#1。これは、俺が天国に行くまでの物語・1
これは、俺が天国に行くまでの物語である!
……と、いきなり言われても困っちゃうだろうから、まずは最初から、主人公である『俺』のことから説明しよう。
物語の主人公の名前は『七姫聖司』。
一人称は俺。身長は166.6cm、体重は66㎏。実家は道場を営んでおり、家族構成は父、母、妹。瞳の色はイエローで、ピンクの髪がチャーミングな美少年だ。
今から一年前。俺は家庭内不和に巻き込まれて死亡した。享年18歳。まぁ死んじまったのは悔しいが、最愛の妹である一花ちゃんを守ろうとして死んだから、ある意味名誉の死と言えよう。
生前の我が家はかなり昔からある大きな道場で、それはそれは厳しい道場師範である最強の格闘家である父親と、過酷な訓練を耐え忍んできた筋骨隆々な師範代と、どいつもこいつもムキムキと岩のような門下生たちが、毎日毎日飽きもせず身体を鍛えまくっていた……俺と、双子の妹である一花ちゃんも、七姫流格闘道場の跡継ぎとして、幼い頃から大人に混じって修行をしていた。
俺は昔っから身体を鍛えるのが得意だったけど、女の子の一花ちゃんは弱っちくて、身体も小さくて、大人しくてお上品で、運動よりもお裁縫や本が好きという、道場に全く向いてない性格をしていたから、いつも親父や門下生にいじめられていた。
「お前が男だったら良かったのに」
「女のくせに強くなってどうすんだ」
「男より強い女なんて、全然可愛くない」
あるときは溜め息混じりで、あるときは落胆されながら、女であることを馬鹿にされ続けた一花ちゃんだが、唯一彼女を馬鹿にしなかった男がいた。裏の山の麓にある薬屋の息子、六岸緋色くんである。
兄としては複雑だけど、緋色くんはイイ男だった。背も高いし、顔も頭もいい。怪我をした一花ちゃんに薬を持って来たり、適した薬を持ってなかったときは、その場で薬草を調合して渡したりもしていた。咄嗟の判断力と知識がないと不可能な芸当に、応用の効く男だと感心したものだ。
しかし我が家は他所から見たら相当厳しい家なので、就寝の前、夜の十時から十二時の間に存在する『自由訓練』という名の休み時間にしか、自由に動ける時間がない。自由訓練のときだけ俺たちは、格闘道場と、門下生の暮らす寮と、家族が暮らす屋敷と……あとは庭でも食堂でも図書室でもいい。七姫流武術道場の敷地内ならどこでも自由に動き回ることができる。
一花ちゃんが緋色くんと会っていたのはこの時間、それも五分くらい。自室や庭の木の陰に隠れてコッソリ会っていた。わざわざお疲れ様である。
人ケの少ない真夜中。「娘さんに会わせてください」なんて軟派な用件では絶対開かない道場の門を裏道から掻い潜り、門下生の目を盗んで訓練所を抜けてまで妹に会いに来る緋色くんの姿は、乱暴なゴリラだらけの檻の中、光り輝く王子様に見えたに違いない。弱虫の一花ちゃんが厳しい訓練や門下生の意地悪に耐えられたのは、間違いなく緋色くんの支えがあったおかげだろう。一花ちゃんにとっては緋色くんが唯一の友達で、世界と彼を天秤にかけたら重さが吊り合ってしまうくらい、大切な存在だった。
そんなある日の春の夜、用具倉庫の裏で会っていた二人。これまでもっぱら道場の敷地内に出向いてきた緋色くんが、初めて、妹と道場の外で会いたいのだと誘ってきた。
「裏山の桜は開花時期が遅いんだ」
そう言う緋色くんの右手には、細くしなやかで黒い色をした木の枝が握られている。先端を中心に綺麗な桜が点々と咲き誇っており、妹はそれを受け取りながら「……そうなの」と小声で返す。
「ちょうど今が満開でな、それで、その。明日一緒に花見に行こう」
急な話だった。再来週とか言えないのかしら。と妹は思ったらしい。もっとも再来週だろうと来月だろうと妹のスケジュールは修行で埋まっていて、忙しいのに代わりはないが。
「無理よ。道場の外に出るとお父様が怒るわ。もの凄く」
「頼むから来てくれ。山もそんなに高くないし、場所もすぐそこだから。走って三十分で着く距離だから」
「三十分といえば……三百キロくらい?」
「五キロくらいだよ」
「とにかく行けないわ。お父様が怒るから」
「来てくれ。来てくれたら俺は、キミにずっと言いたかったことを言えるのだ」
「今言えばいいじゃない」
「明後日じゃなきゃダメなんだ」
「明後日も修業が忙しいから、行けるかどうか分からないわ」
「ならんよイチカちゃん、明日の桜の木の下でないとダメなのだ。四月二十八日、時間はいつでもいい。来れるときに来てくれ。絶対だぞ。俺はずっと待ってるからな」
ヤケに強く念を押され、困った妹は「行けたら行く」と答えて、逃げるようにその場を後にした。彼女にとって緋色くんは大事な大事な友達だが、それ以上に親父が怖かった。物心つく前から親父の言うことが絶対で、逆らうことは許されない。気に入らない態度を取ったら殴る蹴るは当たり前だし、失敗したら永遠にその件を忘れてくれない。重箱の隅をつつくような小言や娘を見下した態度、親父の何もかもが恐ろしくて夢にまで出る。一日十時間の訓練の間ずっと怒鳴られて鼓膜にこびり付いた父の声。学校には行かせてもらえず家庭教師が来ていたのだが、テストの点が悪いとやはり怒鳴られる。風呂に入る時間は十五分と決まっていて、一分でも過ぎたらまた怒鳴られる。栄養素だけを考えた食事は素材をミキサーでドロドロに混ぜたもので、俺たち兄妹は実家でそれしか出されたことがない。もちろん残すと大目玉だった。
外に出たいなんて言ったら、殺されるかもしれない。
死にたくなかった一花ちゃんは、約束の日を迎えても道場の外に出ようとしなかった。緋色くんに嫌われてしまうのは怖い。でも父の怒号を思い出すだけで足が震えて動けない。自由訓練の時間になっても、特に何するわけでもなく、兄妹部屋の中で俺と二人。何もない和室に唯一置かれた布団の上で、蹲ってジッとしていた。そのときである。俺たちの部屋の襖がガラリと空いて、親父が部屋に入ってきたのは。
「何か用?」と俺は尋ねた。今は自由訓練の時間だぞと。ジッとしてるのを咎めに来たのかと。イメトレ中だから邪魔しないでくれとも言った。頼むから今日だけは一花ちゃんを見逃してやってくれ。弱虫の妹は、きっともうすぐ決心して走り出す。邪魔しないでくれと願った直後だった。親父の口から、いつもコソコソ道場に来ていた少年の話をされたのは。
親父には全てバレていたのだ。贔屓の薬屋の息子だったので今まで黙認していたが、娘を外に出すつもりなら黙ってられない。次に来たら殺してやると妹の前で言い切った。
Q・果たして、一花ちゃんが来なかったことに腹を立てた緋色くんは、怒って二度と道場に足を踏み入れなくなるでしょうか?
どうだろう。メンツを潰された怒りから来ないかもしれないし、なんで来なかったのかを問いただすために来るかもしれない。
……いや違う。そんなわけない。緋色くんが来てしまうのは、妹と一緒に彼を見てきた俺が一番よく分かってるじゃないか。
A・緋色くんなら妹を信じて一日中待ったあと、来なかったことで体調不良を心配して、ありったけの薬を持って来てしまう。
そういう男だ。
妹の顔から血の気が引いてゆく。頭が冷たくなる感覚、怒りとも恐れとも違う、今まで感じたことのない感覚。
殺意だった。
俺は妹を必死に止めた。妹は弱い、親父に勝てるわけがない。気持ちは分かるが落ちつけ。お兄ちゃんが何とかしてやるから……と、大暴れの親子喧嘩の間に割って入り、妹に殴りかかろうとする親父の拳をモロに頭で受け止め……頭を割られて死んでしまった。
その後の実家の状況は、よく分かってない。
しかし頭を割られた直後。俺の意識はハッキリしていた。
瞼を開ければ何もない空間の中で仰向けになっていて、辺りを見渡せばクリーム色の床と壁。屋外なのか室内なのかすらも不明確な世界で、目の前に突然現れたのが、コイツ。
「転生おめでとうございます。あなたは今日から不和の神です」
髪も目も服も真っ黒な女で、人の形をしているが、例えるならそう……かろうじて口が動いているマネキン人形のような、一目で人外だと分かるような女で。死んだばかりの人間に対して『おめでとう』と言いながら拍手をする。
おめでとう、じゃねーよ。と思った。死んでおめでとうと言われても喜べない。つか誰だお前と問う前に、女は続けてこう言った。
「神になれば、世界の全てを自由にできるだけの力を授けましょう」
……今思えば、ここで断っておくべきだったのかもしれない。しかし死にかけだった俺は、そんな怪しげな女の甘い言葉に乗ってしまったのだ。はい分かりましたと頷いてしまったのだ。
血を失い、ボヤけた頭で契約なんかするもんじゃない。端的に言えば騙されたのだ。
何故なら、神に選ばれたのは俺が世界初じゃない。俺の生きてる頃から『神』という概念はあったのだから、よく考えたら当たり前だ。俺と同じく転生して神になった先輩はウジャウジャいるし、何ならみんな俺より強い属性を司っている。そんな状況で偉そうにしたら「なんだこの生意気な後輩は。ああん?」てなもんで、先輩方に袋叩きである。イコール、偉ぶれない。
じゃあ人間相手に偉ぶれるかっていうクエスチョンには、
「神ぃ? そんなもんいるわけねーだろ」
「頭おかしんじゃね?」
「信じられないデース」
……皆様方のこの態度がアンサーだ。
地上に行って「俺は神です」なんて言ったらこの態度。神が畏怖する存在だったのは昔の話で、最近は科学が発達してるから人々の信仰心も薄れてるんだってさ。ドチクショウ。
要するに、俺は全く偉くない。
地上に行けば神様よりも英検二級の方がよっぽど凄い肩書きだし、天界の神の中でも下っ端だから、どこに行っても一番ショボい。本当に、判断力の鈍った状態で契約を交わすのは危険だと悟った。良い子のみんなはセールスマンから今しかない大チャンスとか言われてもホイホイ釣られないように、説明が分からないときは素直にもう一回聞いて、それでも分からないなら諦めて断ろう。お兄さんとの約束だ。
俺みたいな人生を送りたくないなら、参考にしてくれよな。
◆◆◆
時は七月末日。天界時間で午後二十三時くらい。場所は地上から遠く離れた場所である天界の中心部。神王城の一階エントランス。
「……もう。こんな仕事だって分かってたら、神さまになんかならなかったよ!」
周りに人ケの……いや違う。神ケの少ない場所でボソリ。力いっぱい、ボソリ。不満たっぷりの悪態をつきながら、業務時間が終わるのを待っていた。何だよ受付って。神さまって、綺麗な服着て尊大な態度で? 不思議な力で人々を救うみたいな? そういう仕事なんじゃないの? なんで俺は支給された地味な黒い服を着て、ほぼ誰もいない事務所の受付なんかやってんだ?
「仕方ないでしょう。神王様に盾ついた罰です」
隣の机で書物をしているのは、俺の先輩にあたる夜の神。背高のっぽでスレンダーで、長い黒髪を高い位置でポニーテールにした女の人……違う。神だ。彼女の名前は夜の神、第六時空間部の部長だったか副部長で、あだ名はヨッちゃん。いたいけな俺を騙してここに連れて来やがった、詐欺師・オブ・詐欺師。
──ここで軽く説明しておくと、天界には神王という一番偉い神がいて、次に時空間を司る神……夜の神はこれね。その次に五大元素を司る神、更にその下に俺たちのような下っ端の神がいる。
「なぁ、ヨッちゃんヨォ」
「夜の神と呼びなさい」
「神になれば世界の全てが自由になるんじゃなかったっけ?」
────神になれば、世界の全てを自由にできるだけの力を授けましょう。
契約の際、彼女は確かにそう言った。だから俺も首を縦に振ったのに。なのに今のこの状況は何なのか。俺よりも彼女の方がよっぽど地位が高いし、彼女より上も存在する。俺たち神は転生する際に『属性』と呼ばれる超能力を追加されるのだが、当然のように偉い神の方が強い属性を持っている。下っ端の神になればなるほど余り物のようなショッパイ能力を持たされるので、俺個人……もう『人』でいいや。俺個人にに世界をどうこうできる力はない。
俺はそんなこと知らなかった。その辺りの説明をされたのは既に契約したあとだったので、どうにもならなかった。契約を破棄したら死に直すことになると言われ、また死ぬのが嫌で渋々ここにいる。詐欺だこんなの。世が世なら訴える準備をしているところ。なのにヨッちゃんは平然とした顔で、
「なりますよ」
と、答えた。
「だったら、俺は何でこんな地元の市役所みたいなところの受付なんてしてんだよ」
俺はジロリとヨッちゃんを睨んでから、机の下に隠してある漫画を開く。神王とか先輩とか、俺より偉いのが周りにワンサカいるこの状況は、ハッキリ言って自由でも何もない。周りに人がいないときくらいサボってないとやってられない。
時の流れが干渉されず、朝も夜もなく、空はいつだって柔らかなクリーム色の世界と、重力や建築法といった常識を無視したとんでもなく高い建造物は非日常的でファンタジックだが、扉を開ければレポートの提出やハンコ押しといったお役所仕事ばかり。これじゃあ地元の企業に就職したようなもんである。
「……やっぱり、転生したらレベルアップみたいな上手い話、現実にはありえないんだな。チクショウヨッちゃんの嘘つき。妖怪嘘つきラプンツェル」
「私のことをそんな風にフレンドリーに呼ぶのなら、私もあなたを下の名前で呼びますよ。セージさん」
「呼び方なんかどうでもいいよ。俺だって分かりゃね」
「七姫・フラミンゴ・セージさん」
「ぶっ殺すぞ」
人の身体的特徴、ピンクの髪と黄色い目をジロジロ見ながら失礼なミドルネームをつけやがるヨッちゃんを睨み返して、ため息をひとつ。
「ああ……新入り社会人は辛いなぁ」
「少年漫画読みながら言うセリフですか」
「少年漫画みたいな世界ならまだいいよ。弱気を助け正しい人が勝つ。サッパリして分かりやすいじゃん」
「少なくとも、仕事サボって漫画読んでる奴は正しくないですよね」
「正しくなくて結構。俺ヒーローってガラじゃないもん。場を引っ掻き回して混乱させるタイプの……なんて言ったっけな」
「ヒロイン?」
「トリックスターだわ。なんだヒロインて、女じゃねぇんだぞ」
「すみません。あまりにもお顔がフェミニンだったもので。女の子じゃないなんてガッカリですよ」
「人を勝手に顔で判断して勝手にガッカリしてんじゃねぇ。夜野郎」
「そんな男泣かせでお口の悪い不良神のセージさんでも、この最低な状況から脱出できる方法が、ひとつだけありますよ」
「あに?」
「神王を倒しなさい」
ピタ、と会話が一瞬止まる。
「……また、その話?」
キョロキョロ、周りに誰もいないことを確かめて、俺は小声で返事をする。
「ええ、つまり下克上。正義感溢れる新米が、悪徳上司を懲らしめる勧善懲悪のストーリー。少年誌より大人向け。似たような話は多々ありますが、何度繰り返しても面白い、小気味いい話でしょう?」
「悪いけど、俺そこまでの正義感持ち合わせてないんだわ」
「セージさん。今の地球が地獄みたいなのは、全てとは言いませんが殆ど神王のせいなのですよ──現在の地球は、神によって支えられています。豊かな水、豊富な資源、どれも地球にしか存在しない。それを管理しているのは、各属性の神々です」
「……で、その神々を束ねているのが現在の神王ね。だからオッさんをブッ倒せば、俺が一番になれる」
「その通りです。よくお分かりで」
「この一年で八回は断った話だからね」
「昔からこういう諺があります。七転八倒」
「七転八起だろ。転び続けてどうすんだよ……あのねぇ。ちょっと歯向かっただけで神王城から出してももらえねーような、下っ端の俺が神王に勝てるわけ……」
「できます。“七姫の最終兵器”と呼ばれたあなたになら」
誰が呼んだかそんな通り名、生まれてから死ぬまで一度も聞いたことがない。
「……七姫の最終兵器」
今の言葉の出どころは俺じゃない。
「戦争を放棄した平和な我が国では、護身用でも銃や刀を持ち歩けない……そこで極悪人どもが秘密裏に造っていたのが、常人よりも遥かに強い力を生み出せるように改造された人間だ」
ガシャ! というボルトハンドルを引く硬質な音を鳴らし、向かいから猟銃を構えた綺麗な男の子がやって来る。
ピンと伸びた背筋、真っ直ぐな黒髪と少しだけ日焼けした肌……どこをどう見ても美少年としか言いようがない十六歳くらいの男の子が、説明口調で言いながら、真っ直ぐ、受付に向かって歩いて来る。
「ヤツらは金にモノを言わせて何人もの母胎を買い漁り、腹の中の胎児の頃から人体実験を繰り返したが、生き残ったのは七姫流武術道場の、女の子だけだった……そうだろう? セージ」
「フン! 知らねぇけど、とにかくそんなら俺は違うや。どっからどう見ても男の子だもん」
「……ご説明ありがとうございます。平和の神」
ヨッちゃんが恭しく頭を下げる彼は、三部所属の平和の神。
俺より少し後に入ってきた一番新入りの神だけど、とても優秀で人当たりも良く、仕事ぶりも真面目。サボりが多くて上司にも生意気な態度を取る跳ねっ返り不良な俺とは大違いで、先輩方から大人気の神だ。
「話は聞かせてもらいました。神王を倒せば世界を自由にできるんですね」
「はい」
「僕がやります。神王は僕が倒す」
平和くんは凛とした、何か決意を込めたような声でハッキリとそう言い切った。大真面目な顔、冗談には聞こえない。
「……え、まさか平和くん。行くの?」
大真面目な顔でコクリと頷かれ、俺は当然引き止める。
「やめときなって、人殺し……というか、神殺し? どっちにしろ悪いことだよ?」
「だがアイツを殺さねば、我々の待遇は今のままだ」
「神王のオッさんがムカつく上司なのは認めるけど、新入りの、三部所属の弱い属性の神が勝てる相手じゃないよ。失敗したら最後。受付どころか地下室に閉じ込められて労働させられるぞ?」
「リアリティが凄いな」
「流石、しょっちゅう地下送りにされてる方が言うと説得力が違いますね」
うるさいヨッちゃんに舌打ちをしたが、事実なので否定はしない。
「とにかく、あのプライドの高いオッさんのことだ。反乱なんて起こしたら恨まれるどころの騒ぎじゃないぜ?」
「何を言う。偉そうにしてる奴は何されても文句は言えんのだ」
平和くんは平和くんで物騒なモノの考え方をしているし、止めても聞いてくれそうにない。
何で行くのかと俺は問うた。ひょっとして、そこまで思い詰めるほどの出来事があったのかもしれない。平和の神として許せないことを、あのデリカシーのない神王のオッさんがしでかしたのかも、と思ったから。
すると平和くんは理由を答えた。
「戦争をなくしたいんだ」
まぁ、平和の神らしい素敵な理由である。
「今の神王は日和見主義で、地上の惨状を見ようともしない。部下の話も聞かないし、苦言を申すと機嫌を損ねる。こんなのが上に立っていては戦争はなくならない」「気持ちは分かるんだけど、戦争をなくすために戦争するのは馬鹿げてるよ。それに、人間がいる限り争いはなくならないよ」
「神王を殺したあとで全ての人間も殺すから大丈夫だ」
もちろん何も大丈夫じゃない。