表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/271

18 お妃様、終わらない修羅場に動揺する

 突きつけられた刃の先から婚約者を庇うように、ヘレナ様は毅然とアレクシス王子の前に立ちふさがった。

 しかしアレクシス王子は剣を引くことなく、ヘレナ様を冷たく一瞥したのみだった。


「……どけ」

「いいえ、どきません」

「貴様ごと切り捨てられたいのか」

「たとえ剣の錆と消えゆくさだめだとしても、ここを引くわけにはいきません」


 まったく怯む様子の無いヘレナ様に、アレクシス王子は舌打ちした。

 彼はむやみやたらと人を傷つけるような人じゃない。

 本当は、アレクシス王子だってこんなこと嫌なはずなのに……。


「……何故退かない。教えてやろうか? 貴様の婚約者とやらは、俺の妃を口説いていたとんだ痴れ者だ」


 挑発するようなアレクシス王子の言葉にも、ヘレナ様は動じなかった。


「存じております。ですが、私はここを退くわけにはいきません」

「見上げた根性だな。自分を(ないがし)ろにする男を、何故そこまでして庇う」


 そう問いかけるアレクシス王子の言葉に、ヘレナ様は強い光を宿した瞳をきらめかせた。



「たとえ振り向いていただけなくても、私はディミトリアス王子を愛しています。この身も心も、すべてディミトリアス王子に捧げると誓いを立てております。たとえあなたが私の命を奪おうとも、喜んでこの愛に殉じましょう」



 そう言ったヘレナ様からは、か細い体には似合わない力強さが感じられた。

 私も、アレクシス王子も、思わず怯んでしまうほどの。


 たとえ相手に振り向いてもらえなくても、何もかもを捧げると誓ったその潔さ。

 きっとそれが……ヘレナ様の「愛」なんだろう。

 彼女の「愛」は、どこまでも純粋で、透き通るように強く美しかった。


「ヘレナ……」


 ディミトリアス王子の指先が、そっとヘレナ様の方へと伸ばされる。

 そして、彼はそっと背後からヘレナ様を抱きしめたのだ。


「ありがとう、ヘレナ。……私も、君を愛している」

「王子っ……!? ですが、あなたはアデリーナ妃を――」

「あっ、あのっ! それは誤解なんです!!」


 誤解を解くには今しかない! ……とばかりに、私はしゃしゃり出ることにした。


 ディミトリアス王子は別に私に懸想しているわけじゃないんです!

 これは全部、うっかり飲ませてしまった惚れ薬の力なんです!


 ……と、勢いよく土下座してすべてを白状したのです。


「ですから、なにとぞ罰を受けるのは私一人にお願いいたします。私に差し出せる物は少ないですが、煮るなり焼くなり――」

「いいえ、お顔をあげてください、アデリーナ妃」


 罵声や怒号や、殴られたり、斬り捨てられる可能性も考えていた。

 だが頭上から降ってきたのは、ディミトリアス王子の優しい声だったのだ。


「アデリーナ妃は私たちの仲を取り持とうとしてくださったのでしょう? それに……遠回りしましたが、あなたのおかげでヘレナの本当の気持ちを聞くことができたのです。むしろ、あなたの優しいお心に感謝いたします」


 ディミトリアス王子……人がよすぎですよ!

 予想していたのとは真逆の言葉に、思わず涙腺が緩んでしまう。


「……なるほど、少し様子がおかしいと思ったら……君はそんなことを隠していたのか」


 屈み込んだアレクシス王子が、そっと私の手を取って立たせてくれる。

 あらためて向かい合ったディミトリアス王子とヘレナ様は、幸せそうに手を取り合っている。


 よ、よかったぁぁ……。

 私のお節介のせいでどうなることかと思ったけど、結果的にはなんとかなった……のかな?

 でも……。


「どうして、惚れ薬の効果がいきなり切れたのかしら」

「それはきっと、愛の力だね!」

「ひっ、ロビン!?」


 気がつけば、死んだ蝉のように転がっていたロビンが復活してパタパタと飛んでいた。心臓に悪い!

 彼は驚く私など意にも介さずに、得意げに胸を張って解説を始めた。


「アデリーナさま、真実の愛はどんな魔法よりも呪いよりも強い。常識ですよ?」


 えっとつまり……ヘレナ様の決死の愛の告白によって、二人の真実の愛が惚れ薬の効果を打ち破り、ディミトリアス王子の心を元に戻したってこと?


「なるほど、真実の愛が呪いを解いたというわけか」


 私の肩を抱き寄せながら、アレクシス王子が感慨深くそう呟く。

 あぁ、私たちにも覚えがありますもんね……。


「ヘレナ、今一度言わせて欲しい。私は、立場もしがらみも関係なく君を愛している。どうか、私の妃になって欲しいんだ」

「ディミトリアス王子……喜んで、お受けいたします」


 ひゃあ、お熱い!

 いきなりラブラブオーラを振りまき始めたディミトリアス王子とヘレナ様を眩しく思っていると、不意に回廊の向こうから鈴を転がすような軽やかな笑い声が聞こえた。


「あらあら。どうやら、収まるべきところにおさまったようですね?」


 現れたのは、まるで天上の花のように美しい妖精の女性。

 その姿を見た途端、どきりと鼓動が跳ねる。


 私は彼女を見たことがある。

 彼女は……解毒薬の材料集めをしていた時に、アレクシス王子と一緒にいた女性だ。


 あれ、もしかして……修羅場第二弾の到来ですか!?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ハイハイ、ティターニア様だから解散解散~
[良い点] ヘレナ様、めちゃくちゃ熱い想いを秘めていたんですね! 無事に丸く収まってよかった〜。 やっぱり真実の愛は最強ですね! そしてロビン!実は気絶してなかったな〜笑 本当にお調子者で憎めないで…
[一言] ヘレナ嬢、カッコいい~♡ それにつけても、気絶(のフリを)していたロビンのかっこ悪さよ……。 ところで必要なくなった解毒薬はどうするんでしょうね?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ