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4 謎の少年

「待って、止まって!」


 いや、ほんとにまずいんですって!

 だって、そのバスケットの中に入っているのは……お金や貴重品ではなくマンドラゴラちゃんなのだから!


 本当は離宮でお留守番をしてもらう予定だったけど、気づけば私の荷物の中に紛れ込んでしまっていたのだ。

 ついてきてしまった以上、この国の王宮に置いておくわけにもいかない。

 というわけで、マンドラゴラちゃんに外の空気を吸わせてあげる意味でも、こうしてバスケットに入れて一緒に楽しんでもらおうと思っていたんだけど……まさかこんなアクシデントがあるなんて!

 こんな往来で、マンドラゴラちゃんが泣きだしちゃったら大変なことに!

 私が慌てて駆け出すのと同時に、ダンフォース卿とディアーネさんも素早く動いた。


「借りるぞ」


 ディアーネさんは近くにあった酒樽を持ち上げると、小さな盗人の進行方向へと思いっきり投げつけた。


「うわっ!」


 盗人の目と鼻の先に酒樽が落下し、思った通りに足が止まる。

 そのすきを見逃さず、ダンフォース卿が進行方向をふさぐように立ち塞がった。


「ちっ!」


 小さな盗人はそれでも逃走を図ろうと、人ごみの中に紛れようとしたけど――。


「捕まえた!」


 背後から忍び寄った私は、勢いよく犯人の腕を掴んだ。

 確保! 検挙! さぁ、マンドラゴラちゃんを返してもらいます!


「お願い、待って! その中にいるのは私の大事な子なの!」


 そう口にした途端、盗人の動きがぴたりと止まる。

 盗人は私の言葉を確かめるように、そっとバスケットの蓋を開ける。

 すると、心なしか不安そうな顔をしたマンドラゴラちゃんが顔をのぞかせた。


「ぴきゅ……」

「よかった……もう大丈夫よ」


 そっとマンドラゴラちゃんの頭を撫でていると、ダンフォース卿とディアーネさんも来てくれた。


「妃殿――アデリーナ様、ご無事ですか?」

「ふむ、物取りか。まだ子どものようだが……っ!」


 何気なく盗人の被っていた帽子を取ったディアーネさんが、驚いたように息をのんだ。

 その下から現れたのは、まだ幼い少年の顔だ。

 何より私たちの目を引いたのは、ロビンやディアーネさんと同じく葉っぱのような形をした尖った耳――まさか、この子も妖精族!?


「人の国の往来でマンドラゴラを持ち運ぶなんて、褒められた行為じゃないね」


 驚く私たちの前で、少年は再び帽子を被りなおす。

 ぴんぴんとあちこちにはねた琥珀色の髪に、生意気そうな紅葉色の瞳。

 年のころは十歳くらいだろうか。ディアーネさんのことを考えると、もちろん見た目通りの年齢じゃない可能性はあるけど……。


「まぁいいや。僕を捕まえられたから、第一関門はクリアってことにしてあげてもいいよ」


 どこまでも上から目線で、少年はそう言い放った。

 彼はあんぐりと口を開ける私に向かって、不敵に笑う。


「いつまで呆けてんの? ほら、場所を変えるからついてきなよ」




 少年の後を追ってたどり着いたのは、街のはずれの川のほとりだった。

 城壁の向こうには段々になったぶどう畑、その更に向こうにはそびえたつ山々の姿が見える。


「……さて」


 少年はぴたりと足を止めると、踊るように軽やかな動きでくるりと振り返る。


「はじめまして、春の妖精女王に連なる者、人と人ならざる者を繋ぎたいなんてとんでもない夢を抱くお馬鹿さん」


 からかうような笑みを浮かべて、彼は私の顔を覗き込んだ。


「僕はルー。秋の妖精王の配下だ。そこの若作りしたばあさんと、君のエプロンのポケットに入ってる小さいのと似たような立場かな」


 ディアーネさんと、私のエプロンのポケットに潜んでいるロビンに視線をやりながら、少年――ルーは歌うようにそう告げた。

 その言葉に、ディアーネさんは心外そうに眉をひそめる。


「む……ばあさんとは私のことか」

「だってそうだろ。人間に換算すれば、君はとっくにババアじゃん」

「ふむ、そう言われればそうだな」


 ディアーネさん、そこで納得しないでください……!

 確かに、彼女がブライアローズ様の娘――私の祖母の幼馴染であることを考えると、実質おばあちゃんなのかもしれないけど……ホールケーキを丸ごとたいらげるその体は間違いなくお若いですから! 

 それにしても……このルーという少年、今までお会いした妖精族にはあるまじき失礼っぷりだ。

 初めて会った時のロビンでさえ、こんなに生意気じゃなかったのに。

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― 新着の感想 ―
[一言] ルーって言われると大柴って続けたくなる
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