離宮の侍女、今日もお妃様にお仕えします(4)
王子殿下はご公務が忙しく、中々お妃様のもとを訪れる暇もないようです。
しかし、それでも。愛するお妃様のため。
わずかな時間の隙間を縫うように、最近の王子殿下は足蹴く離宮へと通っていらっしゃいます。
時折なぜか別の名前でお妃様を呼んでいるのが気になりますが……きっと、お二人の間でしか通じない、高貴な言葉遊びのようなものなのでしょう。
先日は、ついにお妃様のために専属の騎士をつけられました。
少々騎士の任命が遅かったような気もするのですが……愛するお妃様の身辺を警護するという重要な役目を担う騎士とのこと、きっと選定に時間がかかっていたのでしょう。
新たにアデリーナ様の専属騎士としてやって来られたダンフォース卿は、爽やかで甘い容姿、侯爵令息という身分、そして何より紳士的で柔らかな物腰が魅力的な殿方です。
更には料理や裁縫にも精通しているというのですから、もはや全方位死角なしの無敵です。
我々侍女一同にも大変親切で、あっという間に大勢の女性を虜にし一大勢力を築いてしまったほどです。
離宮の周辺には警護のための騎士が常駐していて、「どの殿方が一番素敵か」というのは我々侍女の間で頻出する話題の一つです。
かくいう私は……あまり、そういった手の話題には積極的になれませんでした。
元々内気な性格で殿方とうまく話もできなかった私です。
この離宮で侍女として働くようになって、どうにか職務上の必要事項についてはスムーズに会話をこなせるようになりました。
ですが……他の侍女たちのように「アデリーナ様が王子様の目に留まったみたいに、私もいつか魅力的な殿方に見初められて……」という気分にはなれませんでした。
私はあくまで脇役として、お妃様と王子様を見守ることができればそれで幸せなのですから。
◇◇◇
王子殿下がアデリーナ様のもとへ通われるようになってしばらく、いよいよ「王太子妃」としてのお仕事がスタートしました。
なんでも王子殿下がまだ宮廷に慣れていらっしゃらないアデリーナ様を気遣って、彼女がこの場所に慣れるまでは公務を控えるように取り計らったのだとか。
はぁ、深い愛のなせる技ですね……。
表舞台に立つようになったアデリーナ様は、たちまち注目の的となりました。
そうなると私たちも気が抜けません。
アデリーナ様の魅力がよりいっそう引き立つように、ドレスにお化粧に装飾品に……日々試行錯誤の連続です。
「妃殿下、こちらのネックレスはいかがでしょうか?」
「このドレスだと、こちらのイヤリングが映えそうですが――」
「あまり派手でないものをお願いするわ……」
どうやらアデリーナ様は落ち着いた装いを好まれるようです。
しかし彼女はこの国の王太子妃。
あまり地味すぎる装いでは、周囲に侮られる危険もあります。
王子殿下の秘書官であるコンラート様からも、「妃殿下の意志を尊重しつつ、王太子妃としての威厳を損ねないような装いにするように」と指令が下っております。
幸いにも今のところ、アデリーナ様のこのスタイルはおおむね好意的に受け止められているようです。
今までは競うように派手なドレスや装飾品を身に着けるのが流行していましたが、時が経つにつれアデリーナ様のように落ち着いた装いの淑女が増えてきているのです。
私もよく貴婦人やご令嬢に捕まり、
「この前の妃殿下のドレスはどこの仕立て屋のものなの?」
「妃殿下のものと似たジュエリーが欲しいの。職人を紹介してもらえないかしら」
と質問攻めにされるのです。
そう問いかけらるたびに、私はどこか誇らしい気持ちを味わいました。
あの舞踏会の日に憧れたあの方のもとで働けること。
私の日々の尽力が、少しでも妃殿下のお役に立てていること。
屋敷に引きこもって怯えてばかりいた私が、今はこんなに充実した日々を送っているなんて……まるで夢のようです。
「クロエ、少しいいかしら」
「はい、妃殿下!」
アデリーナ様に声を掛けられ、私は満ち足りた思いで馳せ参じるのでした。
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