまいそうになったり…ほんと、たくさんありますよ」


「…そうなんですか?」


「周りは私が何でも出来てしまう天才女子高生だとか口にしているのを耳に挟んだ事がありますが、完璧じゃないですし、間違いもしてしまいます。それに人との付き合い方も苦手ですし…」


「……」


「その…ごめんなさい。俺は上坂さんの事を何も知らずに友達を作る事よりも勉強をする方が好きなんだと思ってました」


「フフ…そんな事思ってたんですか?酷いなー。私、今悲しくて泣いてしまいそうです」


「ほんとにごめんなさ-」


「そうてすね…私と…友達になってくれるなら許してあげます」


「…っ!!」


想いもよらなかった告白をされた事に、俺はどうしてか身体の中が熱くなっていた。


この気持ちを何と言い表せば良いのか分からないが、初めて夢ならば終わってほしくないと思えた。


「……上坂さん。俺と友達になってください」


「…はい。喜んで」


彼女が浮かべた笑みは、練習された愛想笑いとは違って屈託のない見るものを幸せにするものだった。

いつも、落ち着いて真面目で冷静だと言う上坂の印象は俺が彼女の事を何も知らず、知ろうともしなかったからだ。

本当の上坂は謙虚で、優しくて、ちょっとした事で笑って、少し意地悪などこにでもいる女の子だった。


そんな夢を俺は見ていた。




「夢だとか言わないで下さいね」


「…え?俺、口に出ちゃってましたか?」


「やっぱり、夢って思ってたんだ」


クスクスと手を押さえて笑っている姿は、普段の授業や勉強に向き合っている時を1ミリも感じさせないものだった。


「…明日になったら忘れられちゃうのかなー」


「いや。忘れない。たとえ夢だとしても忘れない」


「急に真面目なの…反則…です」





続く
















最後まで読んでいただきありがとうございました!

更新が遅れてしまい申し訳ありませんでした!



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