11 お妃様、特製ディナーをお披露目する
「どうだ、書いてあった通りに来てやったぞ!」
夜も更けた頃、小さな王子は私の待つ離宮へとやって来た。
本当に来てくれたんだ……。
「アレクシス、君の誕生パーティーはどうだった?」
ヒューバートさんがそう尋ねると、途端に王子はむすっとした表情になる。
はぁ、ぷくっと頬を膨らませるのが本当に愛らしいです……。
「嫌味か? ヒューバート。去年と同じく、接待と愛想笑いで疲れただけだ! まったく、こんなことなら誕生パーティーなどない方がいいくらいだ」
「まぁまぁ、そう言わずに。僕たちでパーティーの準備をしたから、ね?」
王子の表情がこちらを向き、私は思わずドキッとしてしまう。
「ヒューバートはともかく、その使用人はなぜここにいる?」
うっ、確かに変ですよね……。
何でたかがいち使用人が、こんな風に独自に王子殿下のお誕生日を祝おうとしているのか。
王子が怪しむのももっともです。でも、なんて誤魔化そう……!
焦る私とは対照的に、ヒューバートさんはにこにこ笑って口を開いた。
「それはね、アレクシス。彼女は君の――」
わあぁぁぁぁ! 駄目です、ヒューバートさん!
王子が将来(とんでもない成り行きで)私と結婚するなんて、そんな十歳の少年には酷な未来を教えるのは――。
「彼女は君の熱烈なファンなんだ。どうしてもこうやって誕生日を祝いたいと頼まれて、僕がこの場をセッティングしたのさ!」
何ですかそれー!
とんでもない理由付けに、私は思わず脱力しそうになってしまった。
いやでも、そんな怪しい嘘に王子がひっかかるわけ……。
「なんだ、俺のファンなのか! ふむ、それなら祝われてやるのもやぶさかではないぞ!」
あれ、ちょっと嬉しそう!
小さな王子は胸を張って、ドヤ顔で私に言い放つ。
「喜べ、この俺が君のパーティーに出席してやろう。王子たるもの、臣民に慕われてこそだからな」
「さすがはアレクシス! ファンサもばっちりだね!!」
……うん、仕方ないからここはヒューバートさんに合わせよう。
やっぱり魔法使いって、変人が多いのかもしれない。
気分を切り替え、私は王子をディナーへとご案内することにした。
「こちらへどうぞ、王子殿下」
食堂の扉を開けると、その向こうの光景に王子は驚いたように目を丸くしている。
テーブルの上には、私特製のディナーが並んでいるのです!
たっぷりの野菜とハーブで味付けしたラタトゥイユ。
ほうれん草にベーコン、それに何種類かのチーズをブレンドしたキッシュ。
香味野菜で風味付けられた、牛肉の赤ワイン煮込み。……特別に、ニンジンは抜いておきました。
自分でうごく調理器具と一緒に作り上げた、王子のためのお食事です!
普段王子が口にしている宮廷料理に比べれば、かなり家庭的なメニューになってしまった。
ニ十歳の王子はいつも美味しく食べてくださるけど、この王子はどうなんだろう……。
ハラハラしながら見守る私の前で、王子は文句も言わずに席に着いた。
その目に光るのは、抑えきれない好奇心だ。
「変わった料理だな。君が作ったのか?」
「は、はい……! 既に晩餐をお腹いっぱいを召し上がっていらっしゃるのでしたら、無理に口にされなくても――」
「いい、来客の対応でろくに晩餐は食べてないんだ」
そう言って、王子は優雅な手つきで食器を手にした。
はぁ、この頃からテーブルマナーも完璧なんですね……と感心する私の前で、彼はぱくりと私の料理を口にする。
そして、驚いたように目を丸くした。
「これは……美味いな! 君は厨房で働いているのか?」
「い、いえ、そうではないのですが……喜んでいただけたのでしたら、何よりです」
機嫌よさそうにパクパクと食事を進める王子を見ていると、じんわりと胸があったかくなるようだった。
……よかった、王子が喜んでくれて。
最初はどうなることかと思ったけど、この場を授けてくれたヒューバートさんに感謝しないとね。
王子がメインディッシュを食べ終わったのを見計らって、私は用意しておいたデザートを運ぶ。
「デザートはガトーショコラを用意いたしました。どうぞ、お召し上がりくださいませ」
イチゴにブルーベリー、それにたっぷりのクリームがデコレーションされたガトーショコラに、王子の目が輝く。
その様子があまりに可愛らしくて、私は口元が緩むのを止められなかった。




