【第九十四話】その男達、予定を決める
巨大な勢力に必要な要素は多岐に渡る。
その中で一番揃えるのが大変なのは、先ずは資源だ。衣食住を満たせる全ての資源が揃っていなければ折角集まってくれた人々を食わしていくことは出来ない。
幸いなことに食料を除けば他の物資は存外そこかしこに落ちている。流石に精密機器の類は使用不可能であるが、服やバッグといった洗えば何とかなる物は依然として山程残ったままだ。
故に、一喜達が最初にしなければならないのは資源を集めること。平行して、拠点として使う場所を決めることだ。
「なるべく倉庫街には干渉したくはない。 出来ればアパート周辺を丸ごと拠点にしたいな」
「となりますと、あの地点を中心として壁を作りたいですね」
話し合いは職場内で進めた。客の数が少なく、従業員である渡辺が休憩に入っている間に隣同士のレジに立ちながら言葉を交わし、その為に必要な道具を共に選定しては全て一喜の家に届くように準備する。
現状、一喜と望愛が共に行動することは難しい。何とかシフトの調整を願い出てはいるものの、望愛の代わりに土日を出てくれる者は少ない。
やれるとすれば渡辺とシフトを交換することだが、彼にも当たり前だが予定はある。
加え、夕方枠は意外に人が居ない。
昔は学生達が働いている姿を見ることが多かったものの、今となってはバイトに求める仕事量が増加したことで若者の数は少ない。
居るとしても外国人ばかりだ。そして、コンビニで働く外国人は残念なことに質が良い方が稀である。
「支援ロボットを使えば建物の修復は行える。 これを利用して新品になった建物を運んで壁にすることは出来るな」
「運べる方法が?」
「使うカード次第だが、メタルヴァンガードで平屋のアパートくらいなら結構持ち上がるぞ」
「……すっごいですね」
建物の修復、及び壁としての活用は自動で行うことが出来る。
倉庫街に居る世良達にも渡した支援ロボットを新たに追加し、手が空いているならば並行して食料を増やす算段を立てていく。
支援を目的として食料を用意するのでないなら、やはり自分達で作れるようになった方が良い。
この場合の最善策は、やはり世良達に教えた水耕栽培だろう。枠組みを作ってそこに土を流して疑似的な畑を用意する案もあったが、流石に本格的な農作業をするには一喜達の知識と経験が足りない。
今は先ず、浅い者でも難しくない方法で成果を作るべきだ。成功体験ほど活力に繋がるものはない。
さて、そうと決めてしまえば彼等の行動は迅速だ。
望愛自身が予め溜めておいた金も使って支援ロボットを十機は購入し、植物の種や栽培に必要だろうエアーポンプ等も揃える。
その間に望愛は引っ越しを済ませる為に不動産屋に赴き、一喜が今住んでいるアパートの空き部屋を探してもらった。
一喜としてはお嬢様が住むような部屋じゃないだろうと軽く止めてはみたものの、彼女にとって重要なのは利便性だ。
同じアパートに入れるならばそちらの方が近い。万が一多くの荷物があった際にも望愛の部屋を倉庫代わりにすることが出来る。
「もし私の部屋が倉庫になったら、その時は同棲という形でお願いしますね」
「勘弁してくれ。 女と一つ屋根の下だなんてどうすれば良いか解らん」
「別に気にしないで良いですよ。 家主優先です」
堂々と口にする様に流石に一喜は呆れた。
彼女としては逆にそちらの方が都合が良いと考えているが、それを覚られる訳にはいかない。この関係性をもっと強固な形にした時、初めて彼女は次のステップに移行することが出来ると想定していた。
幸いと言うべきか、隣室ではないながらも丁度引っ越しを予定していた部屋が出ていたのでそこを予約して今は荷物を詰め込んでいる真っ最中だ。
流石に異世界の為に引っ越すとなれば一喜も手伝うと告げてあったが、彼女はやんわりとそれを断った。
プライベートな物ばかりであるのは勿論として、望愛はあまり彼の迷惑になるような真似をしたくはない。それが二人にとって必要な工程であっても、なるべくなら自身で終わらせたいというのが本音だ。――欲望云々については例外的だが。
「順番としては、先ずは安全圏の構築。 次に食料の生産と並行して使える物を回収し、街の安全性を上げていくんですよね?」
「出来れば世界で数少ない人類の安全拠点となるくらいに大きくなれば良いんだが……その為には絶対に避けられない要素がある」
昼の喫茶店。
望愛が休みの日に二人は喫茶店の隅のテーブルに集まり、共に携帯のメモ帳を起動させながら話し合いを続けている。
これまでに決まった部分は既に文章作成アプリで纏め、現在では最終的な道筋についてを共有していた。
二人にとって異世界の勢力は武力となりえる。
世界そのものの法律が壊滅したことで危険な物を製造することが可能となり、それが世界の為であると解れば危険人物を即座に抹殺することも不可能ではない。
義勇軍として定めれば街に個人が所有する軍を設置することも出来るとなれば、障害は倫理観くらいなものだ。その倫理観についてもハードルはかなり低く、故に然程飛び越えさせることは難しい話ではない。
とはいえ、勢力として形にするには本来長い時間が必要だ。
襲い来る怪物を警戒しながら比較的安全な纏まりを作り、日夜食料の奪い合いに勝利して人を引き込んでいかなければ勢力になることはない。
あちらでは金など何の魅力も無いのだ。人を惹き付ける物は食料であり、住める家であり、常に安穏と暮らせる場所である。
そして、それを一喜達が急速に用意することが出来れば、人が集まる速度は一気に増していく。
中身についてを考慮しなければ、一喜は食料だけで多くの人間を此方側に抱き込めると予想している。望愛もその点は同意であり、一喜達側の世界の災害時における出来事を加味すれば、多くを与えてくれる存在に人は集まっていく。
さて、となれば怪物側であるポシビリーズも黙ってはいないだろう。
偵察をするだけなら一喜達も警戒をするだけで済むが、欲望に素直な面々が偵察だけで終わらせるなど到底考えられる筈もない。
どれだけ良い展開に巡り合ったとしても戦闘は免れず、強力な個体が複数体現れれば一喜一人では無理だ。
メタルヴァンガード本編でもメインで戦っていたのは四名だった。それに加えて支援ロボットによる手助けもあったのだから、一人で全てを相手にするのは最初から不可能だったのだろう。
望愛が視線を落とす。
机の上には飲み物と、一喜が普段から使っているベルトとカードが置かれている。
見掛けは完全に玩具に見えるも、それは此方側の世界であるから。異世界に赴けば玩具は本編同様の硬質極まりない兵器へと変わり、怪物を打倒する武器として性能を発揮する。
望愛自身、それを最初に説明された際には公式サイト等を見て予習はしておいた。
中身は子供向けとはまるで思えない複雑な作品ではあったが、やはりシーン毎の絵やベルトのシステムそのものは子供向けだ。
目前にあるそれが実際に使えるとは脳が理解し切れず、些かに困惑するのが彼女の本音だった。
「組織として活動する以上は、最低でも残り三人は欲しい……んだけどなぁ」
「適性、でしたっけ?」
「そう。 それが合致してなきゃ着装は出来ない。 一応は無理矢理適合させる方法もあるが、そっちは最悪命が無い」
設定上ベルトを使えるのは適合した者のみ。
適合した上で純粋に一喜達の為に戦ってくれる者が居れば、それは正しく彼等の重要な戦力となるだろう。
此方については拠点を作成しながらゆっくりと見つけていくしか方法が無く、彼の脳裏には向こうの世界の候補者が過った。
「それは私がやってみても良いんですか?」
ならばと、彼女は依然としてベルトに困惑しながらも一つの提案をする。
困っているのなら、自分が使えるようになれば助けになるのではないか。
これを使う意味を解った上で、彼女は迷いそのものは無しに口にする。それを一喜は反射で否定しようとするが、即座にいやと呟く。
試すこと自体は別に彼女を戦いに行かせることに繋がらない。確かめておきたいこともあるしと内心で考え、ただ眉を寄せるに留めて渋るようなポーズを取った。




