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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第二十二話】銃の乙女、夢を目指す

「なんで……どうして……こんな風になったの……」


 静かに着装が解除された女は、その顔に無数の雫を流していた。

 女は結局、男が彼女の為だと思ってやった行為によって青春の大部分を闇に落とした。

 虐めによる虐め、根拠の無い噂による誹謗中傷の嵐。過去の母親の悪事を四六時中耳にするようになり、果ては母親にまでこの話は届いた。

 母親は泣いていた。ただ娘が貶され続ける状況に謝罪をし、何とか金を捻出して他県に引っ越して新生活を構築しようとした。

 しかし、それでも母親の悪事の話は離れてはくれない。何度も何度も引っ越しを繰り返しても噂は姿を現し、二人は疲弊に疲弊を重ねた。

 どうしてと彼女は思い、自分で出来る範囲で調査を行い――そこに件の社長の影を彼女は見つけてしまった。


 社長からすれば、二人の存在は邪魔でしかない。

 出来れば早く死んでほしいとも思い、殺人とは取られない程度に妨害をしていたのである。

 社長の行為が憎悪から来るのは間違いない。徹底的に潰す為に己の力を最大限に使い、やがて母親は骨の如く細い身体で急死を迎えた。

 ストレスによる心臓発作。娘への申し訳なさと執拗に此方を狙う社長への恐怖が、母を崖から突き落としたのだ。

 最後の柱だった母を失い、女は泣き崩れた。曇り空が広がっていた心は漆黒に染まり、絶望に支配された内心に希望的な輝きは全て崩れたのだ。


 その時点で、もう女に生きていくだけの気力は無かった。このまま自分も死んでしまおうとふらふらと自殺用のロープを買いに出掛け、しかし彼女は最終的には運命的な出会いを果たす。

 彼女が覚えているのはアタッシュケースをぶら下げた影法師。男なのか女なのかが彼女には解らず、されど顔面と思わしき部分には曖昧な笑みが浮かべられていた。


『おやおや、可哀想なお嬢さん。 今にも死にそうな顔をしていらっしゃるが、何処かへお出かけかな?』


『…………』


『そう警戒をしないでもらいたい。 なに、私はしがない社会人だ。 営業をしに此処に来たのだが――――貴方になら、しても良いかもしれないね』


『……?』


 場所は人通りの少ない田舎道だった。

 周りに田んぼや畑が広がる中、営業だと言った影法師はアタッシュケースを開けて彼女に中身を見せる。

 小振りな箱の中には数枚のカードが入っていた。どれもが決して安物だとは思えない、実に伝統工芸品じみた品物が黒いスポンジで丁寧に保護されていたのだ。

 

『貴方は何か達成したい夢があるかい?』


『……いえ、特には』


『そうか、実に寂しいことだ。 人が輝くには夢や、夢とは言わないまでも目標が重要になる。 それが無い人間は、言葉は悪いが人らしくはいられない』


 影法師の人物は、黒く澄んだ目を女に向けていた。

 そこに一分の嘘も見受けられず、社会人として活動せざるをえなくなった女に同情の念を真に寄せている。

 社会は悪いことばかり。人間もまた、己の欲望を満たす為に容易に悪化を働く。

 影法師の言葉は真実を語ってはいない。どこまでも一側面しか語っていないのだ。

 何となく、女は影法師が関わってはいけない存在なのだと思った。一度関りを持ってしまえば悲劇的な末路を辿ると漠然とした確信を持ち――もう既に今がそうではないかと無意識に言葉が浮かんだ。


『私が売るのは夢へと繋げる力だ。 不可能を可能に変える、奇跡に等しい力だ』


『なんですか、それ。 嘘を言うのでしたらもう少し隠してからの方が……』


『嘘ではないのだから隠しようがないな。 私の言葉を聞き、私の品を買った者は皆幸せを掴むことが出来た。 君もそうなりたいのならカードを一枚取れば良いし、そうなりたくないのなら取らねば良い。 どちらも私には損になりえないよ』


『営業なのにですか?』


『真に絶望している者はこの社会に山のように存在する。 誰かに縋らねば生きていけない者にとって、私の存在は決して欠かすことが出来ないさ』


 影法師は自信に溢れていた。

 低く底から響くような小さな笑い声を発し、さぁどうするとアタッシュケースを揺らす。

 勿論、これは怪しい話だ。順当に考えるのならば受け取らずにそのまま逃げてしまうべきである。

 断言をする者は基本的に裏側の真意を語らない。真の利益を表に出さず、偽りの品を受け取って踊っている者を嘲笑しながら手にした利益で別の商業を行う。

 ただ、影法師は他とは違う。怪し気な身形をしているにも関わらず、相手は此方を気遣うような雰囲気を発している。

 

 他人に貶されるのが日常である女にとって、それは新鮮だった。

 同時に少し嬉しさもある。死んでしまった母親が残した保険金のお蔭で未だ生活は続けられるだろうが、このまま社長が与える毒によって次の仕事もクビにされる懸念は残り続ける。

 生きていく気力も尽きた現在、金があっても無駄なだけだ。

 ならばいっそ、この新鮮な感情を向けてくれる影法師の掌の上で踊ってもいいのかもしれない。

 自暴自棄に等しいが、彼女はそんな気持ちでカードを一枚引いた。

 無数の銃が描かれたスペード。引いたカードを見て、影法師は笑みを深める。


『有難う、勇気あるお嬢さん。 貴方は夢への一歩を此処で刻んだ。 この力をどのように扱うかは貴方次第だ』


『私、次第ですか』


『そうだとも。 使いたい時は首にそれを刺したまえ。 そうすれば、君は莫大な力を得ることが出来るだろう。 もしかすれば同じカードを持つ人物と会うかもしれないが、出来れば仲良くしてやってくれ』


 こうして、彼女は怪物の力を手に入れた。

 最初にそれが発揮されたのは彼女を襲った不審者に対してで。姿が変わったことや能力の詳細に最初は悪戦苦闘していたが、慣れてしまえば手足を操るが如くに使いこなすことが出来るようになった。

 影法師の言葉は嘘ではない。溢れ出る力は人間を紙のように千切り、無数の銃は出し入れが容易であることで証拠として残らない。

 この彼女をして無敵とも表現出来る力で、次は反射的ではなく能動的に人を襲撃した。

 

 それは彼女を虐めた過去の同級生であったり、虐めの原因であった元カレであったり、会社を経営していた社長一家全員だ。

 当時は騒がれはしたものの、その頃には丁度各地で他の怪物達も活動をしていた。

 話題は直ぐに流れ、世界は荒廃へと一気に進んでいったのである。

 力を得て、彼女は人を見下せる立場を得た。誰にも指図されずにやりたいことがやれる環境が出来て、正に求める理想を描くことが出来たのである。

 例えその背後に巨山の屍があったとしても、それは彼女にとってただの塵でしかない。

 無くなっても良いモノに意識を向けることを彼女はしなかった。


 ただその代わり、彼女は自身が支配する地域において従順な者には手厚い優遇措置を施して理想の維持をさせた。

 良い服を、良い家を、良い食事を。この時代であればおよそ天国と呼べる程の水準を彼女は従僕とも呼べる者達に与えたのだ。

 彼女なりのルール。――――悪人ではない者には、この世で幸せを掴む権利がある。

 

「……私は、皆に幸せを与えてあげられる存在になった。 あの頃の惨めな思いを与えないように、枠組みを……壊した」


 両足は無い。ただ回復の為に彼女自身の肉が不気味に蠢き、不快感に世良は眉を顰める。

 社会が構築する枠組み。弱者廃絶の仕組みを彼女は破壊し、その上で幸福と呼べる空間を新たに構築する。

 彼女の夢とは、自身を含めた真っ当な者が幸せに生きれることだった。

 何故善人ばかりが貧乏クジを引かされる。何故人が良いことが悪点とされる。

 そんなのはおかしい。普通に考えて、努力している者や誰かを助けられる者こそが良い待遇を受けるべきだ。

 故に死ね。悪果を働く人間は、残らず全員地獄で裁きを受けろ。


「私の努力が、こんな形で終わるなんて……」


「当然だ。 ――悪人は死ぬべきだからな」


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