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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第二十話】その男、圧倒する

 戦艦の力を引き出して着装を果たした一喜だが、実際に戦闘をする上で第一に感じたことは想像以上の遅さだった。

 人間よりは速いにせよ、重さはやはり感じてしまう。迫る弾丸のほぼ全てを回避出来ずに受けた時点でやはり装甲と火力に比重を置くことは動き辛さに直結するのだなと再認識させられた。

 けれども、この姿には速度をカバーする能力がある。

 事前に情報収集をしていた成果がここで役に立った。彼は戦艦の装甲パーツの一部を切り離し、遠隔で砲台を構築した上でまったく異なる箇所から攻撃させたのである。

 威力は本人が撃った時と変わらない。手数が欠けるのであれば、そもそも一回の攻撃回数を増やせば良い作戦だ。

 その成果は果たして、完全に失敗に終わったという訳ではない。


 実際の威力はやはりリアルに設定されているが故に、どうしても番組で出て来た際のものと比較すると齟齬が出る。

 今回は威力が大き過ぎた。複数の建物を纏めて吹き飛ばせる破壊力は周りの人間を容易く巻き込んでしまうだろう。

 それは一喜の本心ではない。大型の砲を使うのは注意して、なるべく小型砲のみで戦おうと彼は決めた。

 向かい合い、彼は女の姿勢に上手くいったと内心喜ぶ。

 足が止まり、銃口はその全てを彼に向けたまま。人が怪物に向けるような警戒を一喜に向け、どうすれば勝てるのかを脳裏で計算している。


「来ないのか? ――期待させるにはまだ足りないと思っているが」


「……随分気が早いのですね、先の攻撃程度で怯むとでもッ?」


「の、割には仕掛けてこないじゃないか。 策があるならさっさと見せろよ、格下風情が」


「……ッ!」


 二本の足で立ち、彼はただ煽るだけ。

 小さな文句のようなものではあるが、しかし怪物と成り果ててから一度も負けの無い彼女には煽られる経験がまったくと無い。

 歯噛みが周囲に響く。不快な音と共に銃身は震え、再度無数の弾幕が彼を襲う。

 それら全てに直撃を受けながら、装甲は弾丸の全てを弾き飛ばす。

 有効打になどなるものか。お前の攻撃など無意味同然。スーツの内側から聞こえる金属の弾ける音を聞きつつ、一喜は大丈夫だと意を決して前に出る。

 速度は一歩一歩遅く。圧倒的であることを示すように。目前の銃女以外にも、世良や十黄にも見せ付けることを意識して彼は進む。

 両肩の砲台も動きを始める。三連の内の一番威力がある外側を省き、最も内側の小型砲に弾が込められた。


 銃女にもそれは見えている。

 小型砲が真っ直ぐ狙っていることを警戒し、相手が撃ち出したと同時に回避するつもりだ。

 彼女から見て、一喜は鉄の壁を連想させた。逃げられない壁が迫ってくる感覚は焦燥を煽り、同時にそう思ってしまう自分に怒りも感じた。

 コピーカードには上限値が存在する。同時に、適合率が決して高い訳ではない彼等では実力に明瞭な天井がある。

 そして――その全てを真のアドバンスカード持ちは凌駕していた。

 実際に相対していると彼女には解ってしまう。あの戦艦の装甲をたかが銃の群れが襲った程度で突破など出来るものだろうか。


 いいや、無理だ。相性としても決して適当ではなく、返り討ちにされる確率の方が高い。

 一喜の適合率を銃女は知らないが、少なくともこの場の誰よりも高いのは確かだ。

 全てを理解している。全てを認識している。しかしその上で、納得することだけはしたくない。

 小型砲が火を吹く。砲口から火が吹き出る瞬間に女は跳ね、近くで聞こえる破壊音を一切気にせずに接近を選ぶ。

 同じ遠の距離で戦う二人であるが、より遠距離の射程を有するのは一喜だ。

 実際に近いのは彼女の方であり、故に相手の札を減らすには接近戦が何よりも重要となる。

 加え、銃弾が装甲を跳ねても彼女は気にしない。距離減衰の一切を無視して直接全火力を叩き込めれば、如何に分厚い金属の壁も突破が出来る筈だ。


 彼女の行動は半分正解だった。

 一喜は街へ悪戯に被害を出したくない。その為に最も火力のある手段を封じ、二つあるメリットの内の片方を潰している。

 身軽である彼女の方が純粋な速度は上で、肉薄するのも然程難しくはない。

 世良や十黄を襲う頭は既に無かった。仮に二人を襲って殺すことに成功したとして、激昂した一喜に潰されるのは明白だ。

 相手が手加減をしているから生きている。それが現実で、彼女は怒りを募らせながら眼前にまで接近したと同時に十丁の武器が火を吹く。


 ツインアイ全体に火花が散った。

 装甲からも同様に火花が広がり、衝撃に一歩足を後ろに動かす。

 その反応で彼女はいけると判断した。僅かなダメージ量であろうと、これを繰り返していけば何れ装甲にも限界が生じると。

 ――――だが、それは一喜にも容易に予想出来る未来だ。

 一点集中ではなく、距離を詰めた上での最大火力による攻撃。成程決まれば強いだろうし、スーツは衝撃で後退した。

 動き辛い身では動作に限界がある。このままを維持するのであれば、彼女の体力が継続される限りダメージを受け続けるだろう。


「つまらん」


「は――――ッ、う!?」


 二度目の接近。

 今度は目前で跳ね、回転をしながら背後を狙った。数を二十に増やしてバーストを吐き出すつもりだった彼女は、しかし慣性を無視した急落下に驚愕と困惑の声を漏らす。

 そのまま彼女は地面に叩き付けられ、動こうにも身体はまったく言うことを聞かない。一体如何なる技でと自身の身体を見下ろした時、そこで初めて自身が鎖で縛られていることを知った。

 鎖の終端には黒々とした錨が地面に突き刺さり、発生地点は一喜の太腿にある装甲からだ。

 彼の身体は全身が戦艦と同一である。装甲をパージして砲に変えられるのならば、船の動きを止める錨が存在しても然程不思議ではない。

 失念していたのは彼女の方で、一度縛られた以上は一喜は簡単に解いてやるつもりがなかった。


 足を振り上げ、そのまま思い切り女の腹に落とす。

 流石に戦艦そのものの重量を持つ訳ではないが、それでも何十トンもの重量物が勢いを込めて落とされれば堪ったものではない。

 事実、彼女の腹は潰れた。幾つかの内臓は死の危機に陥り、あまりにも威力に剥き出しの口から赤い血が吹き出る。

 そのまま彼は小型砲の先を彼女に向け――無慈悲に撃ち出す。

 地面に向けての砲撃とも言える攻撃の先で彼女は激痛と衝撃を受け、けれど胴体部分が吹き飛ばされることはなかった。

 一喜が吹き飛ばしたのは両足。高速で移動する術を殺し、声無き絶叫を放つ女を無視して横っ腹を蹴り飛ばした。


 樽が転がるように無様に彼女は回転し、近くの廃墟の壁に激突して再度血を吐き出す。

 彼女の数十数百の攻撃と比べ、彼が行った攻撃はたったの数発。

 しかも不意打ちの拘束からの僅か数十秒の出来事だ。逆転が起きる時は一瞬だと誰かは語ったが、彼等の戦いはおよそ戦いとも呼べない代物だ。

 幼児が大人に喧嘩を売るようなもの。彼女は大人である一喜にじゃれつき、適当に遊ばれて粉砕されたに過ぎない。

 接近戦を仕掛ければだとか、数を用意すればだとか――――そんな彼女の思考はまったくと無意味だったのだ。


「違いは理解したか。 ……いや、もうまともに話も出来ないか」


 ボロボロの銃女を見て、一喜の胸には奇妙なことに罪悪感も忌避感も浮かばなかった。

 生来のサイコパスだったのか、この世界を現実だと思えていなかったのか。

 一喜は足の無くなった女を気持ち悪いとは思うものの、無事に勝利を掴めた事実の方がよっぽど感情が高まった。

 ただし、問題が無いとは言わない。勝てるには勝てたが、それは相手が激昂していたが故だ。

 そうなるように誘導してはいたが、実際に成功するかは彼にも解らない。相手の性質をもっと知った上で練るのが普通だったのだろう。


「おい! 怪我とかないのか!」


 力無く倒れている女を見ていると、背後から世良が駆け寄って来た。

 そのまま装甲のあちこちを回るように確認し、一切の怪我が無いことが解ると同時に安心したように息を吐いた。

 十黄だけはジャケットの裏側に隠していた拳銃を女に向けながら接近していたが、その瞳には勝利による喜びで輝いている。

 

「油断はするなよ。 まだ攻撃手段が無い訳じゃない」


「同感だ。 化け物に常識が通用するだなんて思っちゃいない」


「――っと、とと。 そうだったな」


 世良もまだ終わっていないと思い出し、少々間抜けながら銃を服の裏から引き抜いて構える。

 それで相手を倒せる訳ではないものの、拳銃が安心を与えるのは事実だ。

 女は虚ろな目で一喜を見ていた。一喜も自身に視線が向けられていると理解して、ゆっくりと彼女に近付く。

 満身創痍も同然な彼女の身体からは大量の血が流れ落ちている。内臓が潰されたことで呼吸をするのも難しく、元に戻るまでは多くの時間を求められるだろう。

 怪物には自己回復機能が強く搭載されている。見るからに車椅子生活になるだろう惨状でも、数日もすれば元に戻ると女は確信していた。


 尤も、そんな時間が彼女に与えられることはない。

 目前に居る怪物を超えた怪物が暴れ回ったツケを払わせに来たのだ。もう彼女には抵抗も出来ずに死に逝く定めしか残されていない。

 敗北を強烈に叩き付けられ、故に彼女の感情は死を迎えた。虚ろな目には過去の強気だったものは無い。

 惨めな様だった。ある種、可哀想とも取れる状態だった。

 しかし三人は同情しない。彼女がしていたことと比較すれば、こうなっているのはまだ生温いのだから。


「……どう、して。 ――どう、して」


 ぶつぶつと、彼女は独り言のように言葉を漏らす。

 嘆きと悲嘆が混ざった言の葉には、彼女の真実が宿っていた。

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