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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第三十四話】その男、無責任を嫌悪する

 キャンプの不自然な状況に対して個人的な予測を立て、しかし彼はその悉くをあっさりと放棄した。

 調査しようと言うのではなく、お前達だけでも逃げろと言うのでもなく。

 ただ、俺には関係が無いことだと関りを持つことを切って捨てた。少年達はそんな彼の言葉に驚かないでもなかったが、同時にそりゃそうだろうとも思った。

 一喜はこのキャンプと一切の関わり合いが無い。あるとすれば少年達や殺した男達程度で、関わり合うには正直薄いだろう。

 それに気持ちも解る。嫌な場所には居たくないし、明らかに厄介事に巻き込まれると予測可能なのだから。

 大人の男としての優しさと冷たさ。常に現実的な視点に立って、自己を優先しつつ出来る範囲内で誰かを助ける。


 今回の子供達の出来事は正にそのままで、故に他とは違うと感嘆させられた。

 それは女子高生も一緒だ。変に夢見がちな訳ではなく、確りと理性を持って状況を見据えている。

 安心させる笑みを浮かべず、逆に事は深刻だと真顔になり、その上で子供達にどうすべきかの選択肢を与えた。

 即ち、彼と同様に逃げてしまった方が面倒事が降り掛かることはないだろうと。

 言葉としてそれは逃走ではあるが、生に足掻くのであればこれは勝利だ。死ぬ気が無いからこそ、そちらの方が選択として正しい。

 

「……なら、道は決まったな」


 突然だった。

 これまで碌に言葉を話さなかった高校生組の男が、ついに口を開けて低い声を漏らす。

 敵意がある訳ではない。ましてや殺意がある訳もなく、あるのはただ純粋な言葉のみ。中肉中背の黒髪を持った普通の男子高校生と呼ぶべき男は、しかしその眼に恐ろしいまでの冷静さを伴い一喜を見やる。

 

「荷物を纏めよう。 このままあそこから離れて、環境としては不味いが別の場所に一時的な住まいを探そう」


「うぇ、どしたん? あんた普段そんなに喋らないじゃん」


「そうも言ってられないだろ。 昔からの予想を肯定してくれるような人物が来てくれたお蔭で、このままじゃ死ぬ可能性があると悟った。 上が悪いものであるならば、そこに付き従った末路は破滅だけだ」


 女子高生が驚きの声を漏らしていた。普段から男子高校生は喋らず、喋ったとしても決して長くはないのだろう。

 彼が今流暢に喋るのは、昔から考えていた漠然とした嫌な予想について明確な理由が肉付けされたから。

 この嫌な感覚は錯覚などではなかった。不自然に明るいリーダー格に、反比例するように悪化していくキャンプの人間達。

 暴威を振り撒く人間をリーダー達は言葉で諫めはするものの、実力で鎮圧するような真似はしなかった。

 それは戦力的な意味で不可能であると想像していたが、実際はリーダー達にとってキャンプの人間は多少減っても問題は無いと思われていただけだ。


 リーダーのあの男を含め、その取り巻き達が求めるのは潤沢な物資。

 理由は定かではないものの、キャンプに住まう人間は自分達が余裕のある生活を送る為の一要素でしかないのだろう。

 そんな集団に付き従ったところで待っているのは破滅だ。男子高校生にとって大事なのは一緒に行動する子供達や同い年の女子高生であって、そこら辺で蹲っているような大人達など歯牙にもかけない。

 幸いと言うべきではないが、親とは死別していた。男子高校生にとっての素晴らしき大人とは中学時代で怪物に襲われる際に庇ってくれた親であって、それ以降に出会った大人は総じて屑ばかりだ。


 そんな中で、男子高校生は一喜に会った。

 まるで時代錯誤のように食料を振る舞って優しさをアピールする男は最初は怪しんでいたし、ドローンの存在によってその怪しさは加速していた。

 けれども、彼はこうして現実的な判断が出来る部分を見せたのだ。己を優先事項としつつ、逃げるだけの余地を子供達に伝えた一喜を男子高校生は信じたいと心から思った。

 故に、此処で動くべきは自分だろうと口を開けたのである。慣れないことをしている自覚はあるが、今はそんなことを感じている場合ではない。


「立道です。 立道・藤次(たてみち・とうじ)。 貴方の御名前を聞いてもよろしいですか?」


「大藤・一喜。 どうした、そんなことを聞いて」


「無理を承知で言います。 大藤さん――――俺達が生活出来るまでの基盤を構築してくださいッ」


 男子高校生はその場で一喜に土下座を行った。

 突然の行動に一喜は驚き、それは少年達も一緒だ。どうしたんだよと子供達が立道に訊ねる中、彼は顔を地面に付けたまま理由を語る。


「キャンプを抜ければ、必然的にこれからの生活は俺達だけで作っていかなければなりません。 ……ですが、お恥ずかしいことに俺達には物資も経験も不足しています」


 このままキャンプから離れるとして、子供達だけでは生活を継続していくことは不可能な領域だ。

 そもそもキャンプのリーダー達がどのような方法で食料を集めているのかも定かではないのである。まずもってまともではない方法で集めているのであろうが、それを子供達がするのは不可能だろう。

 ならば他に頼るしかない。何処か別の集団を探すか、それとも信頼出来る誰かの庇護を望むか。

 そして現状、願う相手は一人しか存在しない。


「子供達にはあまり無理はさせられません。 その代わりに俺が、俺が何でもします。 ですので、地盤が構築出来るまでの面倒をお願いしたいのですッ」


 男子高校生の心からの願いだった。

 彼とて死にたくはない。心から仲良く出来る者達と一緒に、平和に平穏に過ごすことを心底から願っている。

 その為に代償を支払う必要であることも承知で、負債の全てを自分が引き受けると彼は宣言しているのだ。

 聞いて、一喜の心中には驚きが広がった。

 学ラン姿の彼は、正しく高校生活真っ最中の若人だ。そんな若者は残念なことに大人を軽視する傾向にあり、敬う者は限られる。

 誰が頑張って金を稼いでいるかも理解せず、子供は親に文句を言うのだ。そして大人になって様々な苦労を背負い、そこで初めて親達に感謝をする。

 

 立道の態度は、苦労を知った子供が親に謝罪する構図そのものだ。

 ただ違うのは、彼はまだ一喜に対してそれほど大きな迷惑を与えていないというもの。

 これから多大な迷惑を与えることを加味した上で、どうか我儘を許してくれと立道はほぼほぼ初対面に等しい一喜に願った。

 それを蹴り飛ばすことは一喜には出来る。女子高生や少年は口を挟める状態ではないと二人に視線を向け、事の成り行きを見守るしか出来ない。

 

「……悪いが、それは無理だ」


「そこをなんとか……ッ」


「まぁ聞け。 別にお前達を保護することが嫌だから、なんて感情的な理由じゃない」


 立道と呼ばれる青年は素晴らしい人間だ。

 なればこそ、一喜もまた現実的な言葉を述べる必要がある。希望も絶望も挟まらない、理性によって完成する答えを語る必要があるのだ。

 

「俺は別にこの街に拠点がある訳じゃない。 住処は別の所にあって、そこにお前達を案内するのは不可能だ」


「……」


「此処に来ているのも一週間の内に二日だけ。 他の時間は全部他所に行っている。 そんな奴が保護者足り得る筈が無い、だろ?」


 基盤を作るとなれば、保護者は毎日居なければならない。

 周りが安全にならない限りは日常的な滞在は必須で、それが一喜には出来ないのだ。

 彼には彼の生活もある。バイトを無断で休む訳にもいかず、そもそも此方で起きる全てが一喜とは関係が無いのだ。

 無関係の人間が関わるなど無責任にも程がある。嘗ての嫌な記憶でも上司に責任の全てを擦り付けられ、皆から睨まれた。

 もう二度と、重責を背負うような立場になりたくない。これは一種の忌避であり、断固たる決心でもある。


「俺が出来るのはお前達に僅かな間だけ食料をあげてやるくらいだ。 後は、まぁ――」


 ふと、こういったことを任せられそうな人間が脳裏に浮かんだ。

 もう二度と関わり合いになりたくないと言ったので二度目の顔合わせは恐らくないだろうが、それでも伝えるだけ伝えるくらいは良いだろうか。

 これも責任を押し付けるようなものではある。向こうに選ぶ権利があるとしても、あれはどうにも人が良過ぎる部分があるから。

 罪悪感に負けて引き受けて、それで彼女の所属するグループが崩壊しては胸糞だ。


「――ったく、物資の支援だけだ。 住む場所なり自衛の方法とかは自分達で作れ」


「ッ、本当ですか!?」


「二言は無い。 欲しい物全部を叶えてやれる訳じゃないが、出来る範囲で物は用意してやる」


 物資の負担をほぼ零に変える。それだけでも立道にとっては最高の結果だ。

 喜色を露に顔を一度上げ、その後何度も何度も地面に叩き付けるように感謝と共に頭を下げ続けた。

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