11 お妃様、妖精の秘薬を調合する
「要するに、お互い本音で話し合えば解決するわけじゃん? 『ヘレナ、好きだ!』『私もディミトリアス王子が好きです!』……みたいな感じで。ほーら簡単だ」
「それができないからこうなってるんじゃない。簡単にできたら苦労しないのよ……」
ヘレナ様はディミトリアス王子の前ではツンデレが発動してしまうし、ディミトリアス王子はそんなヘレナ様の態度を誤解して強く出られない。
本音を話せばいいって言っても、そう簡単にはいかないのだ。
「アデリーナ様、僕は妖精ですよ? 人間に本音を話させる方法くらい、いくらでも心得てるんですから!」
「本当に? どうするの?」
「薬を使います」
「え、なにそれこわい」
ロビン曰く、妖精は様々な薬の調合に長けており、中には飲んだとたん本当のことしか言えなくなるような薬も存在するのだとか。
「健康に害はないから安心していいですよ。いいじゃないですか、幸せになれるお薬。ディミトリアス王子もヘレナ様も僕たちに感謝しますよ!」
うーん、それって言ってしまえば自白剤だよね……。
ちょっと心配だけど、このまま二人がすれ違いの末に破局……なんて運命を迎えてしまうよりはいい……のかなぁ?
でも、僕たちに感謝ねぇ……。
当然のように私も巻き込まれてるのに、もはや突っ込む気力も起きなかった。
「……わかったわ。その薬っていうのは、すぐに用意できるものなの?」
「ノンノン。薬は鮮度が命だから、調合するたびに素材を採集に行かなきゃいけないんだ~。だからアデリーナ様、明日は一日材料採集ってことでお願いしまーす!」
「はぁ、わかったわ……」
明日はアレクシス王子も不在でやらなければいけないこともないし、ロビンの採集に付き合うとしますか。
◇◇◇
翌日、所用があると出かけて行ったアレクシス王子を見送り、いよいよ行動開始だ。
ペコリーナにも荷物持ちとして頑張ってもらいます。
妖精の郷を彩る、種々の花たちや、葉を伝い落ちる真珠のような露のしずく。
月の光をたっぷりと吸い込んだ月光花に、虹の根元の結晶。
そんな材料を集めるため、私とロビンとペコリーナは忙しなく妖精の郷を駆け巡った。
「それに忘れちゃいけないのがこれ。たわむれの恋の花」
最後にロビンが案内してくれた花畑には、一面に白い花が咲き誇っている……と思いきや、一輪だけ赤い花が咲いていた。
何の情緒もなく、ロビンはぶちっとその花をちぎってしまう。
「いいの? たった一輪しかないのに」
「へーきへーき。またすぐ咲くからね」
「フェ~?」
これらの材料を調合することで、「愛する相手に真実しか話せなくなる薬」が出来上がるみたいだけど……。
正直、不安が残る。
うまくいくといいんだけど……。
「さぁアデリーナさま、お城へ戻りますよ~」
上機嫌で鼻歌を歌うロビンを肩に乗せて、私は一抹の不安を抱きつつも妖精王の城へと向かった。
「愛し合ってるのに素直になれない二人を結び付けるって? 素敵~!」
「ロビンもたまにはいいことするじゃなーい」
……どうやら妖精の感覚では、ロビン(と私)がしようとしていることは「素敵なプレゼント」のように捉えられたようだ。
城に戻って妖精たちに事情を話すと、皆ノリノリで手伝ってくれるというのだから。
うーん、ちょっと不安を覚えるのは私が人間だからかな?
あんまり、人の心を薬や魔法で操るのってよくない気がするんだけど……。
「アデリーナさまも手伝っていただけますか?」
「えぇ、任せて」
でも、ここまで来てしまったらもう後戻りはできない。
意を決して、私は妖精たちと一緒に「恋の妙薬」なる薬を調合し始めた。
数時間後……なんとか薬は完成!
透明で無味無臭。飲み物に入れてしまえばきっとわからない。
……なんて考えるだけで、罪悪感がちくちくと胸を刺すようだった。
「じゃあこの後の段取りは打ち合わせした通りでよろしくお願いします、アデリーナさま!」
「……わかったわ」
私がなんとか理由をつけて、ディミトリアス王子とヘレナ様をティータイムに誘う。
そして二人に、「恋の妙薬」を混ぜた飲み物を飲ませるのだ。
すると二人はあら不思議! 意地を張っていたヘレナ様は素直に愛を告白し、そんなヘレナ様にディミトリアス王子も遠慮を忘れ、二人は真実の愛で結ばれる。
めでたしめでたし――なんて、うまくいくのかなぁ……。
底知れぬ不安を抱きつつも城にいた二人をお茶に誘う。
すると、二人はあっさりと応じてくれたのです。
「いよいよですね、アデリーナさま!」
「えぇ、うまくいくように祈るしかないわ……」
悪いと思いつつ、私は二人の為に用意したティーカップに恋の妙薬を投入した。
さぁ、勝負のお茶会の始まりだ。