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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第七十八話】その男、強制接触される

 陽が昇る。

 帰って寝た後に日曜を迎え、一喜は朝一番で荷物だけを纏めておいた。

 廃コンビニに荷物を置く以上、入れ物はあの世界でも違和感の無いものが良い。その為、普段使いのリュックの中に食料を入れておいた。

 更には彼等なら使えるだろうサバイバルナイフに、テント購入時にサービスで送られてきていた補修部品も入れ、最後に職場で買っておいたノートの一枚を千切って第一物資とだけ書いてリュックに収めた。

 まだ種は届いていない。種自体は安いものの、数を揃えるとなれば必然的に時間が掛かる。

 明日には到着するような便利なサービスも存在するが、一喜は無料で使える輸送手段のみを使用していた。

 準備を進めていれば、自然と時間も経過する。重い荷物があることも合わさり、早めに動いておかねば折角別れた世良達に接触することになってしまう。


 重い荷物を鈍い音を立てながらテーブルに置き、そして背負う。

 両手で持つ分なら地獄だが、背負って運ぶのであれば比較的軽い。何時もの重量に息を吐き、そのまま玄関を開けて異世界へと足を向けた。

 そのまま廃コンビニへと向かい、室内にあるレジスターの置いてあるカウンター下に荷物を隠す。

 直ぐに見つかるような場所だと他の誰かが持って行きかねない。そうならないよう、簡単に見ては解らない位置にリュックを放棄し適当なコンクリートの欠片で姿を見えないようにした。

 

「今週は……休むか」


 身軽になった身体で空を見上げ、一喜は昨日の出来事を思い返す。

 異世界でも現実でも厄介事は訪れた。片方は取り敢えず物資を送り続ければ問題無いとはいえ、今度は現実側で対処しなければならない問題が発生している。

 どうしてこうなったのかなんて今更考えるまでもない。

 兎に角、件の兄とは一度話をしておかねばならなかった。なるべく穏便に、なるべく笑い話で終わるように。

 アパートの扉を開け、自室に戻って一喜は何時電話をすべきかと頭を悩ませる。

 

 昨日の一件によって糸口とは会話が難しい。仕事になれば事務的な会話は出来るであろうが、流石にプライベートなことはもう不可能とも言える。

 場合によってはどちらかが辞めるかもしれない。その場合、糸口が辞める方が確率が高い。

 一喜は今のところこれしか考えていないので辞めるつもりはなかった。もしも辞めるとするならば、もっと旨味のある職場を見つけてからだ。


「はぁ、静かな時間が今は癒しだ」


 布団も敷かず、床の上に寝転んだ。

 周りは静かなもので、少なくともいきなり近くで車やバイクのエンジン音が聞こえてくることはない。

 この近辺には主婦も住んでいるが、建物の壁が近所の井戸端会議の音を遮断してくれる。

 ただ静かな場所で、安心感に包まれながら日々を過ごせるのは随分と久し振りにも感じられた。普段から職場の後で寝転ぶことも多いのに、どうしてか平日よりも安堵感が強いのだ。

 その理由をぼんやりと探って、ああと彼は見つける。


 ただ単純に、あまり異世界についてを深く考える必要が無くなっただけだ。

 関わり合いを避ければ残るのは自分だけ。あそこに自分の情報は殆ど存在せず、あの街から出てしまえば世良達では消息を掴めない。

 怪物やオールドベース達が邪魔をするかもしれないが、ただ倒すだけで良いのならば気楽だ。

 何かを作るよりも、何かを破壊する方がよっぽど簡単である。その後元に戻らないとしてもだ。

 ゆっくりとそのままの体勢になって、しかしはたと別の思考が間に挟まれる。

 何かをしている時は邪魔は入り辛かったが、気を抜く場面があると何時も何かしらが発生していた。


 慌てて起き上がり、机の上に置かれた携帯を見る。

 未だ未着信の情報は載っていない。扉に耳を当てても誰かの足音は聞こえてこない。

 窓の外は快晴が広がり、街行く人は普通に歩いているだけだ。誰かが一喜を見ていることはないし、誰かが一喜に連絡を差し向けるようなこともない。

 考え過ぎか。一喜は窓を閉めて苦笑した。

 そうだとも。そうそう何かが起きることはない。今が不安定だったとしても、直ぐに誰かが新しい厄介の種を運んで来ることは無い筈だ。

 心で何度も悲観的過ぎると一喜は自身の不安を吹き飛ばす。――それでも、しこりのようにその不安は取り除かれはしない。


 携帯の電源を切り、一喜はパソコンの電源も付けずにその場で布団を敷いた。

 何も無い何も無いと顔面は笑顔で固定され、逃げるように敷いた掛布団の中に飛び込んで外界から姿を隠す。

 今日は休み。来週の土日に動くことにしよう。

 自分で決め、一喜は意識を絶つことを選ぶ。そこに誰しもが憧れる姿は無く、ただただ情けなさだけがあった。

 目を閉じた彼は蓄積された疲労も合わさって直ぐに夢の世界へと旅立ち、そのまま夜に向かって一度も途中で目覚めることも無しに時間は過ぎていく。

 

 外は一喜に対して何も干渉をしなかった。

 インターホンが鳴ることも、窓ガラスが割れることも、謎の侵入者が現れるようなことも無く。

 彼の夢は静かなまま進んでいき、最も平穏な数時間を過ごしたのである。

 夢の途中で雷の剣を掲げる中世的な世界の男を見掛けたり、マッチポンプをしている屑男が見えたりもしたが、それらはさっと流されて一喜の脳裏には残らない。

 真に正しく、彼は清々しさすら感じる夜を迎えた。起き抜けに微睡みは無く、無意識に時間を確認する為に起動させた携帯は無事に時間を示すだけ。


 意識が覚醒してからは通話履歴を覗いて問題が無い事実に緩んだ顔を見せ、今日は大丈夫だと天秤は楽観に傾いた。

 ――けれども、忘れてはいけない。

 彼は自覚こそしていないものの、酷く不運な人間だ。彼の運の値がもし見えたとしたら、きっと十割中の一割くらいしか存在しないであろう。

 彼は生粋の不幸人間で、厄介事は何処からともなくやってくる。もしも縁が出来てしまったのであれば、尚更に問題事は襲い掛かってくるのだ。

 そこに昼も夜も無い。故に、安心しきった瞬間に玄関のチャイム音が室内に広がった。


「…………」


 石像の如く彼の身体は固まった。

 不気味な程静まり返った室内で、ただ驚愕を胸に抱く。

 再度、チャイム音が鳴った。次いで小さくノックの音すら聞こえ、間違いなく室内に誰かが居ることを見越しての行動だ。

 室内は真っ暗だ。まだ陽が上っている内に寝た所為で外からは電気が点いているようには思えないだろう。

 普通ならば居留守が有効だが、彼は扉の先の相手が居留守を見抜いていると確信していた。

 今は扉を開いても異世界に通じるだけだ。故に開けることは出来ず、かといってこの分では出なければ帰るとも思えない。


「やる、しかないよな」


 相手が誰なのか。

 それを今更考えることはしない。部屋の窓から外に出ると、途端に複数の視線を感じた。

 視線自体に悪意は無く、ただただ監視されているような視線だ。こそこそと行動しては逆に相手が動く機会を与えるだけだろう。

 静かに歩を進め、玄関外へと特に何も警戒していない風を装って向かう。

 街灯は今も灯っている。一喜の玄関は街灯によって照らされ、その下に居る人物を明らかにしていた。

 

「――確か、沢田さん……だったかな」


 玄関前に居たのは燕尾服の美人だった。

 肩口で揃えた黒髪に、クールで整った顔立ち。彼女は一喜が近付いていることに気付いていたのか、彼と視線を交差させて優雅に一礼をした。

 

「以前はお世話になりました」


「ああ、その話についてはいい。 別に礼が欲しい訳じゃなかったからな」


「そうですか。 ……では、此度の用件についても?」


「勿論。 まさかこんなタイミングで来るとは思わなかったけどな」


 肩を竦めてみせた一喜、沢田は冷酷な笑みを浮かべた。


「それでは此方へ。 御嬢様の兄君である綱吉様が御呼びです」

 

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