離宮の侍女、今日もお妃様にお仕えします(5)
夏の離宮へ避暑に行かれたこともあって、王子殿下とお妃様はますます仲を深められたようです。
最近ではますます王子殿下がこちらにいらっしゃる頻度も増えて、お二人で仲睦まじく過ごされる姿をよく目にすることができます。
しかし、順風満帆かと思われたお二人に大きな波乱が訪れたのです。
同盟締結のために西の国よりおいでになられたプリシラ王女。
愛らしい見た目とは裏腹に、どうやらよからぬことをお考えのようで……。
「式典の最中に王子殿下にべたべたして、アデリーナ様を睨んでたって話よ」
「どうでもいい用事でいちいち王子を呼びつけて……おかげで王子はこちらに来る暇もないって聞いたわ」
「いくら同盟国の王女といっても、もっと節度を守っていただかなければ!」
どうもプリシラ王女は、必要以上にアレクシス王子に接近しているようなのです。
その目的は一目瞭然。
お妃様もどこか浮かない顔をしていらっしゃいますし……もちろん、我々侍女一同も気が気ではありません。
王子の秘書官のコンラート様に陳情書も出しているのですが、状況は改善されず……。
お妃様の憂いを帯びた表情を目にするたびに、胸が痛みます。
救いといえば、数日後に大々的な舞踏会が開かれることでしょうか。
なにしろ王子殿下とお妃様は既にご夫婦でいらっしゃいます。まぎれもなくパートナーなのです。
プリシラ王女がいくら横入りしようとしたところで、入り込む隙なんてありはしないのです!
やって来た舞踏会の日。
そんなわけで、我々もいつになく力を入れてお妃様のドレスアップをお手伝いしておりました。
お妃様の素朴な美しさが引き立つように、念には念を入れて。
プリシラ王女のようにゴテゴテギラギラ着飾るだけが美しさではないと、見せつけてやるのです!
「ありがとう、クロエ。あなたも今日は存分に羽を伸ばしてね」
「はい!」
アデリーナ様に勧められて、本日の舞踏会には私も出席することになっております。
あまり華やかな場は得意ではないのですが……何かあった時に、私がお妃様をお守りしなければ。
私がそんな密かな決意を胸に秘めているとは思いもしないのでしょう。
アデリーナ様はいつものように、穏やかに微笑まれておりました。
◇◇◇
華やかな舞踏会の場にて、私はいつ何が起きても対応できるように、壁際にて目を光らせておりました。
遠目にも、王子殿下がお妃様を気遣っていらっしゃるのが見て取れます。
やはり、プリシラ王女がいくら横やりを入れようとも、王子殿下のお心は揺らがないのでしょう。
なんていったってお二人は、運命的に出会った者同士なのですから!
……なんて安心したのも束の間、会場にプリシラ王女が現れました。
なんとプリシラ王女は、目が痛くなるような金色に光り輝くドレスを見に纏っているではありませんか!
むむっ……より光り輝いている方が勝ちではありませんからね!?
アデリーナ様には、もっと奥ゆかしい魅力があるのですから!
またしても王子に近づくプリシラ王女に、私はそんな風に憤っておりました。
だが、そこで事件は起こったのです。
なんとプリシラ王女が、いわれなき罪でアデリーナ様を断罪しようとしたではないですか!
あまりの突然の出来事で、私は動くこともできませんでした。
プリシラ王女は勝ち誇った笑みを浮かべて、次々ととんでもないことを口走っておられます。
いつの間にか会場はしんと静まり返り、皆の視線がお妃様に集中しているのに私は気づきました。
……確かに初めは、私も「この御方があの日現れた姫君なの?」と少し違和感を覚えたものです。
ですが、そんなのは些細な問題。
近くで見ていた私にはわかります、王子殿下とアデリーナ様は、確かに愛し合っていらっしゃるのだと……!
……このままでは、本当にお妃様が悪者にされてしまうかもしれない。
私が……なんとかしなければ……!
そう思っても、私はがくがく震えるだけでその場から動けませんでした。
握り締めた手も、一歩踏み出そうとする足も、言葉を紡ぐことのない唇も、すべてがみっともなく震えているのがわかります。
ですが、ここで勇気を出さねば。
アデリーナ様が困っていらっしゃるときに、私が何もできなくてどうするの……!
そう思って足を踏み出そうとした瞬間、事態は動きました。
「言いたいことはそれだけか?」
真っ先にお妃様を庇うように、王子殿下が動かれたのです!
……そうですよね。
王子にとってアデリーナ様は運命の相手。
プリシラ王女の横暴を、黙って見ておられるわけがないのです!
王子が味方についたことで一気に形勢逆転。
誤解も解けてめでたしめでたし、と思いきや――。
「皆の者、騒がせて済まなかった。……プリシラ王女が抱いた疑義については、俺の口から説明させてもらおう。あの日、俺が踊った相手は――」
……あれ? 王子殿下があの日踊って、恋に落ちた相手はアデリーナ様のはずでしょう?
なのにどうして、そんな言い方を――。
呆然とする私の耳に、その時また別の声が届きました。
「私でーす♡」
私は反射的に、声の方へと振り返りました。
…………え?
そこには確かに、あの舞踏会の日、私が憧れた通りの姫君の姿があったのです。
慌ててアデリーナ様の方に視線を戻すと、アデリーナ様はどこか青ざめた表情で突然現れた姫君の方を凝視されていらっしゃいました。
……これはいったい、どういうことなんですか!!?
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(全店舗かどうかはわからないので、詳しくは店舗にお問い合わせください)
特典SSはアデリーナと王子の、王宮図書館を巡るちょっとしたお話です。
気になる方はどうぞ!