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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第二十三話】その男、断罪する

 女の語る内容の全てを聞き、世良と十黄は複雑な内心を胸に抱えていた。

 彼女が力を得た理由は人であれば解ってしまうものだ。今が酷い振舞いをしていても、その過程に他者を害してしまうだけの過去が存在している。

 殺された側は堪ったものではない。その身内も彼女の過去を聞いて殺意を抑える真似は出来ないだろう。

 それでも、全てを知る前と比較すれば胸がすっきりとはしない。結局のところ、彼女がこうなってしまったのは別の人間が複数関与していたのだから。

 母親に、元カレに、社長。全てが悪い方向に転がった結果として、今の彼女が此処に居る。

 赦しを与えることは出来ない。けれど、殺す必要は無いのではないかと一抹の思考が脳裏を過る。

 

 しかしそれを――大藤・一喜は許さない。

 彼女の事情は、社会ではよくある話だ。元々の原因が悪であるのだから、最終的な結果が悪果に終わるのも自然である。

 運が悪かったな。彼が素直に言葉にすればこんなもので、同情をすることは一切考えていない。

 瞳は恐ろしい程の冷たさに染まり、女は彼の目に過去の社長を見た。


「お前の話は巷でよく聞く類の不幸だ。 多過ぎて今更同情する気も起きない」


「……ッ、私は」


「母親を責めることは出来た筈だ。 付き合った男に虐めの原因を直接尋ねることも出来ただろうし、その親が関与しているのであれば情報を集めて対抗することも出来ただろう。 相手はお前に解る程度の無様を見せたのだから」


 彼女は全てを知っていた。

 それはつまり、相手側も然程巧妙に隠していた訳ではないということになる。

 庶民の小娘相手に、あるいは浮気をした女の娘にならこの程度で十分。格下として明確に見ていたからこそ、彼女にはそこに食らい付けるだけの隙が存在した。

 単純なものならば名誉棄損。精神的なダメージも含めれば、相手側が彼女に支払わねばならない額は莫大なものとなる。

 それをするだけの活力は彼女には無かった。日々を陰鬱としたまま過ごし、対抗の二文字を脳裏に浮かばせなかったのだ。

 彼女が対抗を選んだのは力を得てから。しかも彼女にとっての対抗とは、母親の死への敵討ちだ。


 お金で何もかもが解決する訳ではない。彼女の抱える絶望は黄金の輝きで癒されるのではなく、無償の愛によってのみ癒される。

 それが出来ないのであれば、もう彼女には絶望を相手に与えるしかない。誰も彼もに共感されないと理解していても、それでも彼女はやり過ぎなくらいの復讐を選択した。

 最早、その時点で彼女の破滅は確定している。

 これまでは夢のようなもの。現実が漸く彼女に襲い掛かり、夢に支配された肉体をあっさりと引き千切った。

 夢は何時か終わる。希望は儚く崩れ去るもので、人とは絶望の中からマシな絶望を選択して生きていくしかない。

 人が考える幸福は麻薬だ。錯覚とも表現すべきもので、故に真に幸せなど訪れる筈もない。


「お前は弱い。 弱いからカードに縋り、お前が感じた絶望を他の誰かにも与えた。 ――悪人に生きる価値無し。 ああ、正にその通りだ」


「ッ――――そう、ですね」


 悪人よ、絶滅せよ。

 その言葉に照らし合わせるのなら、女とて悪人だ。彼女自身は人を大量に殺した時点で自覚自体はあったが、目を逸らして心の奥に閉じ込めていた。

 皆の為と言いつつ、彼女は結局カードの魔力によって狂ったのだ。自己の欲を優先した彼女に聖人のような言葉を放つ資格は無い。

 肩に乗った砲門が動き出し、彼女の顔面に狙いをつけた。

 今の彼女に鎧は無い。何処を撃たれたとしても即死は免れず、そもそも彼女は回避を選択するつもりはなかった。

 

「私を殺せば、私が治めていた場所は崩壊するでしょう。 ……私なりに平和を目指していましたが、貴方によってそれが崩れます。 その責任はどうしますか」


「どうもしないさ。 お前がやっていたのは単なる洗脳に過ぎず、彼等は元に戻る。 ……争いの絶えない不平等の生活にな」


 彼女の治めた場所では勤勉なものが良い目を見れる。

 誠実であれば、善人であれば、豊な生活を送ることが出来る。それが出来ない者は死ぬか土地を離れるしかない。

 彼女という権力者が死んだ時、新たな権力者がその土地を治めるだろう。

 けれど次も彼女のような思想の持主が治めてくれる保証は無い。寧ろ逆に残忍をこそ尊ぶ外道の中の外道が治める可能性が高い。

 彼女の死によって死者の数は多少なり増す。されど、一喜はそれを当たり前の話だと一蹴した。

 彼女がやっていたのは根本的な解決ではない。己の欲を最優先して、見たくないものを排除した先の光景だ。


 排除された側は別の土地に赴き、悪を働いて怪物に殺されている。

 過去であれば非日常な話であるが、今であれば日常だ。当たり前の出来事が当たり前のようになるだけだと彼は語り、女はそれに納得を示した。

 この世は絶望一色。どの地獄を選ぶかは己次第。誰かが死ぬのは当たり前で、怪物が居なくとも人が人を殺す出来事は多く存在した。

 

「私は……摂理に反していたのですね。 良い人が居て、悪い人が居て、彼等が混ざり合ったまま混沌とした日々を送る。 それこそがきっと正解なのでしょう」


「誰か一人の欲で世界は変わらない。 変えようとしても、何処かの誰かがそれを阻止する。 変わらないなら、変わらないなりに自己を変革して対抗するしかない。 ――それこそがきっと、日常との付き合い方なんだろうよ」


「……そうですね。 夢がありませんが、それがきっと真実なのでしょう」


 女はそっと目を閉じる。

 激痛は依然として継続していた。治るまでには未だ多くの時間が必要となる。

 砲門から金属の唸る音が聞こえた。徐々に明りが砲門内から照らされていき、後は彼の意思で発射される。

 言うべきは言った。ならば残るは攻撃あるのみ。この女の未来を奪う行為を、女の意見を纏めて踏み付けた男が躊躇する筈もない。

 轟音が鳴り、爆発が彼女を含めた建物に及ぶ。瓦礫を吹き飛ばし、衝撃波が世良や十黄にも襲い掛かった。

 腕で顔を庇い、次第に衝撃も消えていく。

 立ち込めた煙も徐々に他所へと流れていき、女が居たであろう場所には血のシミとスペードのカードが残されたままになっていた。


 一喜はそっと近寄り、カードを拾い上げる。

 灰色のカードが発光していない。力を失ったかの如く、その場にただあるだけだ。

 倒すべきを倒した。しかし、周囲に漂う空気に明るいものはない。

 倒したのではなく、世良と十黄には倒してしまったという気分があった。


「このカードは俺が保管するが、文句は無いな?」


「あ、ああ。 ……何も感じないんだな」


「感じない訳ではないさ」


「え?」


 人を殺したのは、当たり前だが初めての経験だ。

 何も感じないのは流石に不可能で、しかし恐ろしいまでに強い忌避感は出ない。画面に映ったグロ映像を見たようなもので、多少気分が悪いだけだ。

 この世界では死体は当たり前のように転がっているだろう。それに一々具合を悪くしては折角のその場凌ぎ設定が無駄になる。

 故にこそ、カードを拾った一喜は意識的に無表情になった。

 それが十黄には何かを堪えているように感じられて――――世良は一喜の予想外な部分に目を見開いた。


「……兎も角、これで解散だ。 以降は此方に接触をしないように。 万が一見掛けても声をかけるな」


「これだけあったのにか?」


「これだけあっても、縁は切れる。 俺は別にお前達のことを大事だとは認識していないしな」


 十黄の引き留めるような言葉を否定し、一喜は着装を解除して歩き出す。

 二人には彼の背中だけが見えていた。夜闇を歩くその姿は一人ぼっちのようで、只一人の孤独な英雄を想起させられる。

 彼は怪物を倒せる人物だった。だが、その心に根差しているのは人の感情だ。

 強い部分もあれば、弱い部分もある。


「十黄」


「なんだ」


「悪いけど、私はこれからあいつに関わろうと思う。 どんだけ否定されてもだ」


「……まぁ、何かしらの方法で借りは返そうと思っていた。 俺も付き合うさ」


 人とは支え合う生き物だ。

 たった一人で偉業が成されることはない。当人が努力する影には、別の誰かが努力をして支えているのだ。

 その日、三人は別れた。子供達は世良が回復した様子を喜び、少ない食料を搔き集めて小さいながらも回復祝いを行った。

 その際に今後の方針を子供達に伝え、皆もその人物と関わることを肯定する。

 そのことを知らない一喜は、家に戻ってから冷凍された牛丼と白飯で夕飯を食らっていた。

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