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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第七十三話】その男、崩される

 一喜の語ったことは、総じて全て証拠が無い。

 メタルヴァンガードそのものを証拠として使うことは出来るが、これは既存の技術とはかけ離れている所為で一般人には信じ難く見えてしまう。

 カードの存在も登場から長くなった。超常が日常になった時点で、変な機械が出てきても本能的な部分から疑心があまり浮かばない。

 物資が豊富であることも一喜が必死に集めていたとなればあまり信用に値せず、ただ純粋に感謝されるだけだ。

 よって、感謝されはしても流石に異世界が存在することを証明することにはならない。

 これを解消しなければ今の関係を継続するのは難しいが、そもそも一喜としては共同生活を送るつもりはないのだ。

 投資という面があったこと。善良な子供を見捨てるのかという良心が咎めたこと。


 加えて自身の本質が見捨てることを否定したことで、彼等との関係が生まれた。

 それを解消するには今回の一件は良い機会だ。物資が欲しいなら予め受け取り場所を指定しておき、そこに一喜が物を置いておけば良い。

 そこから子供達に回収させれば、接触せずとも支援を続けることは出来る。

 支援ロボットも既に購入した後だ。一喜自身の身を守るだけなら必要ではなく、故にこれも起動させて放置する予定である。

 管理者には世良と十黄が既に入っているので、命令を受け付けずに暴走することは意図的でなければ有り得ない。

 ある意味、これで一喜は本来のやりたいことが出来るようになるのだが――――大人の思惑など子供達にとってはどうでもいいものだ。


「嫌だ!」


「行っちゃうなんて駄目! ずっと一緒!」


 キャンプでの一件を終え、取り敢えずの話を切り上げた三人は倉庫の家に戻った。

 そこに戻っていた子供達に事の顛末を伝え、更に一喜が考えた設定部分も説明して離れることも伝えた。

 子供達には突然の話だ。まだ幼い子達には深い事情なんて解らず、故に助けてくれた一喜が安全な倉庫街から出て行くことを拒絶した。

 ズボンやジャケットの端を掴んで離さない子供達に一喜は困ったように笑い、その様を見ながら立道と瑞葉、烈は世良達に視線を移した。

 

「あー、どうするんだ? 結局」


「一応、俺は出て行くつもりなんだけど……」


 烈の問いに一喜は困ったような顔のまま告げるも、烈は首を左右に振る。

 

「いや、無理だろ。 子供達にも随分懐かれてるし、まだ本当か嘘かも解っちゃいない」


「烈に賛成です。 このまま追い出すというのは、些か早計な気がしますよ」


 この世界で怪しい人間と共同生活を送るのは難しい。

 平穏な世でもそれは常識だったのだから、余計に怪しい人間を傍に置くことは嫌な筈だ。

 世良や十黄のように一定の年齢に到達した者は世界の醜さをこれでもかと見せ付けられる。誰も彼もが信じられないような猜疑に身が包まれ、果てには真に信じられる相手に対しても疑心を抱いて一定の距離を取ってしまう。

 今回の場合、烈と立道の意見は甘いと言わざるを得ない。

 子供達が懐いているからといって根が善人である訳ではないし、早計だと結論を先延ばしにしている間に危害を加えられる可能性がある。

 子供達からは反感を買うだろうが、それでも隠していた部分があまりに荒唐無稽であるが故に一喜を信用することが出来ない。


「食料はこれからも渡す。 支援ロボット達もそのまま残す。 こんな最初の段階で俺達の間に不和が起きる訳にはいかない。 ……俺は離れるよ」


 子供達の頭を撫で、服の端を掴む手をゆっくりと剥がす。

 なおも子供達は服を掴もうとするも、そうなる前に一喜は離れた。


「世良、食料は例のコンビニに置いておく。 可能な限り昼に置いておくから、誰かに盗られる前に回収してくれ」


「――悪い」


「なに、確証の一つも持ってない俺が悪いんだ。 いいか、皆も責めるなら俺を責めろよ?」


「大藤パイセン!」


 さっさと別れの挨拶をして出て行こうとして、唯一この中で発言をしていなかった瑞葉が一喜を呼ぶ。

 視線を瑞葉に向けると、セーラー服姿の彼女は期待を込めた眼差しを一喜に向けた。


「あんなに食い物を用意出来るってことはッ、大藤パイセンが言ってることが本当ならッ。 そっちとこっちを行き来することが出来るんだよね?」


 彼女の問いに一喜は眉を顰めた。

 絶対に彼等はその可能性を思い付く。それを聞かれる前にそそくさと姿を消すつもりであったが、こうして質問をされた以上は何かしら言葉を吐くしかない。

 行けるのか、行けないのか。食料やテント等を持ち込んだ時点で解り切っているものの、それでも一喜は僅かな可能性に縋る。

 あの世界にこの世界の人間を連れて行く訳にはいかないのだ。絶対に。


「……残念、あれは俺が持ち込んでおいた食料だよ」


「嘘だね。 それなら世良パイセンにもっといい嘘を吐いてたでしょ。 本当は大藤パイセンもこうなったのは予想外だったんじゃない?」


 拗れたのは、一喜が碌に突き詰めずに考えた嘘が原因だ。

 この世界にはオールドベースのようなメタルヴァンガードを運用する組織が無いと判断して、更に接触するのも先の話だろうと予測していた。

 そのツケが結果的には最悪な形で払うことになり、一喜の稚拙な嘘に更なる嘘を重ねることにもなったのである。

 苦しい嘘だ。幾分か真実を混ぜたとはいえ、そもそも真実の部分でも嘘にしか見えない。

 故に、瑞葉の脳には直感が過った。

 一喜がこの世界に来たのは、所謂偶然に寄るものではないかと。


「話を聞いた限り、大藤パイセンと向こうの人間に面識が無かった。 あんな凄い技術を持ってるなら、神崎?って奴の事もそんなに驚かなかったでしょ」


「末端には情報が行き渡らなかった可能性があるぞ?」


「それ言ってる時点で違うって言ってるようなもんでしょ。 きっと向こうの人間と大藤パイセンは見知った間柄じゃなくて、此処にパイセンが居るのも予想外だった。 ――それに、水耕栽培をやろうって話は事前に決めていたことじゃないでしょ?」


 瑞葉は直感任せに確信であるかの如く語っている。

 その勢いに他の面々も飲み込まれ、自然と疑問の目を一喜に向けた。

 全員がその目をしている様子に、瑞葉が場を掌握したことは明らか。まさか彼女にこんな能力があったとはと内心舌を巻き、これでは完全に隠し通すのは無理だなと言葉を募らせる前に両手を上げて降参のポーズを取った。


「やれやれ、勘が良いってのは考えものだ。 知らなくても良いことまで知っちまう」


「その言葉、私の言ったことが本当だって認めるの?」


「そんな風に言われて嘘でしたって言っても信じはしないだろ。 ただでさえ俺の信用度は今急速に下落しているんだから」


 正解と最後に口にして、瑞葉の期待の目はますますの輝きを抱いた。

 更に一喜に一歩足を踏み出し、興奮を抑え付けるように深く息を吸う。何か大事なことを聞こうとしているのは明らかで、一喜には彼女が何を言いたいのかなど容易に想像がつく。

 食料を用意出来て、テントのような道具を容易く集められて、敵に対する豊富な知識を有していて、その敵を打倒する手段がある。

 となれば必然、瑞葉の脳裏に過るのは平和の可能性。一喜の用意するカードの数々を知れば、彼の世界が一体どんな場所なのかがある程度想像出来るのだ。


「大藤パイセンの言葉が全部本当だって思うつもりはない。 ないけど、それでも本当かどうか確かめさせて」


「具体的には?」


「私を――私をパイセンの世界に連れて行って」


 行き来が出来るのなら、一喜が暮らす世界を見せてほしい。それが本当に異世界であったのなら、それをもって一喜の言葉を信じることが出来る。

 瑞葉とてこの時点で一喜が半ば離脱するような形になるのは本意ではない。もしも完全に離脱されてしまえば、待っているのは以前よりも厳しい生活だ。

 地獄を見るくらいなら、嘘か本当に賭けて良い。彼女の言葉には確かな覚悟が帯びていた。

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