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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第二十六話】その男、餌付けする

「これはまた……」


 口の悪い少年は、僅か十分程度で複数の子供を引き連れて来た。

 各々が各々にやはり汚らしい恰好をしていて、年は小学生から高校生程度と大きくバラついている。

 線は皆細い。男も女も揃って枝という程まで細くはないが、このまま何も手を打たなければ最初の少年と同様の末路を辿ることになっていた筈だ。

 彼等の目は揃って鋭い。子供らしい愛らしさとは無縁で、何に近いかと言われれば街中で騒ぎを起こす不良に近いと言える。

 動物ならば狼の群れか。数が六人であるお蔭で大集団とはなっていないが、一斉に襲われた場合はカードのお世話になるのは必至だ。

 集まった者達は事前に理由を知っているのか、一喜が取り出していた食料の数々に意識を向けている。中には右手が痙攣をしている子供も存在し、早く手を出したくて堪らないのだろう。


「来たな。 おい少年、これで全員か?」


「俺の所に集まってくれた奴はこれで全員だ」


「そうかそうか――んじゃ分けるから受け取れ」


 リュックサックの容量は大きい。

 何を入れても良いようにと広めのサイズを選択したことで、食料に割いている部分も多くなっている。

 魚缶は一人につき三個。それだけでは飽きが来ると思うので、一人一缶として肉缶と非常食のクッキーを投げて渡していく。

 渡された張本人達はボールを取りに行く犬のように必死になって取り、蓋に付いたプルタブに爪を割り込ませて一気に開ける。

 

「ちょいちょい、箸も使え箸も。 調味料だってあるんだからな?」


 割り箸も投げて渡しつつ、今にも食べそうな子供を静止させてリュックから黒い液体も取り出した。

 缶詰はそのまま食べても美味しいが、やはり調味料があった方が最終的な満足感に大きな違いを生む。

 子供の警戒心は依然として解けてはいないが、やはり食料を提供してくれる人物に対しては多少は心の防壁も緩くなるのだろう。

 直接手渡しをするのは無理でも、醤油も投げて渡せば皆で缶詰に掛けて箸を使ってくれる。

 毒の心配をしている者は皆無だった。それほどまでに飢えていると解釈することは出来るが、例え毒であったとしても彼等には関係が無いのかもしれない。

 

 久し振りの箸をかなり不格好に使い、口に缶詰の中身を運んで咀嚼しては彼等は感動に涙を流した。

 憚る真似もせずに嗚咽を漏らし、口は懸命に与えられた食料を胃の中に収めようと必死になって噛み締めている。

 誰も会話をしていなかった。食べている間に世間話の一つでもと思っていたのだが、子供達にはそんなことを考える余裕も無いのだ。

 米粒一つも残さずと言うべきか、缶詰に残る欠片を一つも残さずに彼等は全てをあっさりと平らげる。


 肉も同様で、タレ付きの物は舌で何度も舐めていた。

 それも終われば、残るは非常食のクッキーのみ。一喜が休憩として食べている間も大食い選手が一気に食べるようにクッキーを口に放り込み、その甘さに皆が震える。

 甘味は極限状態であればある程に救いとなる。脳内に落ち着きを齎す癒しとして機能し、食べ終わった後には最初に来た時とはまったく異なる笑顔を浮かべてもいた。

 それは最初の少年も一緒であり、皆が喜んでいることに一度笑みを見せた後に一喜に向かって正座の形を取る。

 

「マジで感謝!」


 荒々しい態度は一変し、少年は満面の笑みを浮かべていた。

 まだ毒物が中に入っている可能性があるだろうに、少年の瞳には絶大な友愛が浮かび上がっている。

 チョロイと内心思いつつ、気にするなと彼は片手をフラフラと振った。

 そもそも件の缶詰は一つ分が百円程度。肉缶も同様に酷く安く、甘未系が一番金が掛かっていると言える。それさえも全部を足せば二千円台前半なもので、感謝をされる必要はないと彼は考えていた。

 勿論、この状況において食料があることがどれだけ素晴らしいかは理解している。交渉材料の一つとして使えるくらいには、彼等に渡した分は多かった筈だ。

 空腹が無くなった。脳内に充足感がある。久し振りに今日の食事の心配をする必要が無いのは、少年達に多大な安心感を齎した。 


 子供というのは優しくしてくれる相手に弱い。

 手遅れではない限りでは心を開くのは容易であり、しかし誰しもの頭にはこの食料の対価が浮かんでいる筈だ。

 高校生組は特にそうだろう。喜びを露にしながらも、二人しかいない高校生の男女は一喜の顔色を伺ってもいた。

 不安は心の底に残り続ける。これを払拭するには早々対価について説明をする他無く、彼としても長引かせるつもりは毛頭無い。

 一喜本人と子供達が食事を終えた後、双方は明確に顔を合わせた。


「缶詰は美味かったみたいだな。 んじゃ、代わりに聞きたいことがあるんだ」


「聞きたいこと?」


「そう。 俺は最近此処に来たばっかだからさ、周辺の状況を詳しく知らないんだよ。 だから知っている限りの状況を教えてくれ。 それがこの飯の礼だ」


「……それだけ?」


 中学生程度の少女の疑問に、彼はそれだけだと明るく返した。

 情報は何よりも武器となる。一喜としてはそれを安い予算で購入出来れば、正しく交渉としては最大の結果になるのだ。

 子供達は顔を見合わせ、暫くの後に彼に向かって首肯した。 

 さてそうなればとリュックからノートとボールペンを取り出し、早速質問を開始する。

 脅威となるべき存在。他に人が居る場所。人同士で争いがあるのであれば、どのような理由でそんなことが起きているのか。

 子供達だけでは全てを把握することは出来ない。出来ないが、そこで何かが起きていると解っている分だけ警戒することが可能だ。流石に全てを要求する程彼は鬼ではない。


「ここら辺には人は居ないよ。 前は怪物が歩いてたとかで近付く奴も居なかったけど、最近見なくなったから少しのメンバーで探索してる」


「この街から一時間くらい西に歩けば皆が生活しているキャンプがあるよ。 テントを張って、集めた食料を配給してるの」


「キャンプはまだ一度も襲われてないけど、あんまり御飯が見つからないから中の雰囲気はちょっと怖い」


「子供を差別してる奴も居るな。 力が小さいから役に立たないって、配給された分を裏で奪うんだよ」


「俺達は皆奪われ続けた側だから、最近はキャンプから離れて生活してる。 あんたを襲ったのは……悪かったよ」


 子供の話から出て来るのは、大人の汚い話だ。

 最近怪物の姿を見ない。それはつまり、彼等は運が良いのか戦車や銃と遭遇することがなかった。

 そして遭遇する前に一喜達が仕留め、今此処は一時的に怪物の出現確率が明確に減少している。

 後残っているとすればダーパタロスだが、最初に会って以降はその姿が一切確認されていない。出来れば何処かに行ってしまったと思いたいものの、予想とは常に悪い方に向かうので出会うことになるだろう。

 

 直近の問題として見るべきは、西にあるキャンプか。

 怪物の影が薄くなったことで人が来るようになり、彼等は様々な物資を求めて街中を歩き回っている。

 キャンプの状況はよろしくない。本来慈しむべき子供から食料を奪うような輩が現れ、子供達が離れた様子から改善されているようには考えられない。

 この世界で人間と多く会話を交わして情勢を知りたかったが、迂闊に話しかけて面倒な事態に巻き込まれる可能性が出た以上は接触出来ない。

 街中を全て探索したら泊りがけで外を目指したかったが、この分では想定よりも多くの準備をしておくべきなのだろう。


 少年の謝罪を聞きつつ、一喜は空を見上げた。勿論だがただの現実逃避である。

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