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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第四十七話】その男、予想の外に放り込まれる

「本当に、無事で良かったです」


 一喜と同様、立道は床に正座の状態で涙ぐんでいた。

 入って早々に彼は一喜の無事な姿に大喜びし、次の瞬間には眉根を寄せて謝罪の体勢へと移行したのである。

 その感情の上下の激しさには一喜も苦笑するしかなかったが、彼の肩を軽く叩いて気にするなとだけ答えた。

 多分に優しさを込められた言葉に立道は大泣きを始めそうになるも、十黄が軽く咳払いをすることで力を込めて引っ込める。

 この場に居るのは一喜だけではない。仲間に無事な姿を見せる為にも、立道は見知らぬ二人についてを知っておかねばならなかった。

 

「で、何が起きていた? 面倒な案件でないと良いんだが」


「ああ、その点については安心してくれ。 ――かなり面倒な案件だ」


 一喜は自身に集まった情報を惜し気も無く全て開示した。

 戦った怪物達の正体や、キャンプを運営している理由。その結果として解った、現在人類が絶滅を免れている理由も全て。

 長くはないような話だが、それでも事前情報を知っている側と知らない側では理解に大きな差が生まれる。

 カードの性質まで説明する必要がある以上、どうしても一喜が口を開ける時間は長くなった。

 時間にして三十分は喋っただろうか。一喜を除く全員が驚愕と憤怒を抱く様を見やり、さてどのような言葉を述べるのかと言った張本人は内心身構える。

 

「じゃあ何か、私達は全員家畜だってことか?」


「奴等の認識ではそうなる。 連中は意図的に集団を作り上げ、牧場のように管理して食料を供給しているようだ」


「そして、その集団から離れた人間は奴等の排除対象になる。 これまでキャンプを襲ってこないのは不思議でしたが、まさかそういうことだったとは……」


「――ふざけるな」


 世良は怒りを抱きつつも、まだ頭を冷静に回していた。立道は怒りよりも納得の方が強く、そして十黄は目に見えて怒りに腕を震わせている。

 コンクリートの壁を叩き、瞳には憤激を宿らせ、敵に対する恨みを明確に露にしていた。

 その気持ちは当然のものだ。侵略者として敵は存在していたが、彼等は全てを滅ぼして自分達だけの国を作った訳ではない。

 現地の人間を人から動物へと格下げし、各地に大規模な牧場という難民キャンプを構築した。

 既存の存在を冒涜して、その上で好きなように振る舞う。殺されることが最後の救いにもなる世界において、今の人々はその死すらも勝手にされてしまった。

 酷い侮辱だ。酷い暴挙だ。人を人とも思わぬ所業は、最早同じ人間だったとはとても考えられない。 


 何よりも、最初の段階で死んだ人間はその殆どが間引かれたようなものだ。

 挑む者を殺し、足掻く者を蹂躙し、不屈の人間を破壊する。その中には彼等の家族も含まれている筈で、精神的強者であったからこそ最初期の段階で皆殺された。

 無差別ではないのだ。敵の中には蹂躙を喜ぶ者も居たであろうが、全員に命令されたのは心を折ること。

 諦めろと言われ、無惨な死体をばら撒いて、そして愉悦にせせら笑う。

 ああ、なんと腹立たしいことか。なんと納得のいかないことか。――――なによりも、自分が弱者だから生かされているなど到底理解したくない。


「俺が弱いってか、世良が弱いってか。 弱いから、生きててもいいだと?」


「…………」


「ふざけんなよッ。 馬鹿にするんじゃねぇ!」


 静かに荒げた声には嚇怒が籠っている。

 十黄が怒りを抱くのは当然だ。世良や立道とて、そのように敵から見られている現実に怒りを持っている。

 しかしだ。現実問題として、一喜を除いた面々に敵と真正面から戦うことは不可能である。

 唯一対抗可能なのは世良ぐらいなもので、それも犠牲ありき。自身の肉体が完全に戻らなくなることを許容するのであれば、敵と戦うことまでは可能だ。

 しかし、それは戦闘の土俵に立つことが出来る程度。勝敗についてまでは考慮されていない。

 

「……大藤さん、聞いても良いか?」


「なんだ」


「このまま納得したくはない。 ――例の機械、俺達でも使えるようにならないか?」


 彼等が怪物とまともに戦えるようになるにはどうすれば良いか。

 回避すべきリスクを最大限回避した状態で、どうすれば継戦能力を維持することが出来るのか。

 諸々考えれば、十黄が辿り着く結論は一つだけ。そして、それは世良も一喜も当たり前の如く到達している言葉である。

 しかし、一喜はその言葉に対して溜息を吐いた。半目を彼へと向け、静かに断定的に話す。


「使えるようになるかならないかは実際に使ってみないことには解らない。 だが、前にも言ったように俺はお前達とは関わり合いにならないと決めていた筈だ。 まさか俺の言葉を忘れた訳じゃないだろ?」


「覚えている。 覚えているが、こんな話を聞いた後じゃ撤回せざるをえない。 ……なんとか聞いてはくれないか」


「悪いが応えることは出来ない。 そもそもこれは一つ分しかないしな」


 内ポケットに入れていた機械を取り出す。

 ベルトや腕に巻く機械は全て一つ分しか手元に無い。帰れば追加は出来るものの、そもそもこれを使えるかどうかは運次第な面が強い。

 ベルトが原作通りになっているのなら、使えるのは適合者だけだ。半適合までであれば一つ手があるとされているが、それは設定の中にしか存在しない。

 劇中に登場したメタルヴァンガードの着装者は、過去に話の中で出て来たか適合者しか存在しなかった。

 故に、そんな細かい部分までを適応出来ているのか。それが一喜にとって簡単に渡せない理由であり、同時にこれを使うことで何か勘付かれるかもという不安があった。

 

「兎に角、お前達は俺と関わるのを止めろ。 静かに暮らしていれば最低限生きることは出来るだろうさ。 この周辺はキャンプの主達のテリトリーでもあるしな」


「既に二回他所の奴と戦ってるけどね」


「……」


 冷静な世良の指摘に一喜は口を噤んだ。

 確かに既に二回、キャンプの運営をしていないだろう存在と一喜と世良は戦闘を経験している。

 此処が班目のテリトリーになっているとはいえ、怪物が倒される事態となれば向こう側も確認せざるをえないのだろう。その結果班目達が運営に適しないとなれば、銃の乙女のように頭を挿げ替える程度の真似は確実にする。

 この街で敵側にとって異常なことが起きるのは本意ではないのだ。敵も安定性というものを欲していて、だから怪物が一体も二体も同じ街で倒される現状を僅かながらにせよ憂慮している。

 他の街で倒されている怪物が出現しているのも影響しているだろう。一喜が嘘を吐いた組織が実際に怪物を倒しているのは世良達も聞いている。


「あんたは関わるなって言った。 それはきっと、あんたなりに私達を守りたかったからなんだろう? あんたの周りではこれからも危険なことは起き続けて、きっと今日みたいに倒れることも多くなる。 いや、もしかしたらあんたが死ぬなんて事態になるかもしれない」


 実際は異世界人であることを悟られるのが嫌なだけである。


「でもね、ここまで怪物を倒せば向こうも黙っちゃいない。 必ず相手を見つけ出して全力で打倒する。 そうしなきゃ奴等は奴等のメンツを保てない」


 彼女の言葉は正しい。一喜とて、ここまで虚仮にされているのは奴等にとって噴飯ものの筈だ。

 故に、彼女が次に何を発するのかも解っている。そして、それを了承しない限りはこの説得は永遠に続くであろう。


「私達は私達で団結しなくちゃならないんだよ。 その為に、どうかあんたに力を貸してほしい」


 無理で無謀。その上で、生きていくには相手を上回なくてはならない。

 彼女は決意を宿した瞳で、一喜と確りと顔を合わせた。

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