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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第四十六話】その男、合流を果たす

『――お前の所為で我が社には多大な損害が出た。 責任を取ってお前にはこの会社を辞めてもらう』


『そんな! 部長、あれをしたのは私ではありません!!』


『黙れ! お前がそれをしたという証拠は全て揃っている。 多数の証言とお前が関与した書類の数々をどうやって捏造するというんだ』


『それは……』


『まさかお前は会社ぐるみで追い込みをかけているとでも言うつもりか? もしもそう語るのなら、此方も出るところに出るが』


 光を反射する床に、無機質な六本の蛍光灯。

 実用一点張りの白い机が置かれた部屋の中で、顔を向き合わせる形で座っている二人の男が居る。

 共に黒のスーツを身に纏い、壮年の男は若々しい男に激怒していた。新人のような男は必死になって壮年の男に何事かを語るも、当の本人は自分の語る全てが間違いではないと確信を抱いている。

 机に広げられた書類は新人も目にしたことがあるものだった。だが、それら全ては期日が目前の状態で押し付けられた失敗確実な仕事だ。

 押し付けた上司は会社の中でも確固たる地位を築き、それなりに注目を受ける人物だった。


 信用も信頼も向こうが上で、こんな事が起こる前では新人の男もその上司を慕っていたのである。

 だからこそ、ある日突然に二人きりの場所で仕事を押し付けられた時には面食らった。どうしてこんな荷が重過ぎる仕事を押し付けるのかと、相手が目上の人物であることも忘れて食って掛かった。

 それに対する上司の返答は、目を逸らした上での謝罪だけだ。

 上司は罪悪感を覚えている。それを抱えた上で、社会で生きていく為に失敗するだろう仕事を会社に入って数ヶ月の新人に責任を取らせることにした。

 二人の意見を受け、会社は独自に調査を開始。結果として出て来たのは上司に有利になるものばかりで、最終的に新人はクビになった。


 その頃には彼の目に生気は無く、身体は痩せ細って枯れ枝のようだった。

 目に映る人間全てが敵のように見え、そんな世界から逃避する為に最初の一ヶ月は部屋に籠り切りだったことを――――大藤・一喜はよく覚えている。

 会議室と呼ばれていた部屋がガラスが割れるように砕けた。今見ているものが夢であることを直ぐに自覚して、割れた後の暗い世界に目を向ける。

 上も下も、右も左も解らない空間。気絶するような形で意識を落した彼が到達したのはそんな場所で、けれどこういった経験が無い訳ではない。


「……嫌なもん思い出したな」


 苦笑が空間に響く。

 暫く歩き続け、何時までも終わらない光景に懐かしさを覚える。

 トラウマとなったあの頃より、寝ても覚めても記憶は彼を責め立てた。あらゆる全てが敵となるような感覚で元の純朴さは失われていき、新たに構築されたのはより社会に適合した歪みつつも強靭な心。

 即ち、人など所詮は屑同然。信用するのは愚かで、信頼するのは馬鹿だ。

 仮に信用をするにしても、監視の目は必要不可欠。常に動向に注意しつつ、使い切ったら捨てるようにしなければならない。

 そうなってからは何処かの会社に所属する行為を酷く嫌悪するようになってしまった。

 他人に何か仕事を任せたくない。自分の仕事は自分の内で完結するようにしたい。

 知らない内に何処かの誰かの失敗に巻き込まれるなど面倒だ。だから、フリーターという存在は彼にとって都合が良かった。


 此処は彼の頭の中。脳が見せる想像の領域であり、故に手っ取り早く目覚める為に適当な扉を作る。

 イメージ通りの鉄の扉を開ければ、暗い闇のような世界に光が零れた。

 同時に誰かの声がして、何者かが傍に居るかもしれないと気を付けながら扉を潜る。

 意識の復活は唐突だ。微睡みなど無く、突然覚醒して頭は即座に回転を始める。

 最初に見えたのは罅割れの目立つ天井だった。剥き出しのコンクリートの天井は此処が異世界であることを表し、今まで無防備な姿を晒していたのだと理解させられる。

 起き上がろうとすれば、肉体には酷い倦怠感が襲い掛かっていた。身体に怪我らしい怪我はないものの、少なくとも何時も通りに動くことは難しいだろう。


「……」


「……」


 顔を横に倒し、瞬間黒い瞳と目が合った。

 少し前に見たことがある黒い髪を一房に纏めた美貌の主。この世界で出会った比較的年の近い女性の一人である世良は、彼が目を覚ましたと同時に身体を硬直させていた。

 別れてから、彼はもう二度と彼女と会うつもりはないと言っていた。それを彼女自身が破ることを決めていたとはいえ、実際に顔を合わせてしまうと何を言えば良いのか解らなくなったのだ。

 無事を喜べば良いのか、心配すれば良いのか。何が起きたのかの詳細を尋ねるべきなのか、それとも此処から居なくなってしまうべきなのか。

 決めたとて実行に移すのは難しい。そんな彼女の内心の悩みに気付かず、一喜は周りを見渡した。


 場所は最後に横になった廃墟ではない。

 それよりは確りとした作りをしていて、けれど見覚えは皆無だ。

 つまり知らない建物の中に居る。近くには他に世良達の荷物が置かれ、彼等が此処を一時的かは知らぬが拠点としているようだ。

 端的に情報を集め、残るは世良との直接の対談。最初に何を言うべきかを考え、一先ずは無難な滑り出しを決めようと口を開けた。


「お前、どこで俺を見つけたんだ」


「え? ……あ、ああ。 実は私達が暮らしてたところに突然爆音が届いてな」


 突然の質問に面食らうものを覚えつつ、彼女は素直に状況の説明を開始した。

 住んでいたコンテナ倉庫に爆音と衝撃波が届き、原因を調査する為に現場に赴いて被害の度合いに驚愕した。

 付近にはそれを起こした人間は居なかったので現場から離れようとしたが、その際に一喜を探しに来た立道に遭遇。何故一喜を知っているのかを聞き、これまでの経緯を知って三人で捜索を開始した。

 そして三時間程掛けて世良が診療所内の廃墟で横たわっている一喜を見つけ、三人でコンテナ倉庫街の近くにある目立った傷の無い廃墟に運び込んだという形だ。


「お前が倒れてる姿を見た時は血の気が引いた。 実際に顔色も最悪だったし、このまま目覚めることはないかもしれないと考えたくらいだ」


「それは……まぁ」


「……外で十黄と立道が見張り番をしているから、直ぐに呼んでくる。 今後の事を決めるにせよ、今は身体を休めてくれ」


 一喜の傍で正座をしていた世良は立ち上がり、そのまま部屋の扉を開けて外へと出て行った。

 一人となり、一喜は硬い床の上で胡坐を掻く。動かなかった足が動いたのは素直に嬉しいものの、喜んでいられないのが現状だ。

 偶然とはいえ、一喜はこの世界の真実の一端を知った。人類が滅ぼされることは怪物が一喜の知る怪物である時点で消え、しかし継続して厳しい生活を強いられることがほぼ確定となっている。

 キャンプと積極的な交流を持とうと思わなかったのは正解だった。あそこで迂闊にキャンプの人間と関りを持てば、強制的に厄介事に巻き込まれることになっただろう。


 あそこは怪物達にとって牧場も同然であり、そこに住まう人間からミルクを絞るかの如く悪感情を集める。

 故にキャンプの雰囲気は最悪そのもので、彼等が頂点に居座る限りは明るくなりはしないだろう。かといって解放する気は一喜には無く、撤退してくれたのであれば関りを断つのみである。

 向こうももう一喜と会うことは考えない。キャンプの継続に集中するか、あるいは移住を考えて行動することになるだろう。

 街はまだ静かなままだ。余計な人間がやってくる要素はあの戦闘によって残されてはいるものの、直ぐにどうこうはならない。

 

「一先ずは越えたってことかな」


 突然の山場だったが、乗り越えることが出来たのは良かった。

 一喜は安堵して、深く息を吐き出したのだった。

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