表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/271

王子の秘書官、王子様とお妃様を観察する(6)

「それにしても……まさかアルパカに乗って現れるとは! アデリーナ妃は随分と面白い御方ですね! あー腹痛い……」


 アデリーナ妃の離宮を辞し、王子の執務室に戻って来て……私はようやく腹を抱えて爆笑することができました。

 離宮に置き去りにされて涙に暮れているかと思いきや、まさかアルパカを手懐けていたアデリーナ妃!

 彼女に勧められ王子が一心にアルパカをモフっていた姿などは、思い出すだけで涙がでるほど笑えます。

 ヤバい、笑いすぎて咳出てきた……。


 それにしても、やはりアデリーナ妃は報告書にあった通りに、見た目とは裏腹にたくましい令嬢のようですね。

 彼女についての身辺調査を行ったところ、中々苦労されているようでしたし。

 ちらっと相まみえた彼女の姉君を見る限り、相当な苦労がしのばれますね……。


「彼女は……あの離宮で少しは安らげでいるのだろうか」


 彼女の身の上の話をしていると、王子がぽつりとそう呟きました。

 その言葉に、私は驚いてしまいました。

 アデリーナ妃を疎ましがっているとばかり思っていた王子から、まさか彼女を気遣う言葉が出るなんて!


 ……実際にアデリーナ妃に会いに行ったことで、王子の中でも更なる心境の変化があったのかもしれません。

 差し出がましい申し出かとも思いましたが、「妃に会いに行くように」との進言が良い方向に作用したようです。

 この機会を、逃すわけにはいきませんね。


「彼女の身を案じるのなら、今までのように目を背けたりせず、きちんと彼女の元を訪れることですね。王子の覚えもめでたい寵姫とあらば、離縁した後も引く手あまたでしょう。その為には、あなたが彼女を大切にしているということを周囲に見せつけるのです。……少なくとも、彼女のことが嫌いなわけではないのでしょう?」


 そう問いかけると、王子ははっきりと頷きました。

 王子は実直な御方です。嫌いな相手のことははっきり嫌いだとおっしゃるような方です。

 つまりこれは……相当アデリーナ妃のことを気に入ったとみて間違いないでしょう。


「……時間が出来たら、また妃の元へ向かう。その時は訪問の先ぶれを頼む」

「承知いたしました、殿下。……そういえば、アデリーナ妃にはまだ専属の騎士がいらっしゃいませんでしたね。彼女を尊重しているという態度を示すためにも、騎士を付けた方がよろしいのでは?」

「そうだな……俺の近衛から誰か、信頼できる者を送ろう。リストアップを頼む」

「承知いたしました、殿下」


 おやおや、数日前までの完全放置っぷりとは雲泥の差です。

 王子の気が変わらないうちに……と、私はさっそくアデリーナ妃の護衛騎士のリストアップを始めました。



 ◇◇◇



「王子、こちらが妃殿下の護衛騎士の候補者の一覧です。どうぞ、ご確認をお願いいたします」

「ちなみに、お前は誰が適任だと思う?」

「私の一存では……ダンフォースが最適かと」


 書類の束の中からダンフォースのプロフィールを抜き出すと、王子はまじまじと目を走らせました。

 ついでに、ぶつぶつ文句を言いながら書類仕事を手伝っていたゴードンも、首を突っ込んできました。


「ダンフォースかぁ~。別にいいけど、なんでこいつ?」

「ダンフォースは女性に対しては丁寧ですからね。きっと妃殿下のことも気遣い支えてくれることでしょう。それに……彼のプロフィールをよくご覧ください。特に最後の方を」

「ん……?」


 目で文字を追っていた王子が、ある地点であからさまに顔をしかめました。

 どうやら、気づいたようですね。


「趣味:ハムちゃんたちのお世話をすること。特技:編みぐるみ……。なんだこれは」

「ダンフォースの趣味と特技です」


 そう告げた途端、ゴードンがゴホゴホとむせ始めました。

 まったく、書類に唾を飛ばさないで欲しいですね。

 王子は何度も何度も書類を読み直し、信じられないといったように呟きました。


「……この夢見る10歳の少女のような趣味と特技が、ダンフォースのプロフィールなのか」

「はい。ちなみにハムちゃんとは『ハムスター』という種類の愛玩用のネズミのようです」

「あぁ、それであいつ前その辺のネズミに『ぷいぷい!』とか話しかけてたのか~。頭イカれたのかと思ってスルーしてたわ」


 ダンフォースは侯爵家の嫡男。素性については折り紙付き。

 紳士的な性格で女性からの評判もよく、騎士道精神もしっかりと身についています。

 しかし何より私が彼を妃殿下の護衛騎士に推すのは、彼の密かな趣味と特技にあります。


「アデリーナ妃もあまり性格の合わない男が四六時中傍に居れば、負担に思われることでしょう。その点ダンフォースであれば、妃殿下のアルパカのようにふわふわモコモコした動物に理解があります。護衛だけでなく、良い話し相手になるかと」


 そう告げると、王子は何か思うことがあったのか深く頷きました。

 やはり王子は、以前に比べると格段にアデリーナ妃のことを気にかけていらっしゃるようです。


 これはもしかしたら……もしかするかもしれませんね!


「でもさー、ダンフォースの奴顔だけはいいから、うっかり妃殿下が浮気でも……ふぐぅ!!」


 余計なことを口走るゴードンに制裁を加えながら、私は新たな未来を思い描かずにはいられませんでした。

思ったよりも長くなった秘書官視点シリーズ、書きたいネタが多いのでもうちょっと続きそうです。

新婚旅行編もだいぶ完成に近づいてきたので、このシリーズが終わった後くらいに始めたいと思います!



☆新作も始めました☆


「真面目系天然令嬢は年下王子の求愛に気づかない~婚約破棄されましたが逆に幸せなので、後からやり直しは聞けません~」

(https://ncode.syosetu.com/n6448gs/)


第一王子に婚約破棄されてしまった真面目天然令嬢が、年下の第二王子と一緒に頑張るお話です。

お暇なときにでも見ていただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ダンフォース! なんとなくそんな予感はしていたけど、やっぱりそうなのね! というか、プロフィールにハッキリ書いてあるところが爆笑!職場の人に知られるとか、恥ずかしくないのかしらw そっか…
[一言] ダンフォースがハムスター好きだったとは……。 しかも、特技が編みぐるみって、まさかの乙メンだったよ。 だからパン作りも一緒にやってたんですね。
[一言] 侯爵家嫡男の趣味がハムちゃんのお世話(笑) 確かにアデリーナと気が合いそう。 ダンフォース優しい紳士だし。 王子はダンフォースとアデリーナが気が合う様なら離婚後は…って考えてたのかな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ