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30 魔法よりも素晴らしい魔法

 さてさて準備が整ったら厨房に集合です。

 皆が買ってきた材料を次々とテーブルに並べていく。

 小麦粉、砂糖、牛乳、バター、はちみつ、フルーツ、ワイン、香辛料などなど……。

 うーん、壮観。

 うっかり地竜のためのクッキー作りってことを忘れそうになりそうだ。


「とりあえず混ぜればいいのだろう? 任せろ」

「あぁー! 待ってくださいディアーネさん! お菓子作りは計量が大事なんです!!」


 大雑把に材料を混ぜ合わそうとするディアーネさんを慌てて制止する。

 お菓子作りでは分量を正確に図ることがすごく大事ですからね。

 まずいクッキーを食べさせたら地竜も怒るかもしれないし、できれば美味しくできたものを食べてほしいと思うのです。


「なるほど……奥が深いな」


 うんうんと納得したように頷くディアーネさんの背後で、ダンフォース卿とコンラートさんが丁寧な手つきで計測を進めてくれている。

 いつも私と一緒に厨房に入ってくれているダンフォース卿はともかく、コンラートさんも見事な手つきです。

 普段から忍耐強く王子のお仕事を支えていらっしゃるから、細かい作業のお手の者なのかもしれない。

 私もヘラで手元のボウルをかき混ぜる。


 ……どうか、美味しく出来上がりますように。


 客観的に見れば意味はないのかもしれないけど、やっぱり「食べる人のために」って思いを込めるのが大事だと思うんですよね。

 願うことから魔法は始まるっていうけれど、そう考えると料理やお菓子作りも魔法と同じようなものなんだろうと思う。

 食べた人が幸せを感じて、笑顔になってくれるようなことがあれば……きっとそれは、魔法よりも素晴らしい魔法だ。


 ……なんてことを考えている間にも、順調に生地は出来上がっていく。


 さて、ここで味付けを一つまみ。

 地竜がどんな好みをしているのかわからないので、いろんなクッキーを作っちゃいます。

 私の手元のボウルには、香りづけのシナモンを投入だ。

 甘く、あたたかく、ほんのりスパイシーな香りが漂い、それに惹かれるようにロビンがふよふよ飛んできた。


「あ、これってこの前のアップルパイと同じ匂いだ!」

「ふふ、正解」

「ねぇアデリーナさま、生地のベッドの上でごろごろしてもいい?」


 ロビンが期待を込めたきらきらと輝く目で見上げてくる。

 うぅ、その可愛さにほだされて許可してあげたいけれど……。


「だぁめ。シナモンの香りが全身についちゃうわ。地竜がクッキーじゃなくロビンを食べに来るかも……」

「ひぇぇ、やめます!」


 慌てて飛び上がるロビンにくすりと笑いながら生地を薄く伸ばす。

 いつもだったら可愛く型を取ったりするんだけど、今回は地竜のためのクッキーですからね。

 可愛さよりも、いかに地竜の興味を引くかを優先的に考えなければ。


「持ち運びができることは絶対で、かつ地竜の気を引くくらいに大きく、途中で足りなくなると困るから枚数は多い方がいい……」

「妃殿下、お任せください!」


 頭をひねっていると、コンラートさんがささっと最適な大きさを計算してくれた。

 おぉ、さすがです。

 私も、もっと頑張らないとなぁ……。


「ほぇ~、ずいぶんと大きなクッキーですねぇ。お腹いっぱいになっちゃいそう」

「腹にたまりそうだな」

「……地竜のためのクッキーですからね?」


 もはや自分が食べる前提で話している妖精二人にくぎを刺しつつ、ダンフォース卿が準備してくれているオーブンの様子を伺う。

 ……うん、いい感じ!

 王宮の厨房というだけあって、オーブンもとても大きく作られている。

 これなら大量のクッキーを焼けそうだ。


「それじゃあ……焼きますか!」


 様々なクッキーが美しく焼きあがる光景を想像し、私は思わず表情を緩めていた。

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