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33 王子様、思い悩む

 俺は精力的に《芳醇の国》との交流を深め、アデリーナは地竜を救うために尽力している。

 アデリーナなら大丈夫だ。

 俺がうるさく口を挟むよりも、彼女を信頼して任せた方がいい。

 ……そう何度も自分に言い聞かせた。

 それでも、湧き上がってくる暗い感情に気づかないふりはできなかった。


 ――「もしアデリーナが地竜に襲われたら」

 ――「またフレゼリク帝がアデリーナを連れ去ろうとするかもしれない」

 ――「本当に秋の妖精王は俺たちを認める気があるのか? ただ都合の良い駒として扱っているだけじゃないのか?」


 考えれば考えるほど、思考が深みにはまっていくようだった。

 コンラートから報告を受けるたびに、「本当にそれで大丈夫なのか」と今すぐアデリーナを連れ戻したい思いにかられる。

 だがアデリーナの邪魔をしたくない一心で、俺は俺の責務に励んでいた。

 ついにコンラートから、今夜地竜を山奥へ逃がす作戦を決行するとの話が来た。

 ……アデリーナなら大丈夫だ。コンラートやダンフォースもついている。

 彼女は自分の夢に向かって進んでいるのだ。俺がその邪魔をしてどうする。


「王子、本当に妃殿下に会わなくていいんですか?」


 ゴードンは何度も何度もそう問いかけてきたが、俺が直接アデリーナと顔を合わせることはなかった。

 アデリーナから離れている今は、比較的に冷静に物事を考えることができる。

 遠くから、アデリーナの夢を支えることができる。

 だがひとたび顔を合わせてしまえば……感情がコントロールできる自信がなかった。

 本当は、アデリーナに会いたくてたまらない。

 顔を合わせて、話しあって、「君の夢を応援している。俺は俺のやり方で君を支えたい」と伝えることができれば……どんなにいいだろう。

 そんなことを考えていると、慌てた様子のコンラートがやってくる。


「王子、妃殿下が王子とお話がしたいとのことです」

「アデリーナが!?」


 その瞬間、胸に湧き上がって来たのは確かな歓喜だった。

 あんなに冷たい態度を取って、傷つけてしまったのに……それでも、アデリーナは俺に会うことを望んでくれている。

 その事実に、心の中の暗雲が晴れたような気がした。

 ……きっと今なら、アデリーナの背を押してやれる。

「君なら大丈夫だ」と伝え、可能であれば俺も同行しよう。


「……わかった。アデリーナを通してくれ」

「承知いたしました。……くれぐれも、妃殿下のお気持ちを考えて発言してくださいね?」


 そう釘を刺してきたコンラートに、自戒も込めて頷いた。

 大丈夫。きっとうまくいくはずだ。


 ほんの数日とはいえ、アデリーナと直接顔を合わせない日々はまるで永遠のように長く感じられた。

 あまりにやけすぎても引かれるかと思い、表情を引き締める。


「アデリーナ様がお見えです」


 扉を叩く音と共に聞こえてきた声に、背筋を正す。

 コンラートに続いておずおずと部屋に足を踏み入れた最愛の妃の姿に、会えなかった分まで愛しさがこみ上げてくる。

 だがそれと同時に、今まで蓋をしてきた負の感情まであふれ出してきてしまった。

 可愛いアデリーナ、愛しいアデリーナ。

 危険な場所になど行かせたくない。

 他の男を近づけさせたくない。

 ずっと、ずっと、俺だけを見ていればいい……!

 突然胸を満たした凶悪な感情に、自分でも表情が歪んでいくのがわかった。

 俺を見たアデリーナが、怯えたように身をすくませる。

 そんな些細な仕草にさえ、心に棘が刺さったかのように苛立ちが止まらない。

 駄目だ、アデリーナを怖がらせるな。

 俺は彼女を支えると決めたじゃないか……!

 そう自分に言い聞かせても、荒れ狂う感情を抑えることなどできそうになかった。


「……アレクシス王子、ご報告したいことが」

「なんだ」


 意を決したように話を切り出したアデリーナに、冷たい態度を取ってしまう自分に嫌気がさす。


「例の地竜の件なのですが……」


 それでもアデリーナは気丈に、話してくれる。

 何としてでも急いで地竜を山奥に帰してやらなければいけないこと。

 そうしなければ、フレゼリク帝に地竜が討伐されてしまうこと。

 クッキーをまいて地竜を誘導し、山奥へ帰す作戦を決行すること。

 既に準備は済み、あとは夜を待つだけだということ……。

 彼女が話してくれた内容は、コンラートから聞いていた報告と大差なかった。

 報告を聞いたときは、アデリーナの背を押す心積もりはできていた。

 彼女が自力で地竜を救う方法を見つけたことを誇りに思い、俺も協力しようと思っていた。


 そのはず、なのに……。


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