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7 王子様、妃の意外な一面を知る

「それにしても……まさかアルパカに乗って現れるとは! アデリーナ妃は随分と面白い御方ですね! あー腹痛い……」


 俺に同行している間は大人しかった王太子付き秘書官のコンラートだが、執務室に戻って来た途端そう言って笑い転げていた。

 だが俺は……そんなコンラートを尻目に、ぐるぐると先ほどの妃の姿について思いを巡らせていた。

 彼女が愛のない結婚の末に離宮に閉じ込められ、来る日も来る日も涙に暮れているようなことはなく安心したのだが……。


 まさか、あそこまで今の生活をエンジョイしているとは思わなかった。


 てっきり彼女は常に離宮にいるものだと思っていたが、ちょうど尋ねた時は庭園の散策に出ており不在だということだった。

 先ぶれもなしに来てしまったのはこちらの方だ。庭園に居るのならばこちらから会いに行こうと外に出れば……まさかのアルパカに乗っての登場である。

 あまりに驚きすぎて、「王子殿下もモフられますか?」という言葉に従い思いっきりモフってしまった。

 その極上の手触りに、うっかりはまりそうになってしまったくらいだ。


「アルパカなる生き物は初めて見たが……彼女が取り寄せたのか?」

「あぁ、報告書によると商人が連れてきた羊の中に混じっていたらしいですよ。どうやらアデリーナ妃がそのまま買い取り自ら世話をして、背中に乗せるほどに懐いたようです」

「なるほど……」


 報告書を読んだときは半信半疑だったが、どうやら彼女は本当に離宮の周りに牧場や畑を作り、日々育成に励んでいるようだ。

 ……まったく、見た目からは想像もつかない。


 ふわりと広がるミルクティのような柔らかな色合いの髪に、優しげな色を湛えるミントグリーンの瞳。

 一度見たら忘れられないような美女……というわけではないが、大抵の者には好印象を与えるような穏やかで愛らしい顔立ちをしている。

 体つきも華奢で、とても野外で農作業に励むタイプのようには見えないが……。


「……確か、彼女は貴族令嬢の生まれだと聞いていたのだが」

「アデリーナ妃の御実家ですか? 調査によると生まれはブレール男爵家、男爵が亡くなり夫人が再婚してからはアルランド子爵家のご令嬢ですね。ただ……アデリーナ妃の御母堂と姉君についてはあまり良い噂は聞きません。アルランド子爵家については没落間近だったようで、おそらくアデリーナ妃と……それに妹のエラ嬢は、相当苦労されたのではないかと」


 先ほどまで腹を抱えて笑い転げていたコンラートが、ひどく真面目な顔でそう口にする。


 エラの名を聞くと、今でも胸が痛む。

 彼女と初めて出会った時の魂が震えるような歓喜と、俺の前から去っていった時の悲嘆が蘇る。

 だが……だからといって、これ以上エヴァリーナをないがしろにするわけにはいかないだろう。

 一時的なものとはいえ、今の彼女は俺の妃なのだから。


「彼女は……あの離宮で少しは安らげているのだろうか」


 勢いで本当に結婚してしまったとはいえ、ほとぼりが冷めたらもちろん離縁するつもりだ。

 だが、それにはそれなりに時間がかかるだろう。

 今すぐ離婚してしまっては、彼女の名誉にも傷がついてしまう。……ほとんど脅すような形で連れてきた俺が言えることではないが。

 いつか来る離縁の日まで、彼女が心穏やかに過ごせるように取り計らうのが、俺にできるせめてもの誠意だろう。

 畑も牧場も農作業も、彼女が望むことであれば止めるつもりは毛頭なかった。


「彼女の身を案じるのなら、今までのように目を背けたりせず、きちんと彼女の元を訪れることですね。王子の覚えもめでたい寵姫とあらば、離縁した後も引く手あまたでしょう。その為には、あなたが彼女を大切にしているということを周囲に見せつけるのです。……少なくとも、彼女のことが嫌いなわけではないのでしょう?」


 もちろん、嫌いなわけではない。

 彼女の顔を見ると、どうしてもエラのことを思い出してしまい、辛くなってしまうだけだ。

 だが、きっとアグリッピーナは俺以上に傷つき、不安を感じているはずだ。

 だったら、感傷に浸ってばかりはいられない。


「……時間が出来たら、また妃の元へ向かう。その時は訪問の先ぶれを頼む」

「承知いたしました、殿下。……そういえば、アデリーナ妃にはまだ専属の騎士がいらっしゃいませんでしたね。彼女を尊重しているという態度を示すためにも、騎士を付けた方がよろしいのでは?」

「そうだな……」


 もちろん離宮周辺に必要なだけの警備は付けている。

 だがそれとは別に、この国の王族は身辺警護を担当する専属の騎士を持っている場合が多い。

 メリーナの元にも、誰かを派遣するべきだろう。


「俺の近衛から誰か、信頼できる者を送ろう。リストアップを頼む」

「承知いたしました、殿下」


 ふと目を閉じると、最後に見た妃の笑顔が蘇る。


 ――『ありがとうございます、殿下!』


 彼女の無邪気な笑顔を見た途端、急に胸が詰まるような心地になって、まるで逃げるように帰って来てしまった。

 エラとエメリーナは義理の姉妹であり、外見だけに着目すればそこまで似ているわけではない。

 だが、不思議と俺の胸をざわつかせるという点ではよく似ていると言ってもいいかもしれない。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 王子様、妃の名前くらい覚えてやれww ほのぼのしてて面白いですね。 初めて読みましたけどとても良いです [一言] 続きも楽しみです。
[気になる点] アデリーナ?メリーナ?アグリッピーナ?エヴァリーナ?王子と結婚した人は何人いるのでしょうか? それとも妃に興味がないっていうアピールで名前がバラバラなのでしょうか?
[一言] 王子様なのに笑えるw何でこんなにヒロインの名前を覚えきれないのwあえて覚えないようにしているとしか思えないw
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