表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

勇者召喚されたのに一人だけ城の地下ダンジョンに召喚されました

作者: 急に書きたくなって5時間かけて短編を書き上げた人

「よくぞ参った!未来の勇者たちよ」


 修学旅行で神社参りしていたら、突然真っ白な空間にいた。

 そこには自称神と名乗る九尾の狐娘がいた。


 俺はこの修学旅行にあまり乗り気ではなかったが、幼馴染みである結ノ華詩音(ゆいのはなしおん)が「ぜひ、来てほしい」と言うから来た。

 行ってみたら、俺はグループの数合わせとして呼ばれただけだった。


 そのグループには学年一の優等生でイケメンである宵宮(よいみや)龍之介(りゅうのすけ)と学校一美しいとされる流星芹奈(ながれぼしせりな)、目付きと態度は悪いが誰よりも優しい豪門谷(ごうもんだに)虎次郎(とらじろう)がいた。


 宵宮と流星が付き合っていることは在席していれば誰でも知っていた。そして豪門谷のことを詩音が好きだった。


 五人組のグループで二人組がいる中、一人だけこの地獄にわざわざ参加したいという聖人は、まずいなかった。そこで余り物で修学旅行をサボろうとしていた俺に白羽の矢が刺さったのだ。


「ねぇ、ともくん。お願いだから修学旅行に来て?」

「なんでだよ」

「ともくんと回りたいところがあるの!」

「しょうがないなぁ」


 というやり取りをしてまさかの初日からの放置。さらには四人から巻かれて一人迷子。神社でお参りしていると俺は四人から離れた場所にいるにも関わらず、なぜかこの狐っ娘にお呼ばれしてしまった。


 狐っ娘は俺がいることに驚きはしたが、遠くに一人ポツンといたことでまるでいなかったかのように話を進めた。


 宵宮たちは突然の出来事だったが、すぐに意識を取り戻して狐っ娘に問い始めた。


「あ、貴方は?」

「わしは天狐神のイノリじゃ。お主たちにはこれからわしの娘であるシオリが担当している世界で勇者になってもらう」

「そ、それってつまり?」

「うむ、お主たちが大好きな勇者召喚、異世界転移じゃ!」

「マジか!」


 宵宮が意外とオタクだったことに驚きだ。


「そこでお主たちには勇者になって、世界征服を企む魔族どもを駆逐してほしいのじゃ!」

「なるほど。ですが、その提案は私達にメリットがあるのでしょうか?」


 流星が当然のことを言う。確かに俺たちには今のところメリットがない。


「もちろん、魔族を駆逐すればこの世界でなんでも願いを叶えてあげるのじゃ」

「なぁ?それって家を裕福にすることも可能なのか?」


 豪門谷が狐っ娘に質問をする。そういえば豪門谷はたくさん兄妹がいて、家もあまり裕福ではないと聞く。家のために毎日のようにバイトをしているめちゃくちゃいい子だ。


「もちろんじゃ。今の生活よりも確実に良くなることを約束する!」

「だったら俺はやるぜ!」


 豪門谷がやる気だ。豪門谷がそう言えば、自ずと詩音も賛同する。最初から行く気だった宵宮は興奮気味で、流星を説き伏せている。


「うむ!お主たちにはぴったりな特別なスキルを贈与するのじゃ!あちらの世界に行ったらステータスと心の中で言うのじゃ。そうすればスキルを見ることができる」


 なるほどな。そうしないとすぐ死ぬもんな。で、それは俺にもくれるのか?


 神ならば心が読めるだろうと思い、問いかけてみると、チラッとこっちを見ただけで反応がなかった。つまり、俺はあっちの世界に戻してくれるんだろ?


 すると狐っ娘はいたずらをしたそうに笑った。まさか、こいつ俺も巻き込むつもりじゃ?


「うむ、決心がついたようじゃな!では、向こうもウズウズしておる!お主たちなら世界を救うことも容易いじゃろう!」


 狐っ娘は両手を広げると魔法陣が足元に浮かんだ。


「ではな!勇者たちよ!」


 その瞬間、視界がホワイトアウトする端で四人が手を繋いで同時にジャンプするのが見えた。


 ◇


 気が付いたらどこかの洞窟に横たわっていた。

 頬に伝う雫があるということは地下水である可能性が高い。

 ポチャンと音がなるその場所には光る苔が生えていて視界は良好。しかし状況が最悪であることには変わりない。


「どこだよ。ここ。ひとまず……ステータス」


 頭の中に情報が流れてきた。


 年齢が15で性別は男。名前は遠藤智昭(えんどうともあき)、巻き込まれた者という称号。そしてスキルは【位置固定】【武技:投擲】【魔術:土】【空間把握】【武技:糸術】という良いのか悪いのか判断に困るラインナップ。


「不遇どころか最低な待遇な上にどこかもわからないようにするためか、鑑定とかないのかよ。マジで無理ゲー待ったなし」


 殺しにかかってることが丸わかりな上に助けを求めるにも人がいる場所がわからない。


「俺が何したっていうんだよ」


 絶望的かつ絶体絶命。


「悩んでも仕方ない。まずは生きる術を学ばなくては」


 まずは気になっている糸術。まさかあの有名なヒーローのように糸を出すことができるのか?


 やってみる価値はある!


「出ろ!糸!」


 手を突き出してみたが出なかった。もう一度ステータスと唱えてみると、糸を扱うことができるだけで糸を生成することができなかった。


「マジで舐めてるわ」


 次は空間把握。これは常時発動でなんとなく周囲の状況がわかるというもの。スキルについて深く考えてみるとどうやらレベル制らしい。レベルが上がれば範囲も広くなるらしい。


 これは育てるしかない。というかこれを育てないとまず生き残れない気がする。


 魔術:土だが、言いにくいので土魔術とする。これは考えみると呪文が浮かんできた。レベル1の段階で使えるのは【ディグ】【アースバレット】【アースニードル】だった。これにもレベルがあって使用回数によって上がっていく仕様だ。


 魔力的なものが必要かと思ったが、使用回数が決まっていて5分に一回分、回復する。今の段階では一つあたり五回が限度。


 とりあえす把握するために一回ずつ使用することにした。


「まずはディグから」


 壁に手を当ててディグと唱えてみる。

 するとディグに関する情報が流れてきた。

 この魔術はレベル1かける1立方メートルの範囲内の穴を開けることができるものだそうだ。

 一度発動した場所はいつでも形を変えられるそうだ。


「なんでだ?土魔術にはそんな説明なかったはずだが?」


 情報を探ってみると犯人がわかった。

 位置固定スキルが土魔術との相乗効果で再利用可能を実現させていたようだ。

 不遇スキルかと思っていたが、思っていた以上にチート性能だった。


「これでいつでも改築可能な家ができるってわけか。次はアースバレットだな」


 これはディグで掘り出した土を射出できる魔術だった。これで飛ばしたものはディグの操作範囲から外れるので戻すことはできない。

 最後にアースニードルは自身を中心に5メートル範囲内に土の針を一つ作れるというものだった。


「攻撃手段があるのはありがたい。しかもこれ、使用した土によって硬度が変わるのか。ここの壁は強固だから強力だな」


 スキルの有用性がわかったところで、早速行動に移った。まずは安全圏をつくる。壁に手を当てて自分が入れるだけの穴をつくる。


 五メートル四方の穴をつくり、光る苔を置き、出口を小さくして空気孔をつくった。


「よし、回復するまで待機だ!」


 穴の中を快適な空間にするために床を平にして光る苔を天井に埋め込んだ。


 それから五分が経つごとに穴を広げた。一時間ほどで八畳のワンルームが完成した。土で作ったソファに土で作ったベッドができた。


 どうやらディグは1立方メートルの中のものを押し固めるらしく、より硬いものが作れることが判明した。


「これって武器も作れちゃう?」


 ディグの中で作った槍をアースバレットで射出する。


「で、出来ちまった……」


 先が尖っているだけの棒を槍と名乗るのはあれだが、これが武器第一号だ。


 ◇


 五時間ほどかけて部屋を拡張しながら武器を増やしていくとそこらのマンションよりも広い部屋ができてしまった。

 難点と言えるのは何もかもが硬いこと。

 そこは光る苔を埋め込むことで軽減していった。


 あとは食料だけ。地理がないのと鑑定がないおかけで時間が経てば経つほどお腹が空いていく。


「くそっ!まさか光苔が食べられないなんて!」


 空腹のあまり光苔に手を出したのだが、草の味ならまだ耐えられたのだが、ゲロまずかった。


 地下水のことを思い出し、外出して水を貯める場所を作った。その水に鉱物が含まれていることを懸念してディグとアースバレットで鉱物を取り除いた。

 その結果、水色の塊が出てきた。


「これはまさか、ミスリル鉱石か!?」


 色だけで判断したのだが、握ってみたら簡単に砕けた。


「使えねえ!」


 綺麗な石ができたので、とりあえず集めて部屋に飾っておくことにした。

 部屋を拡張しては外を覗いてなにかないか探っていると、光るキノコを見つけた。


「こいつは食べられそうだな!」


 光るキノコなんてまず危なそうなものを食べると誰が思うか?俺が食べるんだよ!


 これ以外に食べるものが見つからない。たとえ毒があったとしても仕方ない。


 俺は決死の覚悟で光るキノコを食した。

 すると、身体が発光した。


「は?」


 それ以外になにも起きなかったが、辺りが騒がしくなった。

 部屋の中にいた俺は状況を理解できなかったが、光るキノコをとったときに開けた穴の先に巨大な黒い狼が見えた。


「ば、化け物だ!」

「グルルル?グルッ!ウォンッウォンッ!」


 声に反応した狼は俺が壁の向こうにいることに気づいた。


「グルルル!ウォンッウォンッ!」


 そして壁に爪を立て、穴に鋭い牙のついた口を押し込んできた。


「うっ、やべぇ!まさか壊せるのか!?」


 穴の端に小さなヒビをつけ、今にも壁を破壊しようとする狼。


「壊されてたまるかぁ!」


 壁に手を当てて穴を塞いでいく。

 土壁が塞がっていくのを感じ取った狼は顔を引っ込めた。

 その瞬間に穴を完全に塞ぐことに成功した。


「はぁ…はぁ……やったぞ……」


 壁の向こうから唸り声が聞こえた。


「まだ諦めないか……さっさといなくなれよ!」


 一時間ほど緊張しながら壁の向こうの狼と対峙していると、光るキノコの効果が切れたのか、身体の発光が収まった。

 それと同時に狼が立ち去っていく音がした。


「お腹はなんとかなりそうだけど、まさかキノコに狼を引き寄せる効果があるとは……」


 それでもキノコを食べることはやめられそうにない。

 狼に対抗するために仕掛けをつくろう。


 外に出て安全を確認してキノコを採取した。

 部屋の中にキノコを植え、外に柵と穴を作り、アースニードルを敷き詰める。

 あとは握れば壊れる水色の鉱石を平べったくしてその上に置いた。

 見え見えのトラップだが悪くない。柵で見にくいのがポイントだ。


「よし、キノコを食べよう」


 トラップの前に観覧席とさっきつくった穴と同じ大きさの網戸をつくった。

 これでさっきの狼が来るはずだ。


 アースニードルで死ななかったら槍で直接倒すだけだ。

 光るキノコを口にすると身体が発光した。

 そして遠くから狼の遠吠えが聞こえた。


「くるっ!くるぞ!」


 興奮しながら待っていると狼が走ってくるのが見えた。

 そして柵を乗り越えて水色の鉱石の上に乗り、見事にトラップにハマった。


「よっしゃぁ!」

「グルルルッ!グルァ!?キャンキャンッ!?」


 アースニードルが身体に突き刺さった狼が悲鳴を上げるとまた遠くから狼が現れ、柵を越えて自ら罠に引っかかった。


 さらに四匹の狼が現れて罠に引っかかった。

 光るキノコの効果が切れると追加の狼が現れなくなったが、十分なほどに獲物が集まった。


「よし!よし!狩りの成功だ!」


 観覧席から前のめりで見ると、アースニードルで瀕死になった六匹の狼が睨みつけてきた。


「あとはトドメだけど。投擲で倒すか」


 今まで使ったことがなかったスキルだが、十分に役立つはずだ。

 作りまくった柄のない短剣を取り出し、狼に投げつける。避けることの出来ない狼の腹や腕に刺さり、次々と息絶えていく。


「ふっ、どうだ!」


 狼を無傷で倒し切ると、急に身体に力が入らなくなった。


「ま、まさか……遅れて、キノコが、あたった?」


 膝から崩れ落ちた俺はそこで意識を失った。


 ◇


 目が覚めると血なまぐさい臭いがした。


「くっさ……」


 立ち上がって外を見ると息絶えた狼の死骸があった。

 そしてそこには追加で引っかかったであろう別の化け物の死骸があった。

 血の匂いに惹かれてやってきて、大方罠の中に入って自滅したのだろう。


「この臭さ、食えそうになさそうだな。それに火がないから生食とかまず無理だ。放っておこう」


 穴を塞いで血なまぐさい部屋を閉じる。さすがにあそこに入るのは辛い。


 光苔でつくったベッドに横たわり、意識が失った原因を探る。そこでわかったことは、レベルが上がっていたことだ。スキルではなく自身の。


 状況がわかりやすくするために壁にステータスを書いた。


 《ステータス》

 名前:遠藤智昭

 レベル:39(38↑)

 称号:巻き込まれた者

 スキル:【位置固定Lv2】【武技:投擲Lv1】【空間把握Lv2】【魔術:土Lv2】【武技:糸術Lv1】

 攻撃力:0

 防御力:0

 魔力:0

 速度:0

 幸運:0

 補正値:残り38pt、スキル:38pt


 ゲームのステータスみたいにできたが、これを見てあまりの雑魚さに驚いた。オール0って不遇すぎないか?


 レベルが急激に上がったことで意識が遠のいたことはわかった。あとはこのステータスをどうやって上げるかだ。


 スキルptについて考えでみると、これで新しいスキルを覚えることができるようだ。10ptで一つ覚えられるので慎重に選ぶ必要がある。


 好きなスキルを覚えたいところだが、覚えるなら何食べてもお腹を壊さないために毒耐性は必須。追加分のスキルはスキルptでしかできないので、覚えられるのは有限ということになる。


 覚えられるスキルを探っているとステータスを上げることのできるスキルを発見した。経験値を倍増するスキルがあったが、これは得られるスキルptを減らすデメリットがあった。


 最終的に悩んで悩んで取得したスキルはこれだ。


 《ステータス》

 名前:遠藤智昭

 レベル:39(38↑)

 称号:巻き込まれた者

 スキル:【位置固定Lv2】【武技:投擲Lv1】【空間把握Lv2】【魔術:土Lv2】【武技:糸術Lv1】【耐性:毒Lv1】【補正:怪力Lv1】【補正:頑丈Lv1】

 攻撃力:9❨+1❩

 防御力:9❨+1❩

 魔力:10

 速度:5

 幸運:5

 補正値:残り0pt、スキル:8pt


 補正はレベル分のステータスをあげるスキルだ。それからこの攻撃力とか防御力は指標みたいなもので、攻撃力対防御力で上だった方が強いって説明だった。


 魔力は魔術の威力が上がるのと10単位で使用回数が一回増える。速度は反応速度が上がり、幸運は幸運だ、よくわからん。


 これで間違いなく死ににくくなった。この怪力と頑丈の上げ方だが、筋トレをするとレベルが上がる。


 だから光るキノコを食べて敵を倒す以外にやることは筋トレだ。もちろん、出口を探すことは最優先事項だが、外に出るには自分が弱すぎる。


 今は強くなることだけを考えよう。


 ◇


 あれから一週間が経過したと思う。寝て起きて壁に傷をつけたのが7回目だからだ。


 地下水を光るキノコと光る苔にあげることで育てることに成功したことがここ一番の成果だ。これで食料と灯りに困らない。


 レベルも罠をいくつか作って57に上がっている。その間に新しく覚えたのは【糸生成Lv1】と【耐性:空腹Lv1】だ。この糸でボロボロで臭い制服からギリシャ人のローブに着替えることに成功した。


 なにせ裁縫なんてやったことがなかったから、タオルをつくるのが精一杯だった。ほつれてるし形も歪だが、自信作だ。これなら商売もできそうだ。


 7日も経ったので地下水で簡単な水浴びができるようになった。タオルもあるし、あとは石鹸があれば完璧だ。


 次の日、レベルが61になり、肉を食べるために火魔術を覚えようとしたら適正がなかった。適正は覚えることができたが、20も使うのが勿体なかったので、適正がある【魔術:植物】を覚えることにした。


 覚えた魔術は【グロウ】【草生成】【シードプラント】。この草生成はランダムで草を生やすことができる優れものだった。グロウで成長できてシードプラントで種を作れた。


 まさに自給自足するには最高の魔術。戦うのには使い物にならないかもしれないが、俺にとっては最重要だ。


 この魔術も使用回数が5回ずつだったので、ひたすら草を生やして育ててを繰り返した。その中には野菜もあった。久しぶりに食べたのは生の人参だったが、俺にはどんな食べ物よりもご馳走に思えた。


 生活が充実してきたので、地下へと道を伸ばした。普通なら上を目指すが、このレベルで出て、弱くても1000あるのが普通とか言われたら奴隷にでもなりそうだ。


 最下層まで行ってレベルが上がらなくなったら上に上がろう。それまでに俺も最強になっているはずだ。


 今のステータスはこんなもの。


 《ステータス》

 名前:遠藤智昭

 レベル:61(22↑)

 称号:巻き込まれた者、武器職人、農家

 スキル:【位置固定Lv4】【武技:投擲Lv3】【空間把握Lv3】【魔術:土Lv5】【武技:糸術Lv2】【耐性:毒Lv2】【補正:怪力Lv4】【補正:頑丈Lv3】【耐性:空腹Lv3】【糸生成Lv2】【魔術:植物Lv2】

 攻撃力:15❨+4❩

 防御力:14❨+3❩

 魔力:20

 速度:6

 幸運:5

 補正値:残り0pt、スキル:0pt

 土:【アースバレットLv3】【アースニードルLv3】【ディグLv5】【アースアローLv1】

 植物:【グロウLv2】【草生成Lv1】【シードプラントLv1】


 土魔術のレベルが上がって新しくアースアローを覚えた。これはバレットよりも強い一点集中型の魔術だ。バレットはディグでつくったものを取り出すだけの魔術であり、あまり攻撃には向いてない。


 初めて突出した魔術を得たわけだが、外に出てレベルを上げようとは考えていない。なぜなら怖いから。今まで化け物と正面から向き合ったことはない。


 危ないことは避けるに限る。当たり前の心情だ。


 だからといって訓練は怠らない。槍と剣を振り回して筋トレをする。走り込みができるほど部屋は広くなったし、罠も穴の深さを広げた。


 アースニードルで倒さず、槍を突き出して倒すようにしている。倒した化け物の数は百を超えている。それでも毎日のように化け物は罠に引っかかり死んでいく。


 二週間が過ぎ去った頃、ようやくここがただの洞窟ではなくファンタジーによくあるダンジョンということがわかった。


 ディグで支配していない場所に置いていた化け物の死骸が消えたことで理解することができた。


 ダンジョンということはボスモンスターもいるかもしれない。


 俺はさらに二週間かけてひたすら下へと堀り、ボス部屋にたどり着くことができた。


 そこには豪華な扉があり、中には二足歩行の狼がいた。ファンタジーで言うところのワーウルフだ。


 扉が開くのを待ちわびているワーウルフ。ボス部屋に開けた穴から見ているのだが、こちらのことを見向きもしない。


 まさかとは思うが、扉を開けないとあのワーウルフは動くことすらしないのだろうか?


 そう考えた俺は壁を狭くしてワーウルフを持ち帰った。身動きを全くしないワーウルフだったが、生命活動はしているようで脈動を感じることができた。


「俺さぁ、常々人肌恋しいって思ってたんだよね。悪いんだけど、俺の子供、産んでくれない?」


 ◇


 三週間が過ぎた頃、俺は暇つぶしに狼を飼育してみることにした。すると狼たちは交配をして子供を産んだ。そして瞬く間に大人になり、襲い掛かってきた。


 仕方がなく倒したが、ダンジョンモンスター同士だから襲ってきたと考え、半分それ以外の血筋の場合どうなるか本気で試したくなった。


 さすがにワーウルフとやるのは無理があるので、動画で見たことがある馬の受精方法で産ませることにした。


 ワーウルフがメスであることは確認済み。ワーウルフに致した後、ボス部屋に戻して扉を解放した。そして扉の前にお肉を置いて産むのを待つことにした。


 狼たちは三日ほどで子供を産んでいたが、ワーウルフは一週間経っても子供を産まなかった。産んだのはワーウルフに致した一ヶ月後だった。その間にワーウルフは俺に完全に気を許し、一緒に寝るまでになっていた。


 この世界に召喚されて50日目、俺とワーウルフのシノの間に子供が生まれた。種族は人よりの狼、狼の獣人だった。名前はカノン。可愛い女の子だ。


「わふっ!」

「よしよし、いい子だ」

「ウォンッ!」

「もちろん、シノは綺麗だよ」

「「わふっわふっ」」


 言葉は通じなくても心は通じ合っている。異種族だろうとなんだろうと俺は初めて信用できる仲間、家族ができた。


 安心感を得ることができた俺は最下層を目指しながらレベルを上げ、次のボス部屋を発見した。そこにはゴブリンがいた。さすがにゴブリンはちょっと……となったので普通に倒した。


 次のボス部屋には鳥の翼と脚を持つハーピィがいた。だがオスだった。倒してメスが出るまで倒し続けた。復活することはゴブリンで確証済みだ。


 メスのハーピィが出るまで三週間かかった。また受精して子供を作った。ハーピィは卵生だったので、卵を大切に温めた。無理やりではあったが、ちゃんと夫としての役割を果たしたことでハーピィからの信用を得た。


 歯向かうにも俺はその頃にはレベルが86になっていて、負けることを相手は感じ取っていた。


 生まれた子は鳥の獣人だった。ハーピィにはハルカと名付け、生まれた子にはリルカと名付けた。


「ピィー!」

「すごいな!もう飛べるのか!?」

「ピィーピィー!」

「ハルカは竜巻を起こせるって!?そりゃあすげぇや!」


 俺がハルカといちゃついてるのを見てシノが嫉妬した。毎晩交互に寝ているがシノは納得ができないらしい。カノンとリルカは姉妹仲良くしているが、シノとハルカは違うようだ。


 どうにか仲良くできないかと考えたが、女性と付き合ったことがない俺には無理な相談だ。そこで何度も倒しているゴブリンさんに話を聞くことにした。


「なぁ、俺はどうしたらいいかな?」

「グギャァ!」


 殴りかかってくるゴブリンの手を掴み、持ち上げて上空へと投げ飛ばす。


「グギィ!?」

「やっぱゴブリンさんにも難しいかな?」


 自由落下していくゴブリンに目掛けて持ってきた槍を投げつけ、壁に磔にする。


「グギギ……」

「そうだよなぁ、自分で考えるしかないよなぁ」


 身動きの取れないゴブリンの首を剣で刈り取ると、自分が入ってきた扉とは反対側の扉が開いた。


「相談に乗ってくれてありがとな!今度狼肉でもご馳走するよ」


 ゴブリンさんの相談から帰宅すると、玄関で待っていたカノンが飛びついてきた。


「わふっ!」

「ただいま、カノン」

「ピィー!」

「ただいま、リルカ」


 二人を甘やかして部屋に入ると、床に倒れたシノとその前でおろおろしてるハルカの姿があった。


「どうした!?」

「ピィーピィー!」

「何言ってるかわからんけど、シノが突然倒れたんだな!」


 シノをお姫様抱っこしてベッドに連れていくと、シノが突然光り出した。光るキノコを食べたわけでもないのに発光した。


「へ?」

「わふっ!?」

「「ピィッ!?」」


 その場にいた全員が眩しい光に驚いて目を閉じた。光が収まると、そこには大人の狼の獣人がいた。


「え!?」


 俺たちがかたまっているとシノが目を覚ました。

 シノは俺の方を見ると、目をまんまるとしていた。


「あ、あれ、みんなどうしたの?」

「ええ!?喋ったぁ!?」

「わふっ!わふっ!」

「「ピィッ!?ピィ!?」」


 進化したシノはワーウルフから人狼になっていた。人型により近づいたことで人語スキルを覚えたらしい。つまりハルカも進化すれば人語スキルを覚える可能性がある。


 シノが50レベルになったことで進化できたので、他の三人も頑張って進化するために努力をした。


 シノが人に近づいたことで、俺はシノと行為に及ぶことにした。ワーウルフのときよりも気持ち的な部分が薄れたおかけでやることができた。


 そのおかげでシノの悩みがなくなり、ハルカとの仲が良くなった。最初から人型に近いハルカとは前々から致すことができていたので、それが払拭されたのはでかい。


 それからカノンとリルカは30レベルになり、人語を覚えることができた。家族みんなの言葉が通じるようになってよかった。


 ◇


 なんだかんだこの世界に来て二ヶ月。未だにダンジョンに住んでいる。慣れ親しんだ家から出るのは心苦しいし、まだ最下層についていない。


 直下堀りしているのだが、どうやらダンジョンは横に広かったらしい。たまたまぶち当たったのがワーウルフ、ゴブリン、ハーピィのボス部屋だったが、強さがバラバラだった。


 ゴブリンが一番弱く、その次にハーピィ、そしてワーウルフ。地下といえばひたすら下に伸びていくものだと勘違いしていた。


 元々ダンジョンボスだったシノとハルカに聞いてみると、ゴブリンの次がコボルト、そしてオーク。


 ハーピィときてゴーレム、ワーウルフだそうだ。間に何体もいたのに初っ端からワーウルフを引き当てた俺は運が無いのかもしれない。シノに出会えたのは幸運なので悔いはない。


 このダンジョンはダンジョンの中で言えば中級に位置するもので、ワーウルフの次にいるワイバーンが最終ボスだそうだ。


 長らく放置されてボス以外が強くなっていることで俺が異常なレベルアップをしているが、本来は50もあれば攻略できるダンジョンだ。


 それなのに俺はレベル93でワイバーンに挑もうとしている。世の中のことを全く知らない俺はレベル1000を目指していた。すると、二人に教え込まれた。


 どうやら93は外では化け物クラスらしい。39になった時点で化け物一歩手前まで来て、気づいた頃には全身浸かっていた。


 せっかくここまで来たんだ。レベル100になってワイバーンも嫁に貰ってから外に出てみよう。なぁに、どうせ一ヶ月もあれば十分だろ。


 そう考えていた時期も俺にはあった。まさかワイバーンのメスが激レアとは思いもしなかった。何回行ってもオスばっかり。卵が手に入っても100%ダンジョン由来だから言うこと聞かない。


 ワイバーンの肉が積み重なっていく。皮とか牙とかの諸々の素材は保管。肉はシノたちが消化。ワイバーンのメスを探して77回目。ついにメスが現れた。それも特殊個体。


 亜竜で尻尾に毒を持つワイバーンだったが、この個体は羽が二対の四本あった。


 いつものように捕獲して馬と同じ受精を施して飼育。気を許してからの生活、子育て。子供が生まれるまで三ヶ月かかった。身体が大きいだけに成長するまでに時間がかかった。


 生まれた子竜は、亜竜人でハーピィのような羽を持っていた。さらに親譲りのおかげで背中に更に小さな羽があった。その子が成長するまでにさらに二ヶ月をかけた。


 子竜とワイバーンが喋れるようになるまでに俺はレベルが110になっていた。化け物も恐れる化け物になったことでようやく心に余裕が持てるようになった。


 ワイバーンは竜人となり、名前はイヴと名付け、亜竜人にはヴァンと名付けた。ヴァンは初めての男の子だったが、竜とはいえ、姉二人には勝てなかった。


 優しい子に育ちそうで安心している。


 家族七人の準備が整い、いよいよ地上生活が始まるってところで見覚えがある男をダンジョンで拾った。


 その男は幼馴染みの想い人である豪門谷(ごうもんたに)だった。


 ◇


「ここは?」


 拾った豪門谷は疲弊していて、栄養失調を起こしていた。倒れた男を放っておくのは男が廃る。


「ここは俺の家だ」

「あんたは?」


 誰だこいつ。なんか聖人みたいになってないか?物腰が柔らかいし、修行僧にでもなったのか?


「まさか俺がわからないのか?」

「え?いやいや、あんたのようなマッチョは知りませんが……?」


 え?俺、マッチョなの?自分の腕を見てみると確かにムキムキだ。大胸筋も仕上がってるし、最初の頃に比べて体が大きくなった気がする。


「俺は修学旅行でハブられた遠藤だ」

「は?」

「もう一度言う。俺は遠藤だ」

「嘘だろ!?」

「なんなら勇者召喚からもハブられてここにずっと住んでいる」

「一年もこんなところに!?」


 あれ、おかしいなぁ。今日は十ヶ月目のはずなんだが、いつから時間がずれてしまったんだろう。


「俺のことはいい。お前はなんでここにいるんだよ」

「俺は……俺は魔族と結婚したんだよ。そしたら帝国の騎士に捕まってこの災厄のダンジョンに落とされたってわけだ」


 こいつ、16歳だろ?というか詩音はどうした?


「そうか。大変だなぁ」

「あ、あぁ……え?魔族と結婚したってことにはツッコまないのか?」

「え?魔族のことなんか知らんし。そもそも帝国なんてものも知らん。なにがだめなわけ?」

「そ、そうだな……まず帝国は人族主義で魔族のことを嫌悪している。勇者召喚したのもそのためだ。魔族を滅ぼすことを目的とした勇者が魔族に恋をするなんて笑えるだろ?」

「別に?好きなら好きで良くないか?というか詩音はどうした?」

「あ、あぁ、結ノ華か?あいつは騎士団長に惚れ込んでこの前、婚約を結んだぞ」

「ふーん、乗り換え早いな」

「え?まぁそうだな」


 詩音、あいつ軽いからなぁ。また乗り換えたのか。


「それで、豪門谷はどうしたい?」

「どうしたいって……そりゃあ奥さんを助けたいが……」

「そうか。ここから脱出できるのか?」

「無理だ。ここにはレベル40がゴロゴロいる。こんな化け物ダンジョン、脱出できっこない!」

「え?たかが40だろ?」

「遠藤……お前、ここにいすぎておかしくなっちまったのか?帝国最高レベルでも58だぞ!勇者の俺は32。これでも強いほうだが……ここでは雑魚に等しい……」


 え?58?158の聞き間違いか?いや、待て待て。


「ちょっと待て。40だぞ?クソ雑魚じゃん。勇者だろ?」

「やっぱおかしくなっちまったのか……!?」

「というかあれ、レベルなんてどうやって?」

「勇者は鑑定スキルを持ってるはずだろ?」


 おい、あのクソ狐。俺も召喚されたんだから鑑定スキル寄越せよ!


「あ、うん、鑑定スキルね。持ってる持ってる」

「だよな」

「うんうん」

「それでお前は何レベ……っ!?」

「どうした?」


 豪門谷が固まっている。目線の先には、扉の隙間から顔を覗かせるカノンがいた。


「ん?カノン、どうした?」

「パパぁ、お話し終わった?」

「いや、まだだけど」

「お昼ごはん食べよってママが」

「おう、もう少ししたら行くって言っといてくれ」

「わかった〜」


 カノンがトテトテと帰っていくと豪門谷が俺を見て震えていた。


「どした?」

「あ……いや……」

「どうした?急によそよそしくなって。カノンが呼びに来たから飯を食いに行くぞ」

「あ、お、俺はいいです……」

「何言ってんだ?栄養不足なんだから食わないと元気になれねぇぞ」


 弱腰になった豪門谷を連れて食卓に向かった。そこには今日狩ったばかりのワイバーンのステーキと家庭農園で育てたサラダ。香辛料と薬草を使った野菜炒めに温かいごはんがあった。


「今日は初めての客人がいる。あんまり騒ぐと恐縮するかもしれんから、気をつけてくれよ」

「「「はーい!」」」


 子どもたちが元気に返事をすると豪門谷がビクッとしていた。声に驚いたのかな?


 いつものように騒がしい食事をしていると、豪門谷がなぜか泣いていた。こいつ、こんなやつだっけ?


「うめぇ……うめぇよぉ……」

「お、おう、そうか。そんなに美味かったんなら、おかわりしても大丈夫だぞ」

「あ、あぁ……おかわりください」

「はいよ」


 竜人のイヴが素早くお茶碗に盛り付けると、また豪門谷は「うめぇうめぇ」って言いながら食べていた。


 豪門谷には使ってなかった部屋に送り届けた。


 シノたちには豪門谷が知り合いであることを告げ、地上に住んでいるので案内役にちょうどいいと説明しておいた。


 それからレベル32の雑魚なので優しく接するように言っておいた。末っ子のヴァンでさえレベル74なので、扱いを間違えれば殺しかねない。


 明日には地上に向かうと言って夜を終えた。感覚的には夜だったが、もしかしたら昼かもしれないので、起きたら豪門谷に聞いておこう。


 ◇


 次の日の朝、豪門谷は眠っていた。どうやら俺たちの朝は夜らしい。昼頃に豪門谷が目覚めたので昼が朝だった。


 豪門谷に今日中に地上へ向かうことを告げると、昨日は「無理だ!」なんて言っていたけどすんなり言うことを聞いた。


「それでこの上にはなにがあるんだ?」

「ダンジョンの上ですか?帝国の城があります」

「そうなのか。てことはこの上で勇者召喚されたってことで合ってる?」

「そうですね……」


 つまり、勇者召喚したときの四人のジャンプで俺との上下座標がずれて俺は地下ダンジョンに連れて行かれたってわけか。


「てことは壊していいんだな?」

「そ、それは困ります……お、私の妻がおりますので……」

「そうか。というか同級生だよな?突然敬語になったけど、どした?」

「い、いえいえ。私はこれで充分です」

「そう?まぁいっか。よし、地上へ行くぞ!」

「「はーい!」」


 カノンとリルカが元気よく返事をした。なぜか豪門谷が青ざめていた。やっぱりこいつおかしくなっちまったか?


「ここの管理はゴーレムたちに任せているから侵入者が来ても問題ない。地上がどんなもんか見たら帰ってくるだろうから、そんなに荷物はいらない」


 俺はシノとハルカ、イヴに向けていった。三人は好きなワイバーンの肉をカバンにこれでもかと詰めていた。環境がわからないから腐るかもしれないので、地下の冷凍室に戻してくるように言った。


 軽装で整えると自身の武器を持って地上へと向かった。豪門谷の持っていた剣は木の枝みたいに簡単に折れたので俺たちでも少し力を入れないと折れないワイバーンの爪の剣を与えることにした。


 すごいキラキラした目でお礼を言ってきたのは怖かった。


 地上に向かうにはゴブリンがわんさかいる道を通らないといけないと豪門谷が熱弁してきたので、ヴァンにブレスを撃たせて全滅させた。


「やっぱ雑魚じゃん」

「うわわ、わ、わわっわ……」


 豪門谷がおもちゃみたいになっていた。地上に行くまでに曲がりくねった道が多いと聞いたので、サクッと階段を作って一直線に出口に向かった。


 ダンジョンの入り口は扉があった。軽く押したら扉が金具ごと外れた。すると、上の方から鎧を着た男たちがやってきた。


「何奴!?」

「え?ごめん、壊れた」

「馬鹿な!なぜ勇者トラジロウが生きている!増援を呼べ!」


 どうやら帝国の兵士だったらしく、豪門谷を知っていた。豪門谷は険しい顔をしていたが、俺は状況が理解できず、困惑することしかできなかった。


 豪門谷の顔が面白いくらい変わっていったのが、子どもたちのツボにハマったせいで兵士たちが見える限り三十人ほどに膨れ上がっていた。


「うわっ、いっぱいご馳走が来たよ!」


 リルカはお肉が来て喜んだ。


「リルカ、あれは汚いから食べたらだめだぞ」

「え?でもいい匂いがするよ?」

「それでもだめだ」

「うぅ……わかったよ」


 リルカを宥めているとハルカがよだれを垂らしていた。


「ハルカもだめだぞ」

「味見だけでも」

「だめ!」


 魔物由来の血筋を持つ彼女らにとっては人族はご馳走らしい。けれど俺が嫌なので食べさせない。地上には、もっと美味しいものがあるはずだ。こんな薄汚れた人間を食べさせるわけにはいかない。


「それで、これが帝国の兵士か?」

「そうです」

「ずいぶん恨まれてるみたいだな」

「はい……」

「倒してもいいのか?」

「はい……もう彼らとは相容れない関係になってしまったので……」

「そうか。なら、遠慮はしなくて良さそうだな」


 俺は二メートルの大剣を片手に持って前に出ると色んな属性の魔術が飛んできた。


「なんだ、これ?ずいぶん手加減してくれるじゃねぇか?」


 直接身体に当たったが、ダメージがなかった。


「馬鹿な!?上級魔術だぞ!?」

「なんだ、上級魔術って?ただのランスじゃねぇか」


 ランスは魔術のレベルが10になった頃に覚える魔術で俺の中では初心者レベルだ。俺もまだ魔術のレベルが30になったばかりなのでようやく初心者を脱却したばかりと思っている。


「ランスってのはな、こうやって使うんだよ!」


 ディグで槍を作り、手に持って投擲する。

 槍は空を切り、兵士の隙間を縫って後ろで偉そうにしていた兵士が串刺しにした。


「うぎぃっ!?がっあっ!?ぐぎっいっいっ……ぁ」


 そのまま後ろの壁を破壊しながらいなくなった。


「なんて脆い壁なんだ!おい、豪門谷!よくこの城建ってるな!?」

「えっ……そ、そうですね?」

「まじかよ、欠陥物件じゃねぇか。危ないし、更地にするか補修でもしないとうちに被害が出るな……」

「あ、いや、人も住んでますし……補修がいいかと……」

「そうか……まぁ交渉して立ち退いてもらうしかないな」


 豪門谷がまた険しい顔をしていた。


「次はどいつだ?あれぇ、いない」

「父さんが攻撃されたので、僕が焼きました。ごめんなさい」

「いいよいいよ。邪魔だったし、ありがとな、ヴァン」


 あれだけ数のいた兵士は全員焼け死んでいた。

 ヴァンが申し訳無さそうにしていたので、頭を撫でてやった。

 すると「わたしもわたしも」とカノンとリルカが来た。


「甘えん坊ばっかりだな」

「「えへへへ」」


 まったく、可愛い娘たちだ。


「豪門谷の奥さんがいるところはわかるか?」

「はい。おそらくこちらに……」


 向かったのは牢屋だった。そこにはたくさんの魔族が捕らえられていた。中には腕が欠損しているものや傷だらけの魔族がいた。


「ひでぇな」

「戦争中なので捕虜になってますが、戦争前はもっと悲惨でした」

「そうか……それでどれが奥さんだ」

「……ここにはいないみたいです」

「わかった」


 元勇者の奥さんだ。もっと別の場所に連れて行かれているか、あるいはすでに殺されたか。日が浅い分、もしかしたら死刑台にでも連れて行かれたか。


「ヴァンとイヴはここの人たちをダンジョンの捕獲部屋に連れてってくれ。あそこは広い。安静にできるようにベッドの用意も頼む。それと襲いかかってきたり、言うことを聞かなかったら最悪殺していい」

「わかった」

「そうするよ」


 竜人の親子にとっては檻は枝と変わらない。力の前には黙って従うしかない。


「豪門谷の奥さんを探そう。こいつの匂いから辿れるか?」

「うーん、少しだけ遠くに匂いがするよ」

「そうか。豪門谷と一緒に探してきてくれ」

「うん!」

「シノも頼む」

「夜、楽しみにしてる」

「それくらい任せろ」


 狼の親子は豪門谷の奥さんを探しに行った。


 俺は城を補修するか退去するかの二択をこの城の持ち主に持ちかけに上へと上がる。一緒に行くのはハルカとリルカだ。


「すまんな、俺の私情のためについてきてもらって」

「んーん、お空を飛ぶのに邪魔そうだもん」

「そうだなぁ、邪魔だなぁ」


 天井を円形状にくり抜き、地面を上へ伸ばして登っていく。柱が伸びるエレベーターは障害物など無意味。早々に最上階にたどり着いた。


 そこには召喚するための魔法陣と王座に座る老人がいた。


「あれ、もしかしてここの王様?」

「ぬ?いかにも」

「悪いんだけど、ここから立ち退いてもらえるかな?」

「ここは由緒正しきアルバロス帝国の皇帝城である。誰だか知らぬが、身の程を弁えろ!」


 王様の横にいた腰の曲がった老人が怒ってきた。


「身の程?もしかして俺に言ってる?俺、ここの国民じゃないから身分の違いなんてないぞ。あるのは強いか弱いかの違いだろ?」


 レベル100で覚えた覇気を纏う。これで自分より弱いものを気絶させることができるとかなんとか。


 使った瞬間、王様と横にいたおっさん以外が気絶した。


「おお、意志の強さで耐えたか。やるなぁ」

「お、お、お……あっ……」

「あー、だめかぁ」


 腰の曲がったおっさんは寸での差で気絶した。残ったのは王様だけだった。


「うむ、強いのぅ」

「だろう?」

「じゃが、立ち退きはできん。この都市には数十万人もの住人が暮らしておる。守るためには城が必要だ」

「なにから守るんだ?」

「魔族じゃよ」

「どっちが戦争を仕掛けたんだ」

「魔族に決まっておろう」

「魔族、魔族ねぇ。いつ始めたんだ?」

「かれこれ数百年前から続く戦争じゃ。わしが知る由もない」

「本当か?」

「本当じゃよ」

「尻尾が出てるぞ」

「なにぃ!?で、出ておらんじゃないか!」


 王様は立ち上がると自身のお尻を見て反論してきた。


「尻尾が出る……ほぅ?人族に尻尾ってあったんだな」

「うっ!?ぬぬぬぬ……」

「お前、狐だろ。魔族なんてのも嘘っぱち。俺が見たところ、魔族は普通の人間だった。この世界には魔物はいるけど魔族はいない。いるとしたら進化した魔人くらいか?」

「なぜそれを……?」

「いや、知らんけど?今の作り話だったんだけど?」

「なにぃ!?」


 最初は普通に交渉しに来た。魔族が普通の人間に見える俺と普通の人間を魔族と呼ぶ豪門谷。


 そしてこの城の最高レベルが58なのにレベル100の俺の覇気を動揺することもなく受け止める王様。


 どう考えてもおかしい。カマをかけてみたら見事に引っかかった。


「狐さんの城か。なるほど?」

「待て、話せば分かる」

「ちょっとリフォームするだけ。あとにはリノベーションされた平な城が残っているよ」

「早まるな!うっうわわわわっ!?」


 地表をずらして城の中心を円状に広げていく。動かすたびに城が倒壊する。狐の悲鳴が聞こえる。


 城と都市をどけたら草生成であたり一面に草原を作り出し、地面を上げて家の入口を地上に出した。


「これでどうだ?」

「最高!」

「お空、きれい!」


 喜ぶハルカとリルカ。頭を撫でてかわいがっていると遠くから尻尾をさらけ出した狐娘が飛んできた。


「おのれぇ!」

「あ、狐娘さん、ちっすちっす!」

「よくも!よくも!」

「そんな年老いた身体でなにができる?」


 王様に憑依していることはわかっている。神様だからといって肉体に鞭うっても王様を殺すだけ。


「くっ……」

「わかり易すぎ」

「うっ!?」

「騎士団長もお前だったりしない?」

「そ、そんなわけなかろう」

「ふーん。詩音は可愛いか?」

「そんなもの、当たり前じゃないか」

「へぇ」

「あっ……」

「欲望まみれかよ。てことは流星さんもか」

「彼女はだめだった……」

「ざまぁ」

「ううっ!?」


 彼女たちはどこに行ったのやら。あとで探しに行くとしよう。


「魔族とのいざこざも終わったし、勇者のお役目は終わり。あとは元の世界に戻るだけ。できるよな?」

「嫌じゃ嫌じゃ!まだ遊ぶんじゃあ!」

「仕方ない。俺が遊んでやるよ」

「ほんとかぁ!?」

「あぁ、いくぞ」

「ぬ!?」


 俺は狐の頭を持って遠くへ投擲した。目指すは魔族の城。これで戦争も終わらせることができるはずだ。


 後に狐の騎士団長は詩音に振られることになる。元の世界に戻ることを希望したのは宵宮龍之介と豪門谷虎次郎、豪門谷の奥さんの三人だけ。三人は願いを叶えることになる。


 そして残った俺を含めた三人はなぜか一緒に住むことになる。詩音の偽ビッチは俺を嫉妬させるものだったらしい。


 流星さんはヴァンくんに惚れた。俺じゃなかった。どうやら流星さんは爬虫類が大好きで、亜竜人であるヴァンはドストライクだったそうだ。


 ちなみに流星さんと宵宮龍之介は従兄妹で付き合ってなかった。


 狐神はというと本当の神様に連行され、罪人となったそうだ。遊びをするのも限度があるということだ。


 ―完―

他の作品は来週書きます(きまぐれ)。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 笑いながら読みました。 後日談が普通に面白かったです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ