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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第八十三話】その男、頭を抱える

「有難う御座いましたー」


 間延びした声がコンビニ内で響く。

 本日の夕勤は四人。一喜と渡辺、そして社員の一人と店長。

 時間は既に深夜帯間近。全員が休憩を過ぎ、多くの客を捌いて精神的な疲れを隠せなくなっている。

 それでもやる気の無い様を見せないようにしつつ、深夜帯に迷惑を及ぼさないよう補充作業を済ませていた。

 そして二十二時を迎え、五分前に来ていた深夜勤務の者達と交代で一喜の一日が無事に終わりとなる。――いや、終わりとなるのはその他の者だけだ。

 手早く着替えて廃棄商品を貰い、一喜は手短に挨拶をして帰路についた。

 街灯や信号機が照らす夜道を歩き、腰ポケットに入れていた携帯を開いては溜息を吐く。

 

 連絡帳には新たに連絡先が追加されている。

 仕事用の綱吉の携帯番号に、何故か沢田の番号。沢田については予想外も予想外であったが、彼女の思惑は一喜には解る。

 これが終われば一喜に彼女が構う理由が無くなるだろう。それで帰ってくることはないとはいえ、彼女が一般の特に大きな後ろ盾を有している男と密な関係を築くべきではない。

 彼女を大事に思っているからこそ、一喜のような人間と付き合いを持つべきではないのだ。それは彼にとってもまったくの同意であり、故に沢田が今後の望愛に対する連絡係となる。

 

「っていってもなぁ……」


 後頭部を掻く一喜の表情に安堵は無い。

 沢田の行いは彼にとっては有難いことであるが、同じ職場であることで余計な事態が発生するだろうことは簡単に想像出来る。

 糸口・望愛は積極性が強い。家出のエピソードについてもそうであるし、一喜を助けようとしたのもそうだ。

 一喜達もそうだが、望愛もまた誰かの想いを汲む前に行動してしまう。

 それが最善であると判断して、自身の手札を切って前へ前へと進むのだ。それがありがたくも迷惑になる要因である。

 今回もまた望愛が行動を起こすのは目に見えていた。

 まだ何の結果を見せていないとはいえ、彼女が綱吉から今回の約束を聞けば話が違うと憤慨することだろう。


 それに対してどれだけ兄である綱吉が真面目に対処出来るのか。

 暴走の懸念がある彼女を止め、関係すべきではないと納得させられるのか。

 もしも彼女の足を止めることが出来たのなら、それは一大人として見事と言う他にない。

 一喜自身は押し込められてしまったから、成功すれば余計に綱吉を称賛する。

 だが、嫌な予感がどうにも拭えないのは事実である。一喜がこうして歩いている間も心の何処かには不安が漂い、不吉な未来を容赦無くイメージさせてくるのだ。

 勘弁してくれと思いはしても、それは彼本人の精神的な問題である。何とかするには無理にでも前を向くしか方法がなく、故に成功に意識を向けて考えるのだ。


 アパートに帰り、手早く着替えて机と向かい合う。

 机上のパソコンの電源を入れ、内部に保存してあるメモ帳を立ち上がらせると短く『異世界であると信じさせる方法』と綴られていた。

 その下には何も書かれてはいない。書けるものはあるにはあるのに、一喜の指はそれを入力することをしなかった。

 何故か。それは一重に、何処まで危険であると思わせるかを深く考えてしまったからだ。

 崩壊した世界を見せれば尋常ではない状態であると認識させることは出来る。

 街の外にあるキャンプに接近し、粗暴な連中を敢えて刺激させることも出来る。

 逆に何の気力も無い浮浪者のような者達から懇々と絶望を伝えてもらうことも出来る。

 

「向こうが手を出したいと思わせない程の脅威って、どんくらいだ?」


 呟いた言葉には濃く疑問が乗っている。

 あの場では約束したとはいえ、綱吉が一喜の望みを完全に叶えてくれるとは彼自身確信している訳ではない。

 望愛という要素があるから確率自体は高いであろうと思うも、それは結局高確率であるというだけの話。

 低確率を引けば約束は破られる。綱吉は綱吉が求める利益の為、一喜を社会的な奴隷に変えようとするだろう。

 異世界は荒廃している。立て直しには多大な時間を必要とし、街一つを元に戻していくまでにどれだけの金と資源が消えていくのか定かではない。


 今の異世界は終わり行く世界と言い変えても良い。そんな世界を見て、此方側の権力者達が果たしてその世界の者達に手を差し伸べるだろうか。

 弱者救済を掲げ、無償の愛でもって再興をしてくれると――――否だ。

 絶対に、何があろうとも、命を賭けてでも否である。

 終わり行く世界には資源が無数に存在していると一喜は見ていた。多くの人間が死に、産業のほぼ全ても死んでいる状態なら此方側よりもまだまだ多くの資源が眠っている可能性が高い。

 それを権力者達が知った時、彼等は終わり行く世界を助けずに自社の為に異世界の資源を盗みに向かう。


「そうなったら向こうの荒れ具合が加速するだけだ。 余計に人をゴミみたいに消費して、きっと大きな争いに発展する」


 怪物相手であれば人は勝てないと膝を屈するだけだったが、人相手であればまだ何とかなるかもしれないと異世界人は動く。

 世界中でこれまで静かだった場所でも争いが巻き起こり、人の消費が更に加速していく未来は簡単に脳裏に描けた。

 そして、異世界人は原因を探って最終的に一喜に行き着くだろう。一喜を諸悪の根源として此方側の権力者も同様に扱い、晴れて彼は世界のラスボスに成り果てることとなるのだ。

 

「そうなったらもうドアを破壊して逃げるしかないな。 いや、破壊した程度で繋がりが無くなるかは解らんけど」


 兎も角、一喜は最悪を想定して回避しなければならない。

 その為ならば同行人が死ぬことも材料とし、如何に手を出すべきではないかを考えて諦めてもらう。

 

「あいつの時は回避することばかり考えていたが――」


 逆に今度は、直接ポシビリーズの怪物達に襲われる方が良い。

 何時もならば嫌も嫌だったが、今回は交渉材料として使える。一喜自身もピンチに追い込まれるようになれば同行人も危険だと強く綱吉に知らせてくれるだろう。

 となると、メモ帳に書くべきは半端な考えではない。寧ろ苛烈を極めた予定を書いた方が都合が良い。

 そうと決まれば、指は自然とキーボードの上で踊り始めた。

 最低限必要な持ち込み品に、ベルトと使うべきカード群。当日のルートも決め、なるべく長距離を巡ることで危険度を引き上げる。

 怪物が出なければ人間を使うまでと次善策も用意して、一度踊り出した指は三十分も止める様子も見せなかった。


 そうして出来上がった文面は、この世界に来たばかりの人間にはいっそ残酷とも呼べるルーティングだ。

 綱吉は間違いなく肉体的に優れた人間を選ぶだろうが、そんなことなど関係無しに精神的に地獄に突き落とす。

 辛い出来事に人間の精神は然程耐えられない。如何に自分は大丈夫だと胸を張って宣言したところで、実際の地獄を目の当たりにすると確実に弱っていく。

 己では気付かないレベルで精神疾患が起きれば、それを指摘して強引に戻すことも出来る。少なくとも異世界ならばメタルヴァンガードの力で強引に物事を進めることは可能だ。

 

「――これで、まぁ諦めてくれるかな」


 確信はしきれないが、出来上がったそれに一喜は頷いた。

 これで向こうからの追加情報が無い限りは変化するつもりはない。このまま事態が進んでくれるのを願い、一喜は次に通販サイトのページへと進んでいった。

 傍らに置かれている携帯が振動していたことには気付かず。集中し過ぎた弊害が次の日に襲い掛かることを、今の彼は解っていなかった。

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