【第七十二話】その男、設定が膨らむ
「――さて、じゃあ色々話をしてもらうぞ」
一喜達とオールドベースの初接触は実に不穏な形で終わった。
班目達は手を出さず。一喜は矛を収め、男は神崎を回収してキャンプへと戻っていった。
最後に一喜が残した言葉。普段なら使わない意味深にも思える言葉は、実際のところ確かな意味を孕んでいる。
しかし、それを知るのはこの世界では一喜ともう一人だけ。そのもう一人が気付くかどうかで、オールドベースそのものも絶対に巻き込まれることになる。
キャンプの者達も戻り始めた。今後の食事がどうなるかと不安に感じながらも、両者の戦いは一喜の勝利によって終わったように見えている。
その所為で気落ちしている人間は多く、しかして一喜達側は厳しい視線を少しも解除しない。
特に世良と十黄は今後の生活をする上で幾つかの疑念が生まれてしまった。
オールドベースという存在。大藤・一喜という人間。これまで信じていたいと思っていた部分が、今回の事で罅が走った。
二人は知らねばならない。大藤・一喜とは何なのかを。
二人は確かめなければならない。助けてくれた行為を、本当に信じるべきなのかを。
別れ、三人はキャンプから離れた廃墟に入った。
壁が多く、まだ割れていない砂埃塗れの硝子がある建物は比較的綺麗だ。中は元々ジムだったのか、筋トレ用の器具がそこかしこに転がっている。
埃を被った室内に他に来訪者は零だ。二階部分も存在せず、元々の建物の規模もさして巨大という程ではない。
そこで三人の内、世良と十黄は一喜と向き合った。
表情は険しくはないものの、一喜の目には疑問の混じった真顔が映っている。
一喜は元々、自身をオールドベース所属の人間として偽っていた。それはあの場面をやり過ごす為の嘘であり、尾を引くことはないと考えていたのだ。
だが実際、彼等との関係は意外なことに長く続くことになり、故に一喜のついた嘘は一気に崩壊の兆しを見せた。
いや、元々その場凌ぎで用意した嘘だ。信頼性も耐久度もまったく無いのは必然である。
であればこそ、一喜は此処で二人に話した内容が一部真実であったと語る必要が出て来てしまった。そうせねば結局、全て騙していたのかとこれまでの投資が無駄になってしまうから。
「前提として言わせてもらおう。 ……俺がオールドベース所属であるのは嘘ではない」
「だとしたら、先の神崎という女との会話の内容はなんだ」
己に疑わしい部分は無い。堂々とした態度こそが、この場における正解だ。
一喜の前提に対して十黄は至極尤もな質問を返し、大藤・一喜という存在の正体を晒させる。
同姓同名の別人という線で納得することは出来ない。それをするには、一喜の持っている物と相手が持っている物が似過ぎている。
一喜自身も他人の空似であると言い訳をするつもりもなく、逆にあの兵器が出て来たからこそ言えることが出来た。
「大藤・一喜という男は過去確かに存在したのだろう。 俺と同様の装備を使い、当時の怪物達と真向から戦ったに違いない。 更に言うなら、当時のメンバーとの仲も良好だったんだろうさ」
「……? おい」
「しかし、当時の奴では機能の全てを把握することは出来ても使い切ることは出来なかった。 あれを持って来た博士自身、それを用意するのは不可能だったんだろうな」
遮る世良の声を無視し、一喜は語る。
見知らぬ他人の如く、同じ名を使って過去に起きたであろう出来事を彼は話した。
それは多分に予想が混ざったもので、言ってしまえば妄想の域だ。何の確証も無いが、しかし神崎の武装のお蔭で解ることもある。
「神崎の武装。 あれを見た時、二人は思ったな。 似ていると」
「それは、そうだが……」
「そうだ。 あれは似ていて当然で、逆に似ていない方がおかしい。 ――そもそもの始まりはあれを作った人物なのだから」
「さっきから何を言っているんだ、お前ッ」
二人が困惑していく。
静かに、そして確信を込めて放たれるワードの数々は二人には理解出来ない。
さながら独り言のように言葉を紡ぐ一喜の様子は一種不気味だ。何処か精神的病気を患っていると言われれば納得するだろう。
だが、一喜は狙って語っている。訳も解らぬ部分から語っていき、徐々に全てを繋げていく方が誰しも理解し易いものだ。
「昔からオカルトってのはあった。 UMA然り、古代遺跡然り、並行世界然りってな。 誰もが嘘だと信じて、けれどロマンだと思ったもの。 カードだってこの世界じゃ一緒だ。 誰も信じなくて、しかしロマンめいた逸話を有していた。 他のオカルトとの違いは――それがこの世界には無い物だってことだ」
「この世界……って」
「待て、一喜さん」
「いや、もう少し聞け。 カードはとある世界で研究されていた古代遺跡の産物だった。 他者の悪意を餌に、その時代に合わせた兵器をカードは再現する。 これが実用段階に至れば、如何なる国が相手でも負けることはない。 最初にそれを発見した二つの組織は、確かにそう思った」
オールドベースともう一つの組織。
古代遺跡を日本が管理する上で、運用すべき組織は二つでなければならないと当時のとある政治家は判断した。
カードは魔性だ。それ単体が起こす被害は予想しきれない程。
仮にどちらかが世界を手にする為にカードを使った場合を想定し、双方の組織による共同管理となった。
そして、その判断は間違いではなかったのだ。結局片方は裏切り、もう片方は組織が持って行ってしまったカードを回収する為に奔走することになる。
「敵が起こした事件は全て解決された。 巻き込まれた奴はオールドベースの他の隊員と協力して、犠牲を出しながらもカードを全て集めた。 そのカード達は今、オールドベースから俺に任せられている」
物語が全て終わった時、全カードをオールドベースは持っていた。
途中でカードが消えることは無く、故に一喜は二つの予測をしていた。
一喜の世界、メタルヴァンガードの世界、そしてこの世界。三つの世界以外に、他の世界から来ている奴が居る。
或いは、本編終了後のメタルヴァンガードの世界の人間が来ている。
この世界で怪物が現れたのは突然のことだったと、一喜は世良達から聞いた。ならば恐らく、その前に世界は繋がったのだ。
この世界と、カードを持った奴の世界が。
「オールドベース所属・第二戦闘部隊――大藤・一喜」
正式な所属名称に、世良と十黄はまさかと目を見開いた。
そんなことは有り得ない。所詮は空想の産物で、そのような事実が起こっていると理解するなど不可能だ。
「俺は並行世界の人間だ。 カードを集め、管理し、平和を維持する組織に所属している男だ。 そして恐らく、俺とは異なるもう一つの並行世界から来訪した何者かが世界を崩す原因を作り出した」
「……」
「……その話を、信じろと?」
一喜の練った設定は、正直に言えば杜撰だ。
信じるに足る証拠は少なく、半ば言葉の圧だけで一喜は両名に予測を騙るだけ。世良と十黄ではそんな勢い任せの言葉では崩せない。
だから、狙ってもいなかった布石っぽいものを此処で利用することにした。
「この世界で食料を用意するのがどれだけ難しいのかは解っている筈だ。 テントだけならまだそこら辺を漁れば出て来るかもしれないが、食料をある程度揃えることがどれだけ難しいかは二人にも解るだろ?」
「……確かに、それはそうだが」
「それにお前達が信じてくれなくても構いはしない。 向こう側が俺のメタルヴァンガードに近い兵装を持っているのなら、必ずあっちから接触を図るだろうさ。 最初にこっちに来た奴がな」
「それって……」
「この世界にカードを持ち込んだ者。 恐らくオールドベースを作り上げたのは、その人物だろうよ」
この世界に何故オールドベースと呼ばれるメタルヴァンガード世界の組織の名前があるのか。
この世界に何故メタルヴァンガードが使えるようになっているのか。
全ては相手が接触することで解るだろう。その時が来るのは――――近い。




