灰色
俺の名は春風嵐23年間、無難な人生を過ごして来た。
普通に学校に行き、高校を卒業して18才で近場の工場に就職した。
友人にも職場にも恵まれて、このまま普通に生きて普通に死んでいく。
何か変哲な事が起こる訳でも無く、何かの奇跡で大金持ちになる訳でも無い。
このまま無難に死んでいくのだと、そう思えざるしか無い人生を送るのだろうと思っている。
何かを求めても何を求めてるからが分からない、何かを欲しても何か欲しい訳でも無い詰まらない人生だ。
俺から見れば、周りは輝いて見えた。
きっとその逆で周りから見れば俺は灰色に見えているのだろうと思う。
そんな俺でも一度だけ惚れた女性がいた。
何の変哲も無い話だ、きっと良くある話だと自分でも思う。
小学二年生の時に偶然隣の席になった女の子がいた。
小学校ながらにその子の事が気になって仕方が無かった。
一目惚れだったのだろう。
そこから小学校と中学校は全て同じクラスになり、きっとこれは運命なのだと。
一人で妄想して、一人で舞い上がっていた。少しも喋った事も無い癖に、彼女の事も何一つ知らない癖に一人で盛り上がった中学生時代は懐かしく思える。
高校に入り学校は別々になるも電車はいつも同じ時間で車両のいつも一番前に乗る彼女を、いつも横目で追うだけで幸せな一時だと思っていた。
しばらくしてその彼女の姿が見えなくなった。
俺は気になり友人や近所の人に聞いて周り色々調べてみた。
その事実を知った時、俺の心は張り裂けて砕け散った。
彼女の親は闇金に金を借り、返済できなくなると彼女を売り飛ばした。
彼女は学校を辞めさせられて。
慰め物にされ、心を折られて。
自殺した。
俺は泣いた。
彼女を救えたかも知れない、何て思わない。
俺はそこまで立派な人間じゃ無い。
自分なら彼女を救えたかも知れないなんて思えない、それは
傲慢で強欲だ。
ただ、彼女に寄り添う事で結果は違ったのかも知れない。
その事が切っ掛けで俺は灰色になった、他人が輝き自分が灰色に見えた。
何かを欲する事も燃え上がる事も無く、ただ時の流れに身を任せて生きて来た。
彼女の事を忘れる事など一時も無かった。
そして23才になった今でも俺を潤す物はいない。
赤の他人からすれば、恐らく俺は異常者なのだろうと思う。
それでも思う、もう一度やり直せたらと…。
一人暮らしの彼は儚い願いを持ちながら彼は六畳半の部屋の片隅で目を瞑る。
君を求めて、夢の中に…。