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王子の秘書官、王子様とお妃様を観察する(10)

「星に願いをかけると、叶うという伝承があるようだ」

「なるほど、それで王子は何を願ったのですか?」

「ファブリーナが、これからも俺と共にいてくれるようにと……。彼女も必死に何かを願っていた。できれば……俺と同じ願いだと信じたいものだな」


 妃殿下との星空デートを満喫した後、彼女を部屋まで送り届け、戻ってきた王子は少し切なげにそう呟かれました。

 なるほど、妃殿下のお心をがしっと掴むとまではいかずとも、少しは良い雰囲気になれたようですね。


「でも名前間違えてたら願い届かなくね?」

「おい馬鹿やめろ」


 無粋なことを口にするゴードンを慌てて物理的に黙らせましたが、どうやら妃殿下との思い出に浸る王子には聞こえていなかったようです。危ない危ない。

 星には届かなかったとしても、あなたの想いはきっといつか妃殿下に届きますよ、王子。

 だからそろそろ……名前を間違えるのはやめにしませんか?



 ◇◇◇



 夏の離宮での時間が功を奏したのか、王子とアデリーナ妃の距離は以前より縮まったように感じられます。

 先日なんて、まさかの膝枕です。

 居眠りをする振りをして膝枕に持ち込むとは、さすがは我らが王子殿下。策士ですね。

 ……と思ったら、どうやらあれは本当にうっかり眠ってしまったようで。

 ですが妃殿下がすぐに王子を起こさなかったのは、少しは脈ありだと思ってもいいのでは?


 こうなれば、王子と妃殿下の想いが通じあうのも時間の問題……と思いきや、ここで大きな問題が。


「あぁ、お会いできるのを心待ちにしておりました、アレクシス王子殿下!」


 王子に纏わりつく、妃殿下ではない女性。

 同盟締結の為に西の国より参られた、王女プリシラ様。

 いやいや、今の王子は既婚者なのですよ? 

 もう少し節度というものをですね……と説教出来たらどんなによかったことか。

 プリシラ王女が滞在し始めてから、王子が妃殿下と過ごされる時間はがくんと減ってしまいました。


 それどころか、プリシラ王女は何やら妃殿下について嗅ぎまわっているご様子。

 これは、嫌な予感しかしませんね!

 王子にも報告をすると、いつになく毅然とした態度で対処を命じられました。

 当面の間は王子にプリシラ王女を引き付けてもらい、妃殿下は我々ががっちりガードする、という態勢になりましたが……。


『アレクシス王子がここ数日お越しになりません。妃殿下も寂しそうなお顔をしていらっしゃいます』

『僭越ながら、プリシラ王女の態度は目に余ります。もう少し妃殿下のお気持ちも考えていただけないでしょうか』

『妃殿下にはお会いになられないのにプリシラ王女とはべったりなんですか? コンラート様のスケジュール管理がおかしいのでは??』


 うーむ、離宮の侍女たちの報告書も、報告書というより陳述書のようになってきましたね。

 内容は王子と王子の側近である私へのクレームばかり。

 これは妃殿下を守るための策であって、決して妃殿下を冷遇しているわけではないんです!……なんて、ぶっちゃけられたら楽なんですけどね。

 はぁ、やっぱ中間管理職つれぇわ。


 むしゃくしゃして執務机に突っ伏していると、何故か嬉しそうなゴードンが声を掛けてきました。


「なぁなぁ、暇なら7並べやろうぜ!」

「ゴードン、一応言っておくと今は仕事中ですよ」


 もはや突っ込む気力も湧きません。こいつはいつも楽しそうで羨ましい……。


「ゴードン、王子はどうしたんですか?」

「それがさぁ、ちょっと一人になりたいって資料室に閉じこもっちゃって。あれは相当参ってるね」

「まぁ、連日のプリシラ王女のお相手にお疲れなのでしょう」

「妃殿下に会えば少しは元気になるんじゃね? 時間調整はできないのかよ」


 ……確かに、このまま王子を放置していては作業効率が落ちそうです。

 ここで一度無理をしてでも、妃殿下にお会いになる方がよさそうですね。


 そうして少しだけ妃殿下との時間を過ごし、王子は目覚ましく回復を遂げられました。

 プリシラ王女のほうも何やら企んでいるようで……いよいよ、事が動きそうな予感がします。



 ◇◇◇



 私が懸念した通り、舞踏会の夜……プリシラ王女はとんでもないことを仕出かしました。

 舞踏会に集まった者たちの面前で、なんとアデリーナ妃をいわれなき罪で断罪しようとしたのです。

 あの瞬間、妃殿下のことを知る多くの者が憤り、彼女の為にプリシラ王女に食って掛かりたいと思っていたことでしょう。

 ですが、そんな状況の中真っ先に動いたのは我らが王子殿下でした。

 アレクシス王子はプリシラ王女の悪意からアデリーナ妃を守り、どんな経緯があったとしても、彼女こそが自らの唯一の妃であると皆に示したのです。


 その時の顛末については……あえて私が詳しく語ることもないでしょう。


 とにかく嵐が去り、また平和で忙しい日々が戻ってきました。

 王子と共に執務をこなし、王子が妃殿下に会いに行かれるのに付き添い、私まで妃殿下のお手製のデザートを頂いてしまったり。

 心なしか王子と妃殿下の間に流れる空気が以前より甘い気がするのは……きっと、私の気のせいではないのでしょう。

 はいはい、末永くお幸せに。



 ◇◇◇



 妃殿下と思いが通じ合い、いよいよ王太子としての自覚が出てきたのか、最近の王子は以前にも増して精力的に政務に取り組まれています。

 そんな中、ふと王子が私に声を掛けられました。


「コンラート、少し提案……というより頼みがあるのだが」

「どうかなさいましたか?」

「実は、またアデリーナと共に旅行に行きたいと思っている」


 どこか照れたようにそう口にする王子に、私は微笑ましい気分になりました。

 私の敬愛する王子殿下は、やっと見つけたお姫様が可愛くてしょうがないようです。


「いいっすね~。それって新婚旅行じゃないですか?」

「新婚旅行……か。なんて素晴らしい響きなのだろう」


 茶化すようなゴードンの言葉にも、照れもせず幸せそうな笑みを浮かべる王子殿下。

 わぁ……氷の王子にもすっかり春が来てしまったようで。

 近くにいる私も惚気にあてられそうです。


「それで、どのくらいの期間の旅行を想定されていますか」

「一月だ」

「一月…………はぁ!? 一か月も!!?」

「あぁ、ちなみに出発は来月の初めだ。既に滞在先に親書も送ってあるからな」

「根回し早っ!」

「これで訪問の約束を反故にすれば……国際問題になるだろうな」


 そういって、ニヤリと意地悪く笑う王子殿下。

 ぐぬぬ……これはもう、私がなんとかスケジュールの都合をつけるしかないじゃないですか!


「あぁもう! わかりましたよ!! その代わり今からキリキリ働いていただきますからね!」


これにて秘書官視点シリーズは完結です。

想定の3倍くらい長くなってしまって焦りました!

そして、明日から新婚旅行編の投稿を開始予定です。

糖度増量なお話になるかと思いますので、是非読んでいただけると嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
[一言] 秘書官さま、いい仕事してますね! お疲れさまでした(^^) アデリーナを王宮の人々が温かく守っていて、とても素敵です。
[一言] 結論、一番の功労者は秘書官( ˘ω˘ )
[一言] コンラートお疲れ様でした。 夢見る殿下の側近はつれぇな(笑) でももしもドキュンな人がお妃様になってたら更なる苦労があったかと思えば今回の苦労は未来の投資だよね!でかしたコンラート。 ペコリ…
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