1 お妃様、魔法の勉強をはじめる
新章の開始です!
今回の新章に関しましては、一部書籍版の流れをくんでいる部分があります。
(その方が話を作りやすかったため)
WEB版オンリーの方はもしかしたら「あれっ?」と思う部分が発生するかもしれませんが、「そんなことがあったんだな~」と軽く流していただけますと幸いです。
それでは、新しいエピソードをお楽しみください!
時刻は午後三時。
ここ離宮周辺では、のんびりと時間が過ぎていく。
木陰に敷いたラグに腰を下ろし、すぐ傍でペコリーナがむしゃむしゃと草を食む音を聞きながら、私は……大量の本と格闘していた。
「うーん……」
傍らに積み上げているのは、すべて「魔法」に関する本だ。
怖い魔女が出てくるおとぎ話、おまじない事典、驚くほどうまくいく魔法の交渉術――うん、これはちょっと関係ないかな……。
しかし、いくらページをめくろうともなかなか私の求めている答えは見つからなかった。
はぁ、根を詰めすぎてもよくないし、そろそろ休憩にしようかしら。
うーん、と大きく伸びをしていると、パタパタと可愛らしい羽音が聞こえてくる。
「アデリーナさまー、花壇の水やり終わりましたよ!」
自分の体よりも大きなじょうろを抱えて、誇らしげな顔をしたロビンが私のもとへと飛んでくる。
ロビンはじょうろを地面に置くと、その上に立ち「どや!」と胸を張ってみせた。
「ふふん! この僕にかかれば水やりなんて朝飯前ですからね! アデリーナさまも頼りにしてくださいね」
「ふふ、ありがとうロビン。頼りにしてるわ」
私は「ロビンの人間の国での修行を補佐するように」と妖精王に頼まれている。
だから、なんとかこうやって仕事を頼んでいるんだけど……彼のリンゴ2個分ほどの小さな体でこなせる仕事はなかなかない。
今はお城の人への手紙配達、針の糸通し、小さな花壇の水やりあたりを頼んでいるのだけど……。
これで修行になるのかな? まぁ、本人が嬉しそうだからよしとしましょうか。
「なんならもっと難しい仕事を任せてもらってもいいんですよ? 僕なら楽勝にこなせちゃ――うわぁ!」
「ロビン!?」
どうやら胸を張りすぎて、バランスを崩してじょうろの中へ落下してしまったようだ。
慌てて救出すると、私のてのひらの上でロビンは涙目になっていた。
「うぅ、服がべちょべちょ……」
「離宮に戻って着替えましょうか。そうね、その後は……あなたに大事な仕事を任せたいの」
「本当ですか!? 早く行きましょう、アデリーナさま!」
泣きそうなロビンにそう声を掛けると、彼は即座に復活した。
ふふ、まだまだ子供ね。
◇◇◇
「それで、僕に任せてもらう大事な仕事って何ですか!?」
離宮に戻って濡れた服を着替えるやいなや、ロビンは目を輝かせてせっついてきた。
まだ少し濡れている髪を拭いてやりながら、私は小声で囁く。
「実は……魔術師の塔へ行こうと思っているの。あなたには同行をお願いしたいのよ」
そう伝えると、ロビンはきょとん、と不思議そうに目を瞬かせた。
「魔術師の塔……? そんなところに何をしに行くんですか?」
「魔術師の塔」はこの王宮の敷地内にある、多くの魔術師が集う魔術研究施設だ。
私は今まで一度も足を踏み入れたことはないし、多くの人は私と同じく特に用もなければ魔術師の塔に行くことはないだろう。
そんなところに、私が行こうと思っているのは……。
「実は……魔法の勉強をしようと思ってるの」
「あれ、そういえば……アデリーナさまって魔法使いでしたっけ」
「そう、らしいわね……」
エラのもとに現れた魔法使い、それに妖精王によると、どうやら私には少々不思議な魔力が宿っているらしい。
……私としては、あまり自覚はないのですが。
別にそれだけなら放っておいてもいいんだけど、厄介なことに……私は自分でも知らない間に魔法をかけてしまったという前科がある。
それも一度じゃない。どうやら私の魔力は、けっこう不安定のようなのだ。
「ほら、妖精王のお城で……大変なことになったじゃない。またあんなことになったら困るから、少しでも魔法を勉強して成業できるようになればいいと思って」
妖精の郷で起こったあれこれは、一歩間違えれば国交断絶や戦争に発展しかねなかった。
私はおおいに反省して、こうして魔法の勉強に乗り出したわけですが……どうやら王宮の図書館には、読むだけで魔法を制御できるような便利な本はないようだ。
だから、次なる一手として魔術師の塔にいる魔術師さんたちに教えを乞うことにしたのです。
「でも魔術師の塔にいる人って、変わり者ばかりだって話ですよ? 大丈夫なんですかぁ?」
「大丈夫よ…………たぶん」
一般的にこの国で魔術師を志す人は、かなりの変わり者だと言われている。
まぁ、それに関しては私もよく「風変わり」なんて言われたりするし、きっと大丈夫だと信じましょう!
「ダンフォース卿、少し用があって魔術師の塔へ行こうと思うの。お供を頼めるかしら」
「仰せのままに、妃殿下」
ハムスターと戯れていたダンフォース卿に声を掛けると、快く引き受けてくれた。
よし、それでは魔術師の塔へ出発です!