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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第九十五話】その男達、実験に挑む

「何か異常があれば直ぐに解除しろ」


「わ、解りました……」


 場所は異世界。

 本日は金曜日が終わり、土曜日になった直後の午前一時。互いに時間を作るとしたらそこ以外には無く、身体に疲労を感じながらも二人のやる気は高い。

 アパートから出て瓦礫の転がる公園にて、互いに向き合う形で一喜は望愛の姿を注視する。

 この時間は作業の為に用意されている訳ではない。今回は実験として一喜以外の人間が着装出来るか否かを調査するのが目的だ。

 メタルヴァンガードになれる人間は多ければ多い程に良いとは一喜の談だが、そもそも明確な適合基準があるかどうかは依然として不明なまま。

 原作同様に適合基準が低ければ失敗するし、もしも使用しているベルトが原作における実験機であれば彼女は化け物に変異している。

 

 今彼女の手元にあるのは、自分で購入した新品のベルトだ。決まって直ぐに注文したお蔭で荷物は次の日には届き、こうして行動を起こすまでに至れた。

 此方のベルトは正式採用モデル。実戦で酷使することを前提として開発され、安全装置も幾つか搭載されている。

 適合基準が低い者が着装しようとすれば、即座にエラーとして対象を吹き飛ばす。

 本当は個人データを用いて他が使えないよう設定することも原作では出来たが、それをするには原作に出て来た設備が必要になる。

 現状は不可能と見るしかなく、よって彼女が不適格であれば吹き飛ばされるしか判断方法がない。


 彼女の手には一枚の白黒のカードがある。

 安全を重視する為、使うカードは弱い部類に入る爆発犬だ。自爆能力しかない犬のカードであれば、例え異変があっても一喜個人で対処出来る。

 一喜も腰にベルトは回していた。カードは普段使いの戦艦で、望愛は彼の過度とも言える真剣な様子に緊張を高めていく。

 彼女は怪物を見ていない。当然戦闘時の光景も見ることはなく、故に彼の緊張具合に多少の困惑が胸に浮かぶ。

 それは未だ手にしているベルトが玩具である意識が抜けきらないからだ。意識的にこれは危険な物だと思っても、無意識的な部分がそんな物で何が出来るというのかと冷笑している。


「――よし、開始だ」


「……ッ」


 一喜の言葉で望愛はベルトを腰に当てる。

 玩具である筈のそれは機械的に横の縦穴から帯を排出し、彼女のサイズに合わせてベルトを完全に固定した。

 それだけで彼女はもう驚いている。実際に一喜がしている場面を先に見てはいたが、自分が買った何でもない物でも同じ状態が起きるとは信じ切れなかったのだ。

 だが、これが一喜と同じであるのならば動作を続行させるしかない。ベルトのレバーを左に倒し、そして爆発犬のカードをスリットに挿入した。

 

――Standby. Clover of Blazing dog.


 途端、流れる機会声と赤光。

 目を見開く彼女を他所に赤光は周囲に散らばり、無数の犬の姿となって周りを駆け巡る。

 ドーベルマンのような姿の赤い光は首に爆弾を括りつけられ、これが自爆の要となるのは誰の目から見ても明白だった。

 待機音が辺りを満たす中、彼女は口内に溜まった唾を飲む。これで後はレバーを右に倒せば、着装が勝手に開始させる。

 適合すればそれで良し。だが不適合であれば、何が起きるのかを明確に予測することは出来ない。

 彼女の身に何が起きるのか。それを見守るのは一喜ただ一人。

 安全なんてとても言えない環境だ。やっぱり怖くなったので止めますと言っても一喜は多少文句を言ってそれでお終いにするだろう。


 誰だって怖さに耐性がある訳ではない。望愛は普通の女性とは異なる人生を歩んではいるものの、それでも戦士として生きて来たのではないのだ。

 だが、だがだ。それでも彼女は諦める言葉を吐くことはしない。それをしてしまったら自分の想いが軽くなる。

 胸に抱く熱量は決して嘘ではない。初めて抱いたからこそ、それは今もなお赤々と燃え続けて止まらない。

 これを嘘になぞ出来るものか。そんなことをするのなら、彼女は自身を縊り殺して地獄に落ちることを選ぶ。


「……、……着ッ――装」


 叫び、震える手で勢いよくレバーを右に倒した。

 

――Hot dog corps.


 短い文は彼女の頭には流れない。ただ、機械声が流れながら赤光は明確に動きを変えていく。

 周りを駆け巡る犬達が揃って姿を鎧の一部に変化させ、ベルトを中心に彼女の身体を覆うように黒いスーツが広がっていった。

 紛れもない着装の前段階であるが、彼女にとっては驚愕の数々だ。現代技術では有り得ない出来事は常人の理解の範疇にはあらず、それでも一度展開されれば機械的に弾かれるまで止まらない。

 頭頂部から足先まで。全てが黒のスーツに包まれ、青く輝くデュアルアイが灯っている。

 その上から鎧の数々が集まっていき、下から上へと急速に装着が進んだ。

 犬がモデルとなっている所為か鎧自体は薄い。女性としてのラインに張り付く形でそれは完成され、特徴的なリング状の爆弾が首や手首等に巻かれている。


――Mounting! Metal vanguard!


 赤光が鎮まり、その鎧本来のブラウンの色が表に現れる。

 金属質な犬耳を持った細い女性戦士。いや戦士と呼ぶには些か頼りない風体を持つそれが、新たなメタルヴァンガードとして誕生した。

 機械は彼女を弾くことはない。異音も異常な発光現象も観測されず、一喜は目を細めてその様子に首を縦に振る。

 望愛は着装が完了してから頭を下げて自身の身体を見ていた。

 上から被せられた鎧には重さを感じず、視界も遮られているような感覚は無い。

 しかし、自身を覆う金属の鎧は望む通りに動いている。手を振り、その場で軽やかに回転し、そして一喜へと視線を向けた。


『先輩!』


「ああ――成功だ」


 紛れも無くメタルヴァンガードは正常稼働を果たした。

 それを断言すると、彼女は喜びの声を漏らす。これで役に立てる範囲は広がり、基礎力を上げていけば戦闘にも立てるようになる。

 一喜はそれを許しはしないだろうが、そんなことは状況次第で幾らでも覆るのだ。彼女は口にしないものの、状況が着装しないことを許さないと確信している。

 その為にもこれからは肉体的な強さも必要だろう。特に彼女は、逞しさという点においては些かお嬢様が過ぎる。

 普通の物は持てるし行動力はあるものの、過酷な労働でも耐えられる身体にはなっていない。そんなままでは一喜の手伝いの途中で倒れてしまうのは自明だ。

 

「よし、一旦解除してくれ。 これからはお前も着装出来ることを前提で行動を一部修正していくぞ」


『はい!』


 レバーを倒して元に戻していくのを視認しつつ、一喜は自身の予測が正解であるかもしれないと確信の天秤を僅かに傾けた。

 更に三人目と四人目も出来たのであれば、一喜は予測を確信に変えるだろう。

 即ち、元が玩具であることで適合の概念が無くなっている。カード自体も量産品の為に明確な意志など存在せず、であるならば着装そのもののハードルは非常に低くなったと言えるだろう。

 これはまだ予測の範囲を逸脱しないが、それでも希望の光となったのは言うまでもない。

 何せカードに意志が存在せず、ベルトにも余計な適合基準が無いのであれば、ベルト側からの悪意の介入が発生しないのだ。


 勿論、それは一喜達の世界のカードだからこそ。異世界のカードはメタルヴァンガードの原作世界の物であるだろうし、そうなれば意志は宿っていると見て良い。

 一喜はそれを躊躇も無しに使っているが、今のところは異常は起きていない。肉体的な異常が起きていない辺りは濾過システムが無事に機能しているのだと確信して、その日はそのままコンビニに食料を置くだけで終わらせた。

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