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31 会いたい

「すごい……!」


 見渡す限りのクッキーの山を前に、私は感嘆の声を上げてしまった。

 このままお菓子屋さんでも開けそうなくらいの、多種多様なクッキーが揃っている。

 はぁ、いい匂いが長時間のお菓子作りで疲れた食欲を刺激しますね……。

 でもつまみ食いは許されない。

 だってこれは、地竜を引き付けるための餌なのだから。


「えへへ、一枚くらいなら……」

「駄目よ、ロビン。途中でクッキーが足りなくなったら私たちが食べられちゃうかもしれないもの」

「ひぇっ!」


 こっそりつまみ食いしようとしていたロビンを脅すと、彼はぴゃっ、と飛び上がった。


「僕なんて小さいから食べるところないですよぉ!?」

「わからないわよ? おやつに丁度いいかも……」

「ひーん! つまみ食いしようとしたことは謝るから許してくださいよぉ……!」


 泣きついてきたロビンの頭をよしよしと撫で、私は次の指示を出す。


「このクッキーの山を人数分に分けてほしいの。皆で少しずつクッキーを投げて、地竜を誘導するのよ」

「承知いたしました」


 素早く梱包作業を始めたダンフォース卿を眺めながら、私は今後のやるべきことを頭に思い描いた。

 クッキーはできたけど、本番はここからだ。

 まず私たちは人々が寝静まった真夜中に、地竜が潜んでいるであろう地点へと向かう。

 そこで昼間の間に皆が集めてくれたスパイスを振りまき、地竜をおびき出すのだ。

 地竜は視覚よりも嗅覚が発達している。

 スパイスの強い香りに、きっと出てきてくれるだろう。

 狙い通り地竜が出てきたら、「ヘンゼルとグレーテル」の物語のように、皆でクッキーを落としつつ地竜を少しずつ山奥へと誘導する。

 きっと長期戦になるだろう。

 クッキーの量はおそらく大丈夫だから……あとは体力や集中力を高めるためにしっかりと休息を取らなければ。


「皆、協力してくれてありがとう。準備が済んだら、夜まで休んでもらえるかしら」

「それは構いませんが……妃殿下」


 コンラートさんが小声で私を呼ぶ。

 そっと近づくと、彼は耳元で囁いた。


「……王子殿下とお話されなくともよいのですか?」


 その言葉に、心臓がどくんと音を立てる。

 ……バルコニーでフレゼリク陛下と話しているときに、王子が助けに入ってくれたことがあった。

 でも、あれから一度も……私は彼と話せていない。


「……そうですよね。コンラートさんを危険に巻き込んでしまうかもしれないのに、王子に――」

「いえ、私のことは大丈夫です。それよりも、王子が気になさっているのは妃殿下のことですよ」

「…………はい」


 コンラートさんの言葉に、私は曖昧に頷くことしかできなかった。


「私は妃殿下の作戦が成功すると信じています。ただ……地竜の傍に近づく以上、危険な行為であるのは確かです。やはり、王子にお話しした方が――」

「…………そう、ですね」


 王子のことを考えると、心が揺らいでしまう。

 秋の妖精王に認めてもらうために、意地を張って、王子と喧嘩をして、ここまで来てしまった。

 もちろん、今更課題を放棄する気はない。

 でも……相手は地竜なのだ。コンラートさんの言う通り、万が一のこともある。

 もしかしたら……もう二度と、王子には会えないかもしれない。

 そう考えると、心の中で寂しさと愛おしさが膨れ上がっていく。


 ……会いたい。王子に会いたい。

 声を聴きたい。会って話したい。

 どうして、今まで離れていられたんだろう……?

 そう思ってしまったら、もう駄目だった。


「……王子と、お話ししたいです。あの、コンラートさん――」

「ご安心ください、ばっちりと王子と会える時間を作りますので」


 コンラートさんは力強くそう言ってくれた。

 作戦のことを考えると、さっさと休んだ方がいいんだろうけど……「王子に会いたい」という思いばかりが大きくなって、とても眠れるような気はしなかった。


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