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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第二十九話】少年、不幸を味わう

 ――それは不意に現れた。

 何処からともなく、しかし明らかな攻撃の意思を持ち、備え付けの銃を振るうことを良しとしていたのだ。

 その日、子供達は今日も生きる為にキャンプで配給される食料を受け取っていた。

 大人が貰う量よりも幾分か少ない食事は、主にパンであったり薄めに薄められた粥であったりとどうしても少ない。

 薄汚れた白いテントが並ぶキャンプでは常に怒号が聞こえ、暴力沙汰も日常的だ。

 精神を擦り減らしていくような生活の中でこの食事は唯一の救いであり、だからこそ手にした誰しもがそそくさと一瞬の幸せの為に口に運ぶ。

 誰かに奪われるのを避ける為という理由もあるが、やはり人間は快楽には抗い難い生き物だ。

 碌に風呂にも入れない汚れた顔は食事を口に運んだ瞬間に恍惚とした表情に変わり、それが直ぐに無くなってしまうことに小さな絶望を覚える。


 かといって細かく食べていても時間差で絶望することになるのだ。

 子供となればその絶望も強い。特に本能的に行動することがある中学生以下であれば、それが我儘であることを知らずに不満を口に漏らす。

 少年をリーダーとした子供組もそれは一緒だ。

 高校生達はまだ我慢が出来るが、中学生以下の子供の表情からは笑顔が消えて久しい。

 笑うとしても小さいもので、そこに子供特有の明るさは皆無であった。

 その日も配給された食事を食べ切った子供達は何事もなくキャンプから離れては顔を見合わせ、明るさの皆無な表情を共に視界に収める。


 元気が無い。覇気と呼べるものがない。

 見慣れていたが、それでもずっと見ているのは少年にとってうんざりするものだ。

 彼等に親が居ないのも明るい表情が無い原因である。大体は死別であるものの、中には捨てられた者や虐待する親から逃げて来た者まで居る。

 高校生組は男も女も関係無しに虐待され、特に女の方は父親に性的な虐待まで受けかけた。

 そうなった段階で父親を近くの瓦礫で殴って昏倒させて逃げ、少年がリーダーを務めているこの集団の仲間入りを果たす。

 肉体的性能ははっきりと言えば平行線だ。高校生ともなれば流石に小学生には劣らないが、栄養のある生活を送れなかった影響で中学生とは互角かもしれない状態にまで弱体化している。


「……今日も行くぞ」


「今日も? 会えるかも解らないのに?」


 少年は口を開けた。その言葉に一番先に反応したのは、この中でも中学生くらいの年の頃の男だ。

 少年は男を見つつ、首を縦に振る。

 言葉ながらの肯定を示す少年であるが、周りからの反応は芳しいものではない。

 思い出されるのはあの街での出会い。少年が襲撃を仕掛け、しかし襲われた側から施しを受けた一件だ。

 件の男性は少年だけと指定せず、グループ全員に食事を振る舞った。

 缶詰の食事は随分昔に味わって以来のもので、彼等はそこに調味料が無くとも必死になって食らった。


 魚が美味い。肉が絶品だ。クッキーの甘さが堪らない。

 極上の食事とは正にあれを指すのだろう。有り得ないとは思うが、あそこで御飯でも存在すればもう死んでも良いくらいの御馳走だった。

 とてもキャンプで食べられる品々ではない。この世の中でも東京の人間だけが食べられるだろうな、贅沢な品々だった。

 男は子供達に対して友好的で、少なくとも食料を奪おうとするキャンプの大人と比べれば雲泥の差が存在している。

 教えてほしいと頼まれた情報も僅かなものだったのに、それでも別れるまでも男の顔には笑みが浮かんでいた。


 初めてとは言わない。しかし、数少ない優しい大人だった。

 久し振りに満たされた生活は素晴らしいもので、深夜になるまで皆が満面の笑みで襤褸の布の上に転がって次に食べたい料理を話し合った。

 もう二度と会えないだろうに、それでも皆が次を求めたのだ。――――そんなものは二日もすれば無駄だと気付かされた。

 毎日あの場所に出向き、夜まで交代で道を監視していた。

 時折食料探しに来ていたキャンプの大人達から隠れ、なるべく見逃さないように近くの道も見ていたのだ。

 それでも彼は来なくて、一週間近くも経過すればやはりあれは偶然だったのだと思うしかなくなった。


 あれは本当に運が良かっただけで、次は無い。

 良いこと過ぎたからこそ、皆の絶望は深かった。彼の為にとキャンプに戻って使えそうな情報を集めてきたのに、その努力も無駄になった。

 けれど、それでもと、少年は行こうと語る。

 また居ないかもしれない。もう二度と会えないかもしれない。

 会えたところで食料はもう無いんだと言われてしまう可能性も無くは無い。

 その上でなお行くのだ。何故ならば――


「俺達が動かなかったら、前と変わんねぇだろ。 どうせ駄目元なんだ。 なら、食料探しのついでに動く程度で良いじゃねぇか」


 少年は意識して力強い笑みを浮かべた。

 伊達や酔狂でリーダー役をやっているのではないのだ。当時の子供達の中で一番強く意見が言えたからこそ、彼はリーダーとなった。

 その強い言葉が、揺らめく灯に僅かな風を吹き込む。消えるだけだったモノに一時的にでも更に明るくなれる要素を与え、皆の心を打つ。

 後ろ向きな内容だ。後を考えない捨て鉢のような考え方だ。何も無いなどと語る前に自分達で生活の向上を模索した方が良いのに、それを放棄している。

 少年は力強く発言した気になっているが、纏う雰囲気には諦観が宿っていた。この世界で人類が当たり前に持ってしまう嫌な気配を、少年は確かに纏ってしまっていた。


 だからこそと言うべきか。

 諦めを持っている人間程悪いものに激突する。泣きっ面に蜂とはよく言ったもので、今日も街に出ていた子供達は一番会いたくない人種に遭遇した。


「――おん? ……おー、てめぇらじゃねぇか」


 キャンプで過ごす大人というのは二種類に別れる。

 キャンプ存続の為に物資を探す真面目な大人と、キャンプで適当に仕事アピールをしながら街で適当なことをしている不真面目な大人だ。

 この中で厄介なのが不真面目な方で、彼等は街に出て来ては基本的に何らかの成果物を持ってくる。

 それ自体は有難いことではあるが、その裏で彼等は強奪や暴行・強姦といった悪行の数々も重ねていた。

 今では法の無い世だ。殺人を犯したとして、彼等を裁く具体的な方法は少ない。


 この世は生きたもの勝ちで、故に悪人にとって都合の良い世界でもある。

 不真面目な者程それはよく解っているものだ。ならば、子供達に暴力を振るわない道理など一切存在しない。

 その中でもドレッドヘアーを晒す男は、キャンプで暮らす人間の中では特別異彩を放っていた。

 筋肉達磨と表現すべき大柄な肉体。この世界でも珍しい、勝者としての笑み。

 他者から奪った食料で腹を満たし、別の街でキャンプに避難しようとしていた女を襲い、他の不真面目な者共に誘いをかけて一大勢力を築いた。

 単純な戦力として、男の持つ力は無視出来ない。出来ればキャンプの指導者達が制御したかったが、そうするには彼を放置し過ぎた。


「こんなところでどうかしたかよ。 誰かを襲う腹積もりだったか?」


「別に。 関係ねぇだろそんなこと」


 筋肉達磨の大人にとって、怪物を除けば支配出来ない人間など居ないと思っている。

 反抗的な者も何度か痛めつければ次第に従順になり、差し出せるモノはなんでも差し出して許しを請うようになると確信を抱いている。

 逆に言えば、その男には我慢というものが無い。例え視線一つ、態度一つでも反抗的であれば直ぐに爆発する。

 そして、目前の子供はこれまで何度も反抗的であり続けた。食料を奪われれば奪われる前に小柄な体躯を利用して姿を隠し、探してみれば既にキャンプから距離を取った後。


 最近になってキャンプに来ている所を見たことはあるが、三十分もしない内に姿を消して完全に足取りは掴めなくなっていた。

 従わせられぬ人間は居ないと豪語する身として、それは屈辱でしかない。

 少年の発言に一気に青筋を浮かび上がらせる程の怒りを抱いた男は、そのまま少年へと駆け出す。

 少年もまさかいきなり殴りかかって来るとは思わなかったが、直情的な男の攻撃など余裕で先が解る。

 上から下への拳を軽やかに背後にステップを刻むことで回避し、拳を落した男と背後で険吞な雰囲気を発する小規模集団に中指を突き立てた。


「いきなり殴りかかってきてんじゃねぇよタコ。 脳味噌をママの腹ん中に忘れてきたか?」


「ぬかせ餓鬼ィ!!」

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