離宮の侍女、今日もお妃様にお仕えします(1)
「あっ、見て! もうトウモロコシが収穫できそうよ!」
「とうもころし? アデリーナさまぁ、何ですか、これ?」
「ふふ、妖精の郷にはなかったのかしら。後でコーンスープを作ってあげるわね」
畑にはたっぷりと作物が実り、我らがお妃様は妖精のロビン君と一緒に収穫の算段を立てていらっしゃいます。
あぁ、申し遅れました。私はアデリーナ妃殿下の離宮に勤めるクロエと申します。
もっとも、名乗るほどのたいそうな者ではありませんが。
妃殿下にお仕えする、ただのしがない侍女でございます。
私たちの仕事は妃殿下のお傍に侍り、身支度やお化粧やヘアセットのお手伝い、ドレスや宝飾品の選定や管理を行うこと……だけではございません!
このように畑や牧場に繰り出す妃殿下に随伴し、農作業や動物たちの世話をし、妃殿下と共に収穫した作物を料理し、味わうのです。
このような仕事内容を話すと「とんでもない職場だ」と同情されることもございます。
ですが、私は決してそうは思いません。
確かに妃殿下は少し風変わりな御方ですが、これほどお仕えし甲斐のある御方は他にはいらっしゃいません。
妃殿下にお仕えすることになって、私の人生は大きく変わったのですから。
◇◇◇
元々私が妃殿下の侍女になろうと思ったきっかけは、自分を変えたいと思ったことでした。
私はそこそこの貴族の家に生まれ、何不自由ない……とはいきませんが、貴族の娘として大切に育てられました。
そんな私の悩みといえば、生来から内気な性格で、社交界にデビューしてもろくに殿方とお話もできなかったことでしょうか。
不器用な自分に苛立ち、自己嫌悪に陥っていた……そんな時でした。
アレクシス王子のお妃様選びの舞踏会が開かれたのは。
家族に背中を押され、私もおそるおそる舞踏会に出席いたしました。
もちろん、王子殿下は私になんて目も留められませんでしたが。
ですが、私はその場で奇跡のような光景を目にしたのです。
舞踏会の場に突如として現れた、ガラスの靴を履いた美しい姫君。
彼女と王子が踊っている姿は、今も鮮烈に記憶に焼き付いています。
その夢のような光景を、きっと私は一生忘れることはないでしょう。
舞踏会の夜に煙のように消えてしまった姫君を妃に迎えると宣言し、王子殿下は国中を駆け巡り彼女を探されました。
それと同時に、王宮ではガラスの靴の姫君を王太子妃へ迎える準備が始まったのです。
王宮勤めの父を持つ私は、お妃様にお仕えする侍女を募っているという情報をいち早く耳に入れることが出来ました。
そして、自分でも信じられないことに……気が付けば、王太子妃様付きの侍女へ名乗りを上げていたのです。
引っ込み思案で怯えてばかりの私が、どうしてそんな大それた行動に出られたのかは今でもわかりません。
きっと私はガラスの靴の姫君に、強く憧憬の念を抱いていたのでしょう。
少しでもあの方に近づけたら……との思いで、一世一代の大勝負に出てしまったのです。
そして誠に不思議なことに……私は、無事に未来の王太子妃の侍女の一人として採用されてしまったのです。
王子殿下の捜索は長期にわたり、必然的に私が侍女として研鑽を積む時間も十分にありました。
甘やかされて育った私には、つらく厳しい期間でもありました。
挫けそうになることもありましたが、それでも私はめげませんでした。
憧れのあの方を、どうしてもお支えしたかったのです。
そして、ついに王子が運命の姫君を探し出し、城へと連れ帰ってくる日が訪れたのです。
早馬で吉報を持ち帰った伝令に、私たちは慌てて結婚式の準備に入りました。
王子殿下は運命の姫君のために、花嫁衣裳を始めとして結婚式の準備を整えられていたのです。
その愛の深さに、私はうっとりしました。
もうすぐ、あの御方がやって来る。
控えの間で待機しながら、私は高鳴る鼓動を感じていました。
そしていよいよ運命の姫君がやって来られたのですが――。
「ちょ、ちょっと待ってください! このドレス、私にはきつ――ふぎゃあ!」
「くっ、ドレスがきつい……! 王子の注文通りのサイズで作ったのに!」
ギリギリとウエストを絞られ、うめき声をあげる姫君に、私は内心で首を傾げました。
あれ、あの夜に現れた姫君は……こんな感じでしたっけ?
久しぶりの番外編更新です。今回は離宮の侍女視点の話になります。
前から侍女のキャラクターを出したいと思っていたので、本編、コンラート編とはまた違った部分を書いていきたいと思います。
そしてお知らせです。
なんと……本作の【書籍化】が決定いたしました!!!
嬉しいぃぃぃっっっっ!!!!!!
詳細情報はまた随時お知らせさせて頂こうと思いますが、もうとにかくイラストがすごいです!
アデリーナが可愛い! おっとり系美人!! めちゃくちゃ可愛いけどエラと並ぶとエラの方が目立つ!
……という私の理想が、完全に再現されてます!
ペコリーナも美人! 美アルパカです!!
他のキャラも素晴らしくて、おとぎ話っぽい世界観をばっちり描いていただいております!
読み切り短編という一夜の夢が連載化、そして書籍化という機会を頂けたのは、間違いなく応援してくださった皆様のおかげです。
これからも、「シンデレラの姉ですが」をよろしくお願いいたします!
Twitterも開設しましたので、今後書籍情報や更新情報などをお知らせしていこうと思います。
よろしければ覗いてやってください→( @yuzu_lemolemon )
新作も始めました!
異種族後宮ファンタジーラブコメです!
『冷血竜皇陛下の「運命の番」らしいですが、後宮に引きこもろうと思います~幼竜を愛でるのに忙しいので皇后争いはご勝手にどうぞ~』
( https://ncode.syosetu.com/n1101hc/ )
お暇なときにでもどうぞ!