プロローグ-完
本日投稿用の時間を間違っておりました。
「それじゃあ、先日の模試の結果返すからな〜」
教室の窓から見える景色はいつの間にか春の後味を残す事なくすっかり次の季節が顔を覗かせていた。
周りを見渡すとちらほらと夏服の生徒も増えてきている。
「……恋」
って、何考えてんだよ俺は。恋愛なんかに夢中になって今後どうするつもりだ。学生の本文は学業であって恋愛なんかじゃないだろ。
と言ってもまぁ、その学業も俺はまずまずの成果しか出せていないのだけれども…。
ああ〜もう!
どうしてだ。
考えるな。
冷静になって考えてみろ。
そもそも、この俺が人を好きになる…訳ないだろ!!
なんとも言えない薄いもやがかかったようでハッキリしないこの感覚に気持ち悪さを抱いていた。
「おい、凪。呼ばれたら早く取りに来い!」
しまった…集中しすぎて田中先生が呼んでいる事に全く気付かなかった。
周りの視線がこちらへ集まっている事から何度も呼んでいたのだろう。
「すみません…ちょっと考え事してて」
「ふーん。考え事ね……だが、今日の凪はいつもと違って元気そうで何よりだ」
『……』
テストの返却が終わり周りを見渡していると明らかに喜んでいる人もいれば、そうじゃない人もいる。
いくら、三年生一回目の模試とはいえ、俺達には残り1年も猶予は残されていない。
…上坂はどうだったのだろうか。
話しかけてみたい…けれど、
「「うーん…最初は上坂さんに話しかけに行く人もいたみたいだけど、反応が冷たいって言われ出してからは周りは上坂さんを避けるようになって…」」
くるみが言っていた言葉がよみがえる。
そりゃあ、勇気出した結果冷たい反応なんてされたらな、誰だって話しかけに行く事に戸惑うだろうな。
けれど、行動しないと何も始まらないのも事実。
なんなら、勇気出して話しかけてしまえばいい。どんな反応されようが…それで相手が嫌そうにしたならそれで、終わりだ。当たって…砕けて…その後は、どうするんだろうか。
「…よ。凪は模試どうだったか?」
「普通だな」
「何だそれ」
「…なぁ和人。模試って難しいんだなー」
「はぁ〜?何だよ急に。そりゃお前は勉強してこなかったんだから難しくて当たり前だろ〜?」
「…だよな」
「お前が模試の結果なんて気にするなんてな。明日は雪でも降るんじゃねぇの」
「雪か…いっそのこと降ってくれればいいのにな」
和人はコイツ大丈夫かと心配しているような表情で見つめていた。
「お前元気ねぇな今日……けどよ?受験勉強の悩み事が見つかった事は良いことじゃんか」
和人は部活動ではサッカー部の副キャプテン、勉強の方でもテストではクラス内上位にいて、おまけに見た目もいい。アホな振りして、しっかりと自分の意見を持っている。さぞかし女子人気があるのだろうな。
今だって、俺以外に話す友達などクラス内にたくさんいるにも関わらず、こうして俺にかまってくれている。
「いや……」
「う〜ん…勉強じゃないんだったら……運動か?体力テストとか?」
「違う」
「……じゃあ何だよ?あれか!恋の悩みか?……はははーなんて…わりぃちょっとふざけた」
「……」
「…え。まじか」
「いや!違う…これから俺も受験生だからさこんな結果じゃ駄目だな〜って」
「ふ〜〜ん。そうかぁ…いや、俺は嬉しいぞー。やっとお前も人間になれたんだなぁ〜」
「なんだよそれ」
「だって、お前は高校3年生にもなって勉強はしないし、運動もしない。おまけに恋愛にも興味なしときたらな。高校生ってのは青春してこそだろ!」
いつにも増して情熱的な和人の表情は、どこか嬉しそうであった。
「青春か……」
「皆、席に座れよー。チャイム鳴ってるからなー」
今日最後の授業は、これから行われる学校行事のメインの一つである体育祭についての説明と役割決めなどだそうだ。
今年で三回目だが、ここ2年は本番の日に限って雲行きが怪しいく一昨年は何とか通せたが、去年は途中で中止になった。なので体感的には2年ぶりの体育祭である。
「体育祭も大事だが、君達は受験生でもある。だが、もう楽しめる学校行事は数える程度しかない。それに、文化祭は10月開催ってのもあり、三年生はそこまで関わる事は出来ない…」
「だから…思いっきり楽しんでいこう!」
クラス内が歓声に包まれながら始まった体育祭の役割決め。
男子はだいたい用具や設営係で、女子は案内板の作成や体育祭に向けてのラインマーカーなどのグラウンド作りの役割に就く。
「まずは-」
「佐久間 蓮です。」
「小林沙織です。」
「「このクラスの体育祭実行委員代表として頑張ります!よろしくお願いします!」」
まず、話し合いを行う前に体育祭でのリーダーを決定した。この選ばれたリーダーは自動的に体育祭実行委員となり、クラスに伝達したり、話し合いの時に前に立ち進行を進めたりする。
「では、今から今年の体育祭での競技を発表し、その後皆さんがどの競技に出場したいか決めようと思います…」
こうして、体育祭の係、出場競技が決定した。
「それでは、皆さん集まりましたね。私は三年の坂上と言います。設営係の皆さん、よろしくお願いします」
どうして……こうなった!!
先程係決めが終わり、早速今日の放課後から集会が行われている。
会議室を使い設営係のリーダーを中心に話が進む。
各クラス2名選出され、全学年で36人が集められた。
俺は元々、どの係にも興味はなく、毎年同じように無職のまま体育祭を過ごしたかったのだが…。
「…では改めて名前と顔を確認します。一年一組…、、、次三年。三年一組、蒼井凪」
「はい」
俺はこのクラスに友達と言える仲は和人ぐらいしかいない。そんな俺と一緒に組みたいと思うような人などいないだろう。ましてや、最後の体育祭でだ。
仲のいい友達同士で一緒にいたいに決まっている。
俺の存在はみんなにとっては役無しだ。ペアを組む際には邪魔になるし、皆は俺を避けるだろう。
だから、俺はあの時、自ら手を上げることは無かった。
『……そうか…じゃあ、後一人空いてるからなぁ…凪!お前に託したぞ?…お前にしか務まらないからな』
田中先生はニヤリと笑っていた。
「三年一組…上坂汐音」
「…はい」
続く。
最後まで読んでいただきありがとうございます!