【第四十二話】その男、無理をする
【Let's Party now!】
【Mobile! Fighting! Destruction!】
【TRIPLE ACCESS!!】
右腕の機械から、一喜自身のベルトから、戦闘機と戦車とパワードスーツが赤光から生まれ出る。
戦闘機は大空を。戦車は破壊された街中を。パワードスーツは建物の屋上から屋上へと。各々が自由に動き回り、しかし一喜の居る地点から過度に離れるようなことはしない。
赤光を纏った状態で戦車は砲を放つ。赤い砲弾は班目を狙い、狙われた当人は咄嗟にレールガンで弾こうとするも軌道が逸れる様子は無い。
直ぐに直線上から離脱し、砲弾は真っ直ぐに付近の建物を吹き飛ばした。
続いて大空より戦闘機が飛来して機銃を放つ。一発一発は大した威力を持ってはいないものの、一度受ければ防御で足が止まるだろう。
そのまま連続で受け続ければどうなるか。想像するに易く、故に班目は連続して回避に徹するしかない。
しかし、彼の回避した先には何時の間にか赤いパワードスーツが居た。頭部の無い服だけのパワードスーツは腕を振るい、逃げ込んだ直後の班目の脇を殴り飛ばす。
『っく……!?』
班目は驚愕した。
こんな現象もそうであるし、発生した存在がどれも明確に敵意を持っていたからだ。ただの人間なら一喜が操っているのではないかと思えるが、化け物の超感覚がそれを否定している。
あれはそれぞれ別の感情を有していて、そのどれもが班目を倒さんと殺意に燃えていた。
けれど、その三つは途中で攻撃を止めて一喜にへと向かっていく。
三つの兵器は再度赤光の塊へと変じ、彼を守る鉄壁の鎧となって張り付いた。
鋼の翼、鋼の巨砲、鋼の肉体。
一本角も含めた全てが鋼の色に染まり、それでも赤いバイザーだけは染まらない。己は兵器ではないことを示す為に、血潮が如き赤のバイザーは輝きを増して対怪物に向けた決戦兵装として機能する。
戦闘機としての姿よりもマッシブさを重視し、されど重戦車と呼ぶには些か中途半端な細さ。背部には飛行用の翼と大型化したブースターが装着され、腕や足の各所に砲門が複数付けられている。
両腰のライトガトリングは消え、代わりとして両肩には機銃が一つずつ。
全体的に火力が増えはしたものの、その分だけ重量が増した形だ。
【Mounting! Metal vanguard・Try wonder!!】
あらゆる関節から白い蒸気が噴き出し、鋼色に戻ったことで全ての工程は終了した。
その姿、放たれる圧――全てがポシビリーズに属する者の記憶にない。
生物的要素がまったく存在せず、残るは兵器としての側面のみ。鎧を身に纏った騎士を彷彿とさせる姿は、一見するととても格下には思えない。
とはいえ、驚くのは僅かな間だけだ。班目は直ぐに驚きの感情を内に引っ込め、だらけた姿勢のまま余裕を露にし続ける。
『ちょっと驚いたね。 まさか複数のカードを使えるなんて』
『お前達には出来ない芸当だろうな』
『まったくもって。 基本的に一人一枚が原則なのに、君はそれを無視して複数の物を同時に使っている。 ……その機械のお蔭だよね?』
人間一人が扱える限界は一枚のみ。
適性という意味でも、肉体的な強度という意味でも、普通の人類が運用可能なのは一枚のみだ。
それを複数使うとなれば、やはり外部要因が必要となる。この場合は一喜が使用した二つの機械が原因であり、班目は負担を減らす役割があるのではないかと内心で短く予想を立てた。
実際はまったくと異なるが、相手に誤解をさせておく分には一喜にとって有利だ。
故にさぁなとだけ返し、次の瞬間にはレールガンとレーザーの銃口が一喜に向けられた。
そのまま一斉に放たれ、一喜に回避させる余地を残さず直撃が発生する。
ジャックという地位が故に火力は御墨付。本人に当たっていない箇所も赤熱化現象が起こり、融解も訪れた。
怪物の装甲を容易く融解させる武装は、それだけでも周辺家屋に甚大な被害を与える。
余波だけで抉られた建物はバランスを崩して倒壊を始め、班目は相手が無事ではないだろうと低く笑い声を発した。
やっていることはガンマンの早撃ちだ。怪物化によって更に加速した攻撃は回避をほぼ不可能なものとし、一瞬の隙すらも見逃さない。
元々の肉体では不可能なことでも、基礎スペックが高まれば脳裏で思い描いた通りの動きを再現することが出来る。
これがあるからこそ、怪物の動きは何処か物語めいていることが多い。基本となる戦闘のイメージが創作に偏っているのだ。
レールガンの連射やレーザーの放出は暫く行われ、そろそろ胴体が無くなったかと攻撃を止める。
後は瀕死か死体となった姿を拝みつつ、機械の回収でもしよう。そう思っていた班目は、相手が二本の足で依然として立っている姿をその眼に収めた。
両碗をクロスする形で攻撃を防ぎ、腕の装甲が若干赤くなっていることを除けば被害は皆無。
ゆっくりとその腕を解き、無傷の一喜が班目の予測を超えて前へと進み出した。
『――まさか、耐えるだなんてね』
『あんだけ色々使ったんだ。 基礎スペックの差が明確に変わっていることなんて簡単に予想出来るだろ』
『だとしても、だよ。 格下が格上の攻撃を防ぎ切るだなんて、正直不愉快だ』
姿が消える。
班目の攻撃方法はシンプルで、持前のスペックによるごり押しな面が強い。高速で移動し、相手が班目を捉える前に有効的な部位にまで接近した上で攻撃する。
最初が格の違いを見せ付ける為だとすれば、これは確実に攻撃を通す為。
乱雑に、迅速に。地面が擦れる音、ガラスの割れる音、纏っている電気が弾ける音。
それらを無数に発生させ、無防備な背中――だと思わせて真正面へと移動する。
既にレーザーはチャージ済み。レールガンも電気を溜め、どちらも一斉に放出すれば貫けない装甲は無い。
故にこれで終わり。勝利を手にして今日も美酒に酔う。
それだけを目的として接近し――突然彼の首を一喜に掴まれた。
『がッ!?』
『見えてんだよ、雑魚が』
首に掛かる握力が増し、一気に呼吸の余地を無くした。
両腕で一喜の手を引き剥がそうとするものの、驚く程に微塵も彼の手は動かない。
ならばとチャージしていた分の攻撃を必死になって眼前の相手に叩き込む。多少は班目自身にもダメージが及ぶが、捕まってしまっている状況では選択肢が無い。
一斉に電撃が駆け巡り、二つの攻撃が同時に一喜の胸に叩き込まれた。
衝撃は強く、碌に体勢を整える余裕も無い状態では身体が吹き飛びそうになる。しかし相手が首を掴むことは止まらず、苦しみながらも攻撃した場所を見れば殆どダメージの無い装甲が飛び込んできた。
『その程度かよ』
『――』
まさか。
愕然とする班目に、一喜は身体を持ち上げていく。
強靭な膂力によって宙に浮いた班目は、自身の眼前に二つの機銃が向けられていることを視認した。
表情が強張る。胸から湧き出る嫌な予感が怪物の身体に汗を流させる。
単純な強度でジャックを超えている目前の存在が、攻撃性能に劣っているとはどう考えても思うことは出来ない。
であるならばどうなるか。防御は出来ず、チャージをする隙も無い現状で、二つの機銃を同時に受け続ければどうなるか。
『や、止め――』
『反省しろ』
機銃は音を立てて銃身を回転させた。
紅蓮の火花が両肩から散り始め、轟音と共に何者をも破砕する弾丸を吐き出す。その全ては班目へと殺到し、一喜の耳に嫌な音を届かせたのだ。
慈悲は要らぬ。容赦も不要。弱肉強食の世界において、ジャックは例外とはならずに飲み込まれていった。




