25 お妃様、公衆の面前で断罪されかける
今夜は、宮殿のホールで大規模な舞踏会が催される。
当然、滞在中のプリシラ王女様ご一行も参加されるようだ。
私と王子が入場すると、盛大な拍手で迎えられる。はぁ、この感覚はいつまでたっても慣れないな……。
会場には既に着飾った多くの人々が集まっていた。美しく翻る色とりどりのドレスに、少しだけ気分が高揚する。
……まるで、あの時のようだ。
――王子とエラが出会った、運命の舞踏会。
あの時の私は、間違いなく「その他大勢」の一人だった。
王子は一度も私に目を留めることはなかった。
まぁ、当然ですよね。私……地味だし。
でもそんな私が、今や彼の妃として隣を歩いている。
そう思うと、どこか恐ろしいような、くすぐったいような、少し切ないような……不思議な気分になってしまう。
さすがにすぐ隣にいたからか、王子はすぐに私の変化に気づいたようだ。
「どうした、アルフォンシーナ。……気分でも悪いのか?」
「いいえ、少し……緊張しているのかもしれません」
気遣わしげに声を掛けられ、なんだか申し訳なくなってしまう。
本当は王子だって、名前を覚えるのも億劫に思うような相手の隣にいたいはずがないのに。
……それにしてもこの人、私以外の女性の名前は普通に覚えてるんですよね。
もしかして私への遠回しな嫌味だったりするんだろうか。「貴様など名前も覚える価値もない烏合の衆だ」……みたいな。
うーん、それはないと思いたいけど……。
そう考えた時、プリシラ王女の入場が高らかに告げられた。
「わぁ……!」
今宵のプリシラ王女は、世にも珍しい、眩く輝く金色のドレスをお召しになっていた。
私が身に纏う淡いラベンダー色のドレスなんて霞んでしまうほど、圧倒的な輝きを放っている。
その美しい立ち姿に、方々から歓声が上がる。
会場の明かりがドレスや宝石に反射して、キラキラと輝いていた。まるで夜空の星のようだ。
「……発光してないと死ぬのか?」
「王子、何かおっしゃいました?」
「いや、なんでもない」
間違いなく、プリシラ王女が今夜の主役だ。彼女はそれだけの存在感を放っている。
まるで……あの時のエラのように。
そう考えた途端、鼓動がどくり、音を立てた。
……そうか、今夜はあの時のやり直しになるのかもしれない。
王子様とお姫様は舞踏会で手を取り合い、結ばれる。
少し間違えてしまったけど、これで正しい運命に戻るのかもしれない。
……脇役の私は、これで幕引きかしら。
「アレクシス王子、とても素敵な舞踏会をありがとうございます!」
まっすぐにこちらへやって来たプリシラ王女は、嬉しそうに王子に話しかけている。
はぁ、近くで見るとやっぱりお似合いだ。
王子の方は少し引き気味だけど……緊張しているのかな。
「王子、どうか私と踊っていただけませんか?」
小柄なプリシラ王女が上目遣いで、王子にそう誘いかけた。
大きな瞳はうるうると潤んでいて、長いまつげが影を落とすさまなどは見ていて感嘆するほど。
とても私と同じ種類の人間だとは思えない。
これで断る人間なんて――
「……済まないが、最初のダンスは妃と踊ることに決めている」
いたー!!
王子は私の腰を抱き寄せ、そんなことを言い始めたのだ。
ちなみに既婚者が揃って舞踏会に参加する場合は、まず配偶者とファーストダンスを踊るのがこの宮廷でのマナーだ。
それは私も知ってるけど……相手はプリシラ王女ですよ? あなたの次のお妃様ですよ??
用済みの私と踊っている場合ではないのでは!?
それとも、これはプリシラ王女を嫉妬させようとする作戦ですか?
そういうの、やられた方は本気で傷つくからやめた方がいいですよ!?
「王子殿下、私のことはお構いなく――」
「やっぱり、おかしいわ!」
プリシラ王女と踊ってきてください、と言う私の言葉は、当の王女様の大声に掻き消されてしまった。
驚いて目を丸くする私の前で、プリシラ王女は大きな目を見開いてこちらを……私を睨みつけている。
思わず息を飲んだ私を庇うように、王子が一歩前に出る。
すると、次の瞬間――
「正気に戻ってください、アレクシス王子。あなたはその女に騙されているのです!!」
細くしなやかな指でびしりと私を指さし、プリシラ王女はそう叫んだ。
…………え?
明日は3話更新予定です!




