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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第三十六話】その男、会いたくも無い者に会う

「いいか、皆声を出さずに近くに隠れてろ。 俺が良いと言ったら出て来るんだ」


「お、おう……。 あんたはどうするんだ?」


「様子を見て来る」


 ライトを消した一喜にはもう子供達の姿も、不安な表情も見えない。

 声だけが心情の全てを語り、震える言葉を一喜は努めて無視した。気にしたところでしょうがないし、もっと酷くなれば怖がっている暇も無い。

 リュックサックを床の上に置き、着装に用いる道具一式と戻る際に仕舞っていたドラゴンフライを取り出す。

 他にも幾つかアイテムはあるものの、正直に言って現状では約に立たない。

 銃のカードを挿入して起動させたドラゴンフライに敵の探索を短く命じ、機械のトンボは目に僅かな赤光を灯しながら空へと舞い上がった。

 その間に一喜は少年が語った元飲食店と思われる廃墟を目指す。この近辺には幾つか飲食店の残骸が存在するが、少年の述べた場所は恐らく現在地から最も近い場所だろう。

 でなくば、ああまで露骨に恐怖や不安に支配されはしない。警戒する為に緊張が先ず前面で出て、その次に不安や恐怖が出て来る筈だ。


 視界の悪い世界で一喜は携帯のライトを付け、胸ポケットに入れておく。ぎりぎりライトが外に出ている状態で照らされた風景は昼間よりもゴーストタウンめいていて、ゾンビが居れば完全に終末世界だ。

 目的の廃墟まで静かに進む。なるべく壁を背にしてゆっくりと歩き、物音の一つにも注意を払う。

 自身が出している以外の音を拾えば一度立ち止まり、意を決するように見て目的の存在が居ないことを確認して僅かに安堵する。

 気にし過ぎて悪いことはない。ベルトは既に腰に回していて、腕にも機械は装着済みだ。


「ッ、銃声!」


 周辺を気にしながら歩いているとドラゴンフライと思われる複数の銃声が街に響いた。

 発生源は近い。最初に少年が語った場所に駆け足で今度は進む。

 直線を駆け抜け、曲がり角を直角に走り、ライトは徐々に目的の場所を照らし出す。

 崩壊したファミレス。緑と白と赤の三色旗は地面に落ちて久しく、壁やガラスには大小無数の破壊痕が存在している。

 二階建ての建物内には何かが居るようなことはない。相手が居るのはその店の前であり、ライトがそこを照らしたことで相手は光の先へと視線を向けた。

 そこに居たのは、正しく異形の怪物。髑髏の頭部を持った人型の実体。


「ダーパタロス……!」


『ああ? 俺のことを知ってんのかよ』


 この世界で初めて視認した怪物と相対し、ついに怪物からも言葉が放たれた。

 粗野な雰囲気を感じる声は世紀末的な恰好と合わさりしっくりと来る。相変わらずな狂相からは殺意が滲み出ていて、ダーパタロスの足元には血を流している人間が居た。

 そちらに視線を向け、一喜は驚く。

 確かに少年達の姿を全員視認した訳ではない。一人か二人くらいは見逃すだろうとは思っていたが――――と考えてから理解に及んだ。

 相手は怪物だ。五感の全てが向上しているのは予想出来る訳で、子供達が発見したのであれば向こうが子供達に気付かない筈がない。

 その上で子供達が無事であったというのなら、必然的に誰かが時間稼ぎに走ったのだろう。

 血だらけの状態で転がっていたのは黒い学ラン姿の男。

 一喜に対して土下座までして救いを求めた、あの立道という人物だ。彼は未だ意識を持っているようで、痙攣しながらも顔を上げて一喜を見やる。

 その顔面も血だらけそのもの。間違いなく手当てだけでは済まない怪我を彼は負っている。

 

「立道!」


『へぇ、こいつの知り合いかい? あの逃げた奴等の中には居なかったよな』


「……すまなかった、立道。 少し来るのが遅れた」


 怪我の具合が深刻であることに、一喜は申し訳なさを覚えた。

 確かにこの街に安全だと言える場所は無い。何時でも襲撃される危険があって、万全な防備を施しても懸念は大いにあった。

 もっと探せば良かったのだ。より安全な場所を、より安全に子供達を隠す方法を。

 悪人に対して一喜は心を痛めない。だが、少なくとも一喜は自分で守ると決めた相手が傷付く様は見たくはないのだ。

 それはなんだか自分と重なるようで。己が善人であるとは思わないが、それでも自分のように虐げられるだけの人間に手を伸ばしてやりたい。

 

「……一、喜……さん」


 弱弱しい声が立道から発された。

 黒髪の彼の姿は痛々しく、善人が見れば胸を痛めるものだろう。残念ながらこの場に居るのはまともとは言い難い人間ばかりだが、それでも同情を引くには十分なダメージだ。

 声を発した事で転がっている立道をダーパタロスは踏み付けた。

 一切の容赦も無い踏み付けが彼の背中を襲い、強引に息を吐き出させる。


『おぉい、無視とは良い度胸じゃねぇか。 そんなにこいつと同じ姿になりたいってのか?』


 苛立たし気な口調に一喜はコイツもかと内心理解する。

 銃の女の時もそうだが、怪物はどうにも自身の思い通りにならない事実を受け入れられない節がある。

 侮られること、侮蔑されること、存在を否定されること。

 普通の人間でも激怒ものな内容ではあるものの、彼等の場合はそれよりもなお過敏に反応を示す。

 挑発に乗り易いのは大変結構だ。恨まれる確率が大いに上がるも、そうなる前に殺し切ってしまえれば誰かに知られることもない。


「黙ってろ、雑魚が」


『あ?』


「カードを使わなければ自分のしたいことも出来ないような奴が、粋がって騒いでんじゃねぇ」


『――――』


 カードを使用する人間は、総じて人間的な理性に乏しい。

 つまるところ社会的な行動が出来ないのだ。普通の人間のように振舞えないから、こうやって暴力的な方法でしか解決を望めない。

 ダーパタロスは立道から離れる。全身から激怒の雰囲気を発しつつ、しかし直ぐに怒鳴るような真似はしない。

 怒ってはいるのだろう。その上で思考もしている。

 

『お前……何かあるな?』


「何かって?」


『っは、知らねぇな。 お前は俺を殺せると確信していて、それを覚らせまいとしている。 わっかりやすいねぇ』


 ダーパタロスはしゃがみ、その場で立道の学ランの襟を持ち上げる。

 それを一喜の前へと突き出し、低く静かな笑い声を相手は発した。立道は苦しみの声を垂れ流す。

 何とか抑えようと思っても、全身に巡る無視出来ない激痛が無意識化で声を漏らしてしまうのだ。そんなことをしても何の解決も望めないというのに。

 痛みに閉じていた目を薄っすらと開けると、一喜はその場で立ち尽くしていた。表情は苦々しいものに変わっていて、それが嘘であると立道には見えない。

 きっと何かしらの方法でダーパタロスを撤退する術を持っているのだろう。会った頃から何処からか食料を大量に持って来ていたのだ。

 ならばそれを出来ないようにさせているのは己で――――そんな己が死ぬ程恨めしい。


『ほら、してみろよ。 何かしたらコイツも巻き添えだがな』


「俺がしないとでも?」


『別に俺は良いんだぜ。 此処まで来たってことは、大なり小なりコイツを心配しての行動なんだろ? 万が一死んじまったら、お前にとってはカナシイことになるよなぁ?』


 髑髏が嘲笑う。

 何も出来まい。誰かを助けようとした時点で、主導権は既にダーパタロスにある。

 この場を逆転されるとなれば、それこそ立道を犠牲にするしかない。

 だから笑うのだ。己の在り様が正しいことを証明する為に。悲しい悲しい誰かが絶望する様を楽しむ為に。

 カードの使用者が全て完全な悪人という訳ではない。しかし、ダーパタロスという存在は根っからの大罪者だ。


「――残念だよ、馬鹿が」


 同情する余地は無い。完全な化け物として、この存在は滅ぼす必要がある。

 遠くから無数の銃声が響いた。遥か彼方からの銃撃は、狙い違わずダーパタロスの背部に命中して火花を散らす。

 その威力たるや並ではない。怪物を倒すことに主眼を置いた兵器であるが故に、まともな範疇で収まってなどいない。

 油断した身体に衝撃が襲い掛かり、咄嗟に全身に力を入れながら腕で顔面と胸を防御する。

 その際に立道は地面に落ちた。直ぐに一喜は胸ポケットからカードを取り出し、そこに書かれた絵柄を刹那で確認しながら機械に通す。


「吹っ飛べ!」


――Authorize. Clover of Material Crush.

 

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