幼なじみ
「久しぶりだね」
「お〜凪〜元気してた?」
「久しぶり〜じゃないだろ…相変わらずの事だが前日になって急に呼ばないでくれよ」
「何言ってんのよ。どうせ今日も暇で家にこもってるつもりだったでしょ!」
どうやら、今日俺をここに呼んだ張本人達は全く悪気が無いようだ。
突然呼んできた二人は俺の幼なじみであり、中川陽翔と斉藤くるみと言う。この二人とは小学校からの付き合いで小・中学校の頃はよく遊んだり一緒に勉強したりしていてわりと仲が良かったと思う。
しかし、高校になると陽翔とくるみは通常クラスで俺は進学クラスに進んだ結果、陽翔とくるみは同じクラスになった事があるらしいが、俺は進学クラスにいる為この二人とは段々と関わりもなくなっていき、今では幼なじみと言う言葉は肩書きにしか過ぎなかった。
「心外だな。俺が休みの日に家にこもってばかりだと思ってるのか?……俺は休みの日はよく河原でランニングをするんだぞ?」
「それに、今日の俺は少し眠いんだよ…」
俺の渾身のジョークが見事に空振りしている事に気付き下手な笑いで誤魔化した。
「何言ってんのよ。凪はいっつも眠そうにしてるでしょ?」
「ははは…。まぁ、立ち話は何だし店に入ろうよ」
「そうだな…」
今日はファミレスで勉強会を行うらしい。
図書館や学習室など静かで集中できる場所で行うと思っていたがファミレスとは意外だった。
まだ朝早い事もあり、店内には俺たち以外に客は3.4人ほどしか見当たらなかった。
取り敢えずドリンクバーを頼み陽翔とくるみは学校の課題に取り組んでいた。
この二人は進学クラスではないものの、将来やりたい事のために受験勉強に取り組んでいる。
この空気を乱す事などは出来ず、俺もまた学校の課題を机上に出した。
朝から勉強と言うのは憂鬱ではあるがこの二人に誘われてどこか嬉しいと感じている自分がいた。
どのくらいの時間が経過しただろうか。
周りを見渡すと店内には沢山の客が入っていた。こうしてみるとファミレスに来てまでも勉強をする受験生というのは大変きついものだ。
「凪?どうかしたのか?」
「いや、そろそろ昼食にしないか?」
「賛成!!!」
3人とも違った料理を頼み、最近の学校での出来事や、受験勉強の事や、部活の事など他愛もない会話をした。
「二人ともすまない。今から予備校に行かなくちゃいけないから…ごめんね」
陽翔は午後から予備校の講義が入っている為もう帰ってしまうらしい。
予備校に通っているとは知らなかった。今思えば一年生の頃は、女子と出かけたり頻繁に遊びに行っていたりしていたのが陽翔だった。
受験生と言う理由もあるかもしれないがそれ以上の原因がある様な気がして気にならずにはいられなかった。
「予備校か…頑張れよ」
しかし、予備校があるならわざわざ今日ではなくても良いのではと思ったが、後になって知った事なのだが土日は基本予備校に通い続け、友達と会う事など全く出来ていないらしい。
だが、どうしても3人で集まりたかった為、午前の講義を休んでまで時間を取ってくれたとの事だ。
「それじゃあ二人も頑張って!」
「またね〜」
陽翔が去り二人だけになったが、くるみは帰る様子は無く勉強を続けるようだ。
「…ねぇ凪?」
「どうした?」
「今日、天気良いね」
「そうだな」
「月曜の学校って気分乗らないよね」
「ああ、同感だ」
「受験勉強きついよね…」
「ああ、もうやめたいぐらいだ」
「……凪って付き合ってる人、いるの?」
「ああ…!?な訳あるか!…」
「焦ってるの怪しい…」
完全にくるみのペースに飲み込まれ、適当に答えてしまっていた。
「くるみが急に変な事聞くからだろ…急にどうしたんだよ」
「いや、……何でもない」
想像以上にシュンとしてしまっていて、何か慰めなければならない気持ちになった。
「考えてみろよ。俺に、彼女がいる訳ないだろ。そもそも、恋愛に興味がない」
いつもはしゃいでいるくるみが、ここまで真剣な眼差しを向け話しているのには何か理由があるのだろうか。
「…そっか。そうだよね〜私でさえ彼氏いないのに、凪なんかに彼女がいる訳ないし〜」
「言い方悪いぞ。けど、どうしてそんな事気にする?」
と言うか、くるみに彼氏がいないのには驚いた。淑やかさがあるかは分からないが、普通に可愛い…とは思う。
ちなみに俺はくりっとした目がくるみのチャームポイントだと思う。
「それがね、一昨日さ、たまたま凪が上坂さんと話しているのを見たって言う友達が私に教えてくれたからさ、これは…もしや!と、思って…」
一昨日上坂と俺が話していた……?
もしや、缶コーヒーの事だろうか。その事しか、上坂と俺との接点は見当たらない。
「あー、あれは俺が上坂と話していたとかそんな大層な事じゃないさ」
「でも、上坂さんが凪と話すなんて超意外かも?」
田中先生と同じ様な事を言っている。
確か、上坂は去年まで通常クラスの方にいたのでもしかすると、くるみは何か知っているかもしれない
二人の感じからすると、上坂は全くと言っていいほどクラスメイトと話す事をしなかったのだろう。
「そんなに上坂さんは誰かと話す事をしなかったのか?」
「うーん…最初は上坂さんに話しかけに行く人もいたみたいだけど、反応が冷たいって言われ出してからは周りは上坂さんを避けるようになって…」
「なるほどな…それじゃあ、逆に上坂さんからは話しかけにはいくことはなかったのか?」
くるみは目を軽く閉じ顔を横に振った。
「多分、上坂さんに話しかけられた人なんて…いるのかな」
遠くを見つめ何だか、冴えない表情をしていた。
普段はいつも明るい表情をしていたせいか、余計くるみは沈んでいる様に見えた。
「…でもさ、凪がそこまで気にするって…珍しいね!」
「別に…クラスメイトの事を話すぐらい……普通だろ」
「凪…そんな嘘言っても私には通用しないわよ〜。何年あんたの幼なじみやってきてると思ってるのさ。まぁ、陽翔だったら?分かんないけど」
「嘘なんかじゃ…」
「はぁ〜……あんたは、上坂さんに恋してんのよ」
「…!!違う!!!」
「冗談よ…ぇ……何でそんな必死に…」
「騙されたか?必死風の演技に決まってるだろ。それに、上坂を気にかけているのは先生から言われたからだ」
「先生に?」
「上坂と仲良くしてやってくれってな」
「仲…良いんだね。いいじゃん!上坂さんと同じ大学行くために勉強頑張るとかさ?」
「……」
「な、何黙ってんのよ。」
「いーや。ところでさ、くるみは恋愛…した事あるのかよ?」
反撃…というものではないが、会話の主導権を、ここで奪い返さなければ!
「……当たり前でしょ!今は、受験生だから?恋愛なんてしてないけれど、前はモテてたし!?」
「そんな嘘言っても俺には通用しないからなー。何年くるみの幼なじみやってんだと思ってるんだ?」
「う、嘘じゃないし!」
お互い笑いながら、何だか久しぶりに感じるこの懐かしさに浸っていた。
あっという間に勉強会という名のおしゃべり会は過ぎていった。
「……それじゃあね!また勉強会、しよーね」
「そうだな…」
帰り道俺はふと振り返った。
なぜ俺はあの時直ぐに否定しなかったのか。
「「あんたは、上坂さんに恋してんのよ」」
この言葉が脳裏に焼き付いて離れなかった。
思い返すたびに胸の内に違和感を感じてしまう。
こんなんじゃ……俺、
「一目惚れしてるみたいじゃないか……」
続く。
いよいよ、次回から学校行事が始まって来ます。
これからの話の展開にご期待下さい。
では、キャラクター紹介に移ります!!
キャラクター紹介②
斉藤くるみ。
蒼井凪とは小学校からの長い付き合いではあるが高校に入ってからは会話をする事は少なくなっていた。
彼女は生まれ持った最強愛嬌を武器に誰にでも話しかけに行き、距離感の詰め方がとても上手である。加えて容姿も良く男女問わず人気があるとか…。