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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第八十一話】その男、やっぱり追い詰められる

 なんでこんなことに。

 その類の感情に一喜の胸中は支配されていた。

 一喜は何も悪いことはしていない。殺人自体はしたが、それは全て誰かを助ける為の行いだ。場所毎に武力によって制圧するしかない状況で、誰かを殺さない選択を取ることは困難に等しい。

 嘘を吐いたことだってなるべく平和な世界を知覚させない為だった。今でこそ異世界はあると告げたものの、そうなる前までは彼等は異世界があるとは思ってはいなかったのだ。

 いや、それは今も変わらない。けれど、何れ証拠が勝手に姿を現して彼等は信じることになるだろう。

 双方の世界で異世界が存在することを知る人間がこれで現れてしまったことになる。更に第三の世界もあるとなれば、一喜は最早頭を抱えたくなってしまった。


 とはいえ、現状はそうはいかない。

 元の世界である此処では一喜は着装を行えない。メタルヴァンガードになれば潜り抜けることが出来る状況でも、それが出来ないのであればまったくの無駄だ。

 一喜の手持ちの荷物など、着替えずにそのままの私服と窓から抜ける際に無意識にポケットに入れておいた財布と携帯くらいなものである。

 気付いたのは車の中で、メイドや沢田も腰の膨らみには気付いていただろう。

 

「では、異世界は実在すると?」


「確かに。 言葉だけでは信じ難いでしょうが」


 嘘を嘘のままにしておきたい身なのが現状の一喜だが、しかし此方側で拘束されるような事になるのは御免被りたい。

 相手は大企業の幹部。縁故採用によるいきなりの幹部ではなく、確りと功績を積み上げた上での幹部昇進であればどれだけ警戒したとしても足りはしない。

 言葉一つが彼の逆鱗に触れるし、逆に綱吉を異世界に進出させる気にしてはいけない。

 彼が知ることになるのなら、十分に危険を伝えた上で沈黙を貫いてもらうようにするまで。その為の材料を一喜は知っている。

 

「……そうだな。 いきなりそれがあると言われても、先ずは証拠を見ねば何も始まらない。 悪いとは思うが、その証拠を提示してもらうことは?」


「出来ますが、映像として残してある部分は少ないので納得出来るかは解りません」


「構わない。 無理を言っているのは此方だからね」


 無理を言っていると一喜と同年代程の男は告げるが、それが真意ではないのは瞭然だ。

 内心悪態を吐きつつ、携帯を起動させて複数の動画ファイルを呼び出す。

 見せるのは記録として残す為に以前に撮っておいた動画群だ。ただの情報の一つとして使うつもりだったそれがこうして使われることになるとは予想していなかったが、この中身が普通ではないことは一喜が一番よく解っている。

 起動させた状態で携帯を綱吉の前の机に置くと、彼は視線を落した。

 そこに映るは壊れ果てた建物群。夜の動画と昼の動画の二本が流され、一喜が映す破壊された痕跡が強く残る地域に眉が顰められた。

 人の姿は見えないが、標識や看板は日本語だ。これが外国ではないことは随所に見受けられ、拉げた車も外国産ではない。

 

「……これは、何処の地域なんだ?」


「貴方の妹、それに私が現在住んでいる場所です」


「――ッ!?」


 そこが生活の出来ない場所であることは一目瞭然だった。

 綱吉は妹の安否を確かめる為に調査の手を伸ばし、平和な地域であることを確りと調べ尽くしている。

 そこは綱吉が聞いた街ではない。だが、一喜が言うことが真実であるならば綱吉が調べた街なのだ。

 加えてこれが証拠となる要素として、破壊された街の規模がある。

 映像が映す限り、建物は遠くまで破壊されていた。立て直しを図る重機の音は聞こえず、そもそも人の声すらも携帯のマイクは拾っていない。

 普通、破壊規模が大きい街はニュースで取り沙汰される。そうでなくとも、政治的に救済策が発表される筈だ。

 本当に一喜が語った通りであれば、連日報道されてもおかしくはない。

 あそこは山の中である訳でも、畑しか無い完全な田舎ではないのだから。


 動画の時間は十数分程度しかなかった。

 終わった後には無言が続き、綱吉が箸を持つ手は完全に静止している。

 一喜を前に思考しているのは確実だ。嘘だと言い放ち、証拠も碌な物が無いだろうと高を括っていたからこそ、極めて精度の高い映像に考えねばならなかった。

 これは本当に嘘なのか。それとも真実なのか。

 映像だけで全てを鵜呑みにするのは危険だ。これを更に進展させるには、今一つ重要な現実味が欠けている。


「映像、有難う。 素晴らしく精度の高い物だったことを私は認めるよ」


「そうですか。 ですが、これだけで真実であるとは思っていませんよね?」


「勿論、流石にな」


 綱吉は敢えてこれだけでは信用には足らないと伝えた。

 一喜もまたそれに同意し、それで良いのですと彼の思考を称賛する。


「この映像を見て信じるようであれば、言葉は悪いですが妹さんの語るような人物ではないと確信しておりました」


「そんなに望愛は私のことを持ち上げていたのかい?」


「それはもう。 彼女にとって、頼れる相手とすれば兄である貴方だけです」


 妹とは積極的に遊ぶ間柄ではなくとも、険悪にならないように努めてきた。

 心からの感謝は記念日に言葉でもって望愛は綱吉に聞かされてきたが、彼自身はそれを何処か世辞のようにも受け取ってしまったのを覚えている。

 だからこそ、赤の他人にも同様に自身の兄は素晴らしいと語ってくれるのは胸が暖かくなるような気持ちだった。気恥ずかしさすらあると言えよう。

 僅かに柔らかくなった相貌を見て、今が好機と一喜は口を動かす。確信部分に至ってはおらずとも、これで大人しく解放してくれるだけの条件は整った。


「なればこそ、妹さんの言葉に頷いてはいけません」


 相手に証拠になるかもしれない程度の情報を与え、妹が抱える兄に対する本音を暴露する。

 望愛についてのパーソナルな部分についてはある程度把握していたが、兄である綱吉については言葉を拾いながら予測していた。

 本当に彼は彼女が語るような人間なのか。もしかすれば、彼は彼女に対して隠している部分があるのではないかと。

 果たしてそれは、一喜自身の思い込みに過ぎなかった。

 確かに社会に挑む怪物としての気配は感じるが、今はプライベートな部分を前面に押し出している。

 これが崩れることは無いだろう。綱吉は本音で妹のことを想い、優しい兄であろうとしている。


「なに?」


「異世界は非常に危険です。 関与するには細心の注意すらも足りぬ警戒が必要になります。 既存の兵器では通用しない怪物も闊歩する場所に妹さんが降り立てばどうなるか――想像するに容易いでしょう」


「……それは、その通りだ」


 彼の思考を誘導するなら、それは妹である望愛を起点とするのが一番簡単だ。

 下手に損得で計算するよりも感情によって揺さぶる方が効果的で、これならば押し切れると一喜は更に言葉を重ねる。


「世界は荒廃しています。 人々の人間性も暴力に傾いておりまして、問題が発生しても結局暴力で全てを解決する傾向が強いです。 仮に貴方が妹さんの望みを飲んで行動したとして、少なくない被害が出るでしょう」


「それほどか? 君の話を鵜呑みにするなら、まるで蛮族のような存在に思えるが……」


「蛮族に毛が生えた程度だと思った方が良いかもしれません。 何せ貨幣価値も滅んだ世界ですので、結局は自然界の弱肉強食をダイレクトに適用させているんです」


 若干言い過ぎな気分が拭えないが、異世界の者達が喧嘩っぱやいのは事実だ。

 怪物達も半ば自由に活動している。武力が無ければ少なくとも街で暮らすことは不可能だ。

 不安を煽り続ければ、兄としての面を出している綱吉は表情を曇らせる。

 危険な世界だとは望愛から聞いてはいるだろう。それでも、彼女は実際に戦う場を見た訳ではない。

 真に戦ったことがあるからこそ、一喜の言葉の方が重みがある。

 このまま進めば綱吉は一喜の言葉に頷くのではないか――――そう期待するが、一喜は家族の願いというものを甘く見ていた。


「……あの動画を見た以上、君の言葉の全てが嘘だとは思い難い。 もし全てが真実なら、望愛の望みを聞くことは難しくなるな」


「そうでしょう」


「――だが、最後の一押しが欲しいのが本音だ。 私に異世界とやらを見せてはくれないか」


「え?」

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