表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

97/261

【第九十七話】異世界の女、過去と現在に愕然とする

 ――彼が居なくなって果たして幾日の時間が過ぎただろうか。

 世良は子供達と街を漁っている時、ふとそんなことを脳裏に過らせる。そしてそんな事を考えていると自覚すると慌てて頭を振って忘れようとして、それでも時間が経てば同じ様なことを考えてしまう。

 彼が居なくなった倉庫街は、然程大きな変化を見せなかった。

 交流を避けていたし、大きな事をしようとする前段階で終わったのだからそうなっても不思議ではないが、しかしそれでも内部に罅が走っているのを彼女は正確に把握している。

 今は誰もその罅に目を向けようとしないだけだ。子供ですら空気を察して明るく過ごそうと努めているのだから、きっと誰もがその罅を直視してしまった瞬間に集団が崩壊すると思ってしまったのだろう。


 この常と変わらないような生活は薄氷の上だ。

 彼の持ってきてくれた機械が生活の安全性を高めてくれて、食料も土日になれば彼がコンビニに置いてくれる。

 最近は様々なサイズのペットボトルやスポンジを回収しては、彼のリュックの中に入っていた野菜の種を用いて水耕栽培を開始していた。

 蜘蛛によって綺麗になった倉庫街にある事務所のような場所にペットボトルを綺麗に並べ、太陽が確りと差し込むのを確認してから子供達には水やりを。

 世良や瑞葉は増えた子供の面倒を見ることが多くなっていて、十黄や立道のような男達は逆に烈のように漁りに出向いてくれる活発な子と一緒に生活品を回収している。

 

「……随分、綺麗になったもんだな」


 倉庫街の外で上を見上げて世良は呟く。

 見上げた先には綺麗になった建物が聳え立ち、そのどれもに人の影は無い。

 完全な修復を終えた建物は数としてはまだ少ない。一喜が時間が掛かると言っていたように、高速で建物を直すにはまだまだ蜘蛛の総数が足りていないのだ。

 それでも、彼女は自身の記憶にあるような建物が目の前にある事実に少々の感動を覚えた。

 まるで平和だったあの頃が戻って来ようとしているみたいで。馬鹿みたいにメルヘンな思考が脳の裏側で浮かび上がるのだ。

 

 五階建ての建築物には今は子供達は住んでいない。安全性の点から見るならば倉庫街に住むよりも居心地は良いであろうが、世良はまだ待ったを掛けている。

 一喜が迂闊なミスをするとは思えない。けれど、不測の事態と呼ばれるものは何時も唐突に襲い来る。

 蜘蛛の修理が完璧だとしても、何処かに欠陥があっても彼女は不思議ではないと考えていた。

 これは実際に大人組とされる十黄や立道達にも相談して決めたことであるが、半年は様子を見るべきだと大人達は考えている。そこで自然的に倒壊するようであれば、蜘蛛がどれだけ綺麗に直したとしても引っ越しをすることはしない。


 一番に綺麗になった事務所にペットボトル達を並べたのは、やはり食料を狙う者達があまりにも多いからだ。外に置いては誰かに見られるとして、危険ではあるが玄関を開け放って例外的に使用している。


「世良」


「……ん、十黄。 おかえり」


 暫くぼんやりと建物を眺めていると、直ぐ近くで声を掛けられた。

 視線を落せば、倉庫街の唯一の玄関から子供達と一緒に十黄と立道の姿がある。

 今日は日曜日。とはいえまだ夜が明け始めた直後なので一喜からの贈り物がある筈も無い。

 普段であれば彼等は昼過ぎまでは決して帰ってくることはないのだが、どういうわけか今回は直ぐに帰って来た。

 その理由は何なのかと考えて――後に入って来た人間の姿に目を見開く。


「あ、んた。 どうして……」


「あー、久し振り?」


 少し汚れてはいるものの、相変わらず綺麗な姿をしている一喜が気不味い表情で後頭部を掻きながら片手を上げた。

 ははは、と渇いているような笑い声に世良は反応が遅れ、直ぐにその目を丸いものから鋭く変化させる。

 その対象は一喜だけではない。同じ様に追い出す側に立った十黄にもだ。

 

「十黄、どうしてコイツを連れて来たッ」


「……言いたいことは解ってる。 取り敢えず話だけでも聞いてくれ。 全てを決めるのは皆の意志だ」


「話?」


「そう、話だ。 このグループの頂点が知らないなんて訳にはいかない話がある。 ちなみに今回の出会いは偶然だ」


 十黄は彼女の鋭い目を真正面から見やり、副リーダーとしての立ち位置で彼女を鎮める。

 確かに彼も彼女の意見に同意している者だが、それで一喜との関係を完全に零にしたいとまで考えている訳ではない。

 そもそも彼には助けられてばかりなのだ。もしも彼の言ったことが全て真実であれば、十黄は自身を奴隷のように扱ってくれとも考えている。

 それが彼を悪者のようにしてしまった者の責任だ。金でも物でも対価として差し出せないのなら、自分の肉体を対価として差し出すしか方法が無い。


 兎も角、世良の湧き上がった戦意を鎮めた十黄は子供達に離れることを伝えてから一喜と立道と一緒に倉庫街の端へと移動を始める。

 彼女もそれに合わせて移動を始め、道中で子供達の世話をしていた瑞葉を呼び出して大人組を全員集めた。

 玄関から倉庫街の端まではおよそ十分。然程広いとは言えない空間が彼女達の居住エリアであるが、それでも成人していない子供達が過ごす場としては些か広い。

 一喜は久方振りに訪れた場所を眺め、何だか少し変わったなと内心で感想を吐露した。


「で?」


 コンテナが無い場所に到着すると、彼女の厳しい声が一喜に向けられる。

 子供達が居ない分、今の彼女は普段の素を出せる。優しくあるべきだという思考から外れ、荒くれ者じみた蛮人思考が表に滲み出ているのだ。

 ふざけた言葉は今此処では求めていない。ましてや仲良しこよしを演じようとも思えない。

 それが彼女の本音でなくとも、言ってしまった側は厳しい態度を貫かねばならない。

 これがリーダーが持つべき一本筋であり、周囲に見せ付ける重圧だ。

 一喜は――――それに対して柔和な笑みを見せるだけだった。


「今回十黄達に会ったのは待ち伏せてた訳じゃない。 こっちでしたいことが出来たから、その作業で街に出ていた。 本音を語るなら、未だ信じ切れていないようなお前達に教える内容じゃない」


「となると、例の異世界とやらか?」


「まぁ、そうなるな」


 異世界。

 その単語は世良にとって忌々しいものであり、同時に希望でもある。

 今や怪物が出て来るような世の中では説得力が低いが、過去では彼女達も異世界についてはオカルトの類だと誰も信じていなかった。

 こうなった今でもその意識は抜けきれず、やはりオカルトを馬鹿真面目に吐くような人物を信用し切れないのだ。妙な物を食べて頭を狂わせた人間の発想と同じだとも彼女は思っている。

 されど、彼女は確かにこの世界では有り得ない物を見た。

 見て、知って、触れて、彼女は自分の知らぬ世界があることを強制的に理解させられてしまっている。

 後一歩だ。後一歩の真実があれば、彼女は一喜を心から信じることが出来る。

 しかしその一歩を一喜は進ませてはくれない。自身の世界についてを深くは語らず、そもそも語る必要も無いと口を噤んでいる。


「端的に言えば、勢力拡大だ。 俺達の今居る組織を私物化したがっている組織が居るみたいでな。 人手を増やして対抗出来る戦力が欲しいんだが、向こうで増やそうとすると何処からかマスコミが現れて事態を大きくしてしまう」


 今回も一喜は詳細な部分は省いた。

 彼女が知るべきでない情報を伏せ、短く此処ですることを口にしている。

 要するに、一喜の側の世界で出来ないことを此処でしたいのだ。そうすることで安全に準備を行え、一喜の世界で即座に実戦に移ることが出来る。

 人員を増やす案は既にあるのだろう。後はそれを実行する為に一喜は今準備に走り出している。


「まだまだ用意は始まったばかりだけど、数年内に何とか終わらせて動くつもりだ。 その時はちょっと周りが五月蠅くなるかもしれんが、まぁそこについては何とか目を瞑ってくれ」


「――――」


 彼女は目を見開いた。

 十黄に視線を向けると、彼も困ったような顔で首を左右に振る。

 この話は、確かに話の段階でしかなかった。協力を望むだとか、俺に支配されろと強情な動きに出ることもなく、ただただ話をすることしかしなかった。

 違うだろう、と彼女は胸に言葉が浮かび上がる。

 いや、違わないと次の瞬間には浮かんだモノを否定する言葉が胸を突き抜ける。

 関りを断ったのは自分なのだから、それについて困惑するなど言語道断だ。去来する怒りなど噴出させる資格すら無く、彼女が吐き出そうとした想いは全て勝手な自己都合に他ならない。

 それでも、湧き上がるモノは静止してはくれなかった。せめて怒ることはせずとも、この困惑をぶつけるくらいは許されると勝手に行動を起こす。


「協力してくれって、話じゃないのか?」


「は?」


 今度は一喜が困惑する番だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ