逃げ出した後
「こんな所に居たのか……」
泣き伏したリリアーヌだったが、呆れた様な声に顔を上げると、ランドルフが跪いて目の前に居た。
「ランドルフ様……」
ランドルフがリリアーヌを立ち上がらせて、ドレスについた泥を払う。
「汚れてしまったな……。控え室で大人しくしていれば良かった物を。これではリリを皆に見せ付けてやる事が出来んではないか」
ランドルフの言っている事が分からず、リリアーヌは首を傾げた。
「もう良い。公布だけで。今日の披露目は無しにしよう」
リリアーヌはランドルフに抱き上げられた。
「公布?」
リリアーヌはランドルフに泣いたせいで赤くなった目元に口接けられた。
リリアーヌが羞恥で赤くなった事で、ランドルフは機嫌良さそうに笑って言った。
「リリと私の婚約発表と、結婚時期の公布だ」
「それは、リゼット様では?夜会のダンスもリゼット様と……」
ランドルフは眉間に皺を寄せた。
「何故、リゼットを選ばねばならない。あれは部下で、婚約者候補にすら入っていないのに。リゼットと踊ったのは、本人が望んだ褒美だ」
聞けば「影」をするには、有名になり過ぎたリゼットは、今後はリリアーヌの護衛侍女となり、ダンスは本人曰く「影」引退記念との事だった。
「ところでリリアーヌ。君は私の腕の中に結婚相手として居るのだが、それについてどう思っているのか教えてもらえないか?」
不機嫌そうな声から一変、甘さを含んだ声でリリアーヌは問われた。
「わ、私、突然の事で……」
リリアーヌが羞恥の為、言い淀んでいると、ランドルフに唇を塞がれ口接けられた。
「リゼットでは無く、君を愛している、リリアーヌ。私と結婚するか?」
唇を離したランドルフに言われて、リリアーヌは強く頷くしか無かった。
きっと、お持ち帰りされているであろうリリアーヌ。