4 お妃様、牧場を作る
結婚式の翌日から、私のお妃様生活が始まった。
国王陛下たちがいらっしゃる宮殿からは少し離れた、比較的ちんまりとした離宮。
それが、私に与えられた新たな住居となる。
本宮からはそれなりに離れているし、ある意味隔離ってところかしら。
でも、お妃様になったといっても、特にやることはない。スケジュールは空白だ。
アレクシス王子はすぐに私のことをポイ捨てするつもりで、妃教育など施しても無駄だとお考えなのだろう。
なんとも賢明なご判断だ。有難さに涙が出そうになる。
「お妃様、本日はいかがいたしましょうか」
新たに離宮付きとなった侍女たちが、そわそわした様子でそう問いかけてくる。
うーん、いかがいたしましょうか、と言われても、本当にやることはないんだけど……。
「……そうね、じゃあこの離宮の周辺の案内を頼めるかしら」
妃教育もなければ、出席すべきお茶会もない。今の私は晴れてロイヤルニートなのです!
いずれ離縁する予定だといっても、いくら何でも一週間や二週間でどうにかなる物じゃないだろう。
その間に充実したロイヤルニート生活を送るためにも、どこに何があって、どんな暇つぶしができるのかを知っておくべきだ。
緊張気味の侍女に私に与えられた離宮の案内をしてもらいながら、きょろきょろと有効活用できそうな場所を探す。
一通り案内してもらって、休憩をしながら私は侍女にそっと頼んでみた。
「午後からは……釣りがしたいの」
「はい?」
侍女はぱちくりと目を瞬かせている。
だって……よさそうな川があったんだもん。
離宮の外には整備された美しい庭園が広がっており、更にその向こうは森や草原につながっていて、森の中には自然の川が流れている。
こ、これは……憧れのスローライフが可能なのでは!?
昔から私は、将来は田舎に土地を買ってのんびり暮らすのが夢だった。
図らずとも、その夢がかなってしまいそうなのである。
私もこの辺りの土地も、どうせ誰にも顧みられることもなく放置されているのだ。
少しくらい有効活用しても、罰は当たりませんよね?
そんなわけで特にやることのないロイヤルニートな私は、日がな釣りをしたり、畑をこしらえて野菜の栽培を試みたり、広大な空き地に牧場を作ったりしてのんびり暮らすことにしたのである。
「お妃様、ご所望の羊がやってまいりました」
「まぁ嬉しい。今から見に行くわ!」
馬に牛に羊もやって来て、私の牧場もやっと牧場らしくなってきた!
ワクワクしながら新設の牧場へ向かうと、羊を連れてきた商人が何故かぺこぺこと謝ってくる。
「も、申し訳ございません、お妃様……! どうやら、一頭奇形が混ざっていたようでして……」
見れば、メェメェと歩き回り草を食む羊たちの中に一頭、やたらと足と首が長い子がいた。
そっと近づくと、つぶらな黒の瞳が私を見つめている。まぁ可愛らしい。
確かに他の羊と違うけど……あれ、もしかしてこの子――。
「この子は、アルパカじゃないかしら」
「アルパカ、ですか……?」
「えぇ、ずっと南の国では羊のように毛を刈ったり、荷運びとして飼われていると本で読んだことがあるわ」
どんな経緯かはわからないけど、羊と間違えられて商人の手に渡ってしまったのだろう。
じっと見つめると、件のアルパカは心なしか不安そうな顔をしているような気がした。
よしよし、もう大丈夫よ。
「わかりました、この子も一緒に買い取りましょう」
「ほ、本当ですか!?」
何とお優しいお妃様!……とお世辞を言いながら、商人はスキップしながら帰っていった。
よくわからない商品が、ちゃんと売れてよかったってところかしら。
この地方でのアルパカの希少性を考えれば、もっと高値でもおかしくないんだけど……それは黙っておきましょう。
「ふふ、みんな……この子も仲良くしてあげてね」
羊たちにそう呼びかけながら、そっとアルパカのモコモコの毛を撫でると、想像通りにふかふかだった。
ふふ、後でブラッシングしてあげよう……。
「お妃様は物知りなのですね……。私、アルパカなんて名前は初めて知りました」
「前に偶然本で読んだだけよ。温和な性格だと書いてあったから、問題なく飼えると思うわ」
「そ、その……私もアルパカを撫でてよろしいでしょうか……」
侍女たちも、アルパカのもふもふには抗えないようだ。
笑顔で許可を出すと、彼女たちは率先してアルパカをもふもふしていた。
うふふ、その気持ちは痛いほどわかるわ……!
それにしても、私の牧場もだいぶにぎやかになって来た。
はぁ……憧れだったんだよね、こういう生活。
不本意ながら王子と結婚してしまった時はどうなるかと思ったけど、理想の生活を手に入れられたことは素直に喜ばしい。
ありがとうエラちゃん。元気でやってるか気になるからたまには手紙でもちょうだいね。
でも、こんな私のだらだら生活も王子と離縁するまでの期間限定だ。
離婚したら慰謝料とかもらえないかな? できれば田舎の土地も欲しい。
大自然の中で、悠々と余生を過ごすのだ。野望は大きく持たなくては。
その為にはある程度王子を懐柔しておいて、離婚時の交渉が少しでも有利に進むように取り計らっておくべきだろう。