表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

215/271

39 王子の隣で

「素敵です、お妃様!」

「まるで春の女神のよう――」

「パレードの観客はお妃様に見惚れること間違いなしですね!」

「ふふ、ありがとう……」


 いつも思うけど、王太子妃の身支度って本当に大変だ。

 離宮の侍女たちの力を借り、長い時間をかけドレスとメイクを身に纏う。

 こうすれば、モブな私も遠目にはお妃様に見える……はず。

 それでも、あの王子の隣に立つと霞んでしまいますけどね。


「お妃様、王子殿下がお迎えにみえました!」


 侍女の嬉しそうな言葉に、私は慌てて背筋を伸ばした。

 ちょっと緊張するけど、王子をお待たせしてはいけませんね。

 私はいそいそと控えの間を出て、王子の待つ応接間へと足を進める。


「お待たせいたしました。王――」

「きゃあ! 素敵よ、アデリーナ!」

「よく似合っているな。ティターニアにも見せたいものだ」

「冬を終え、春を迎える祭事の衣装としてはよくできている」

「……アデリーナ、なぜ彼らがここにいるんだ?」


 応接間には困惑気味の王子だけではなく、妖精王三人が我が物顔で鎮座していたのです。

 すみません、王子。まさか妖精王という存在がこんなにフレンドリーだなんて、私も想像していなかったのです……。

 妖精王三人は王子よりも先に私の周りにやってくると、何やら感想を付け始めた。


「そのドレスの色も可愛いけど、明るいピンクにしてみてはどうかしら!」

「いや、眩い太陽のような黄色がいいだろう」

「だから貴殿らは派手すぎるといっているだろう。ここは清楚な白が一番だと――」

「いっ、今のままの色で結構です……!」


 一斉に私のドレスの色を変えようとする妖精王三人に、私は慌てて後ずさった。

 本日私が身に着けているドレスは、若草色を基調とした淡いグリーンの系統でまとめている。


「……君の瞳と同じ、新芽が芽吹くような春の色だ」と王子が選んでくれた物なのです。


 だからお三方のご厚意はありがたいのですが、この色だけは絶対に変えたくないんですよね……!


「おい、アデリーナに群がるな! 囲むな! ドレスの色を変えようとするな! まったく油断も隙もない……」


 妖精王に包囲される私を、王子が抱き寄せるように救出してくれる。

 彼は縮こまる私に視線を移すと、じっと私の格好を眺めていた。 

 何か変だったかな……とドキドキしたけど、すぐに彼は優しく口を開く。


「……思った通りだ。ドレスが完成した時も美しいと思ったが、君が袖を通すことによって何百倍も魅力的に見える」

「そんな……」

「自信を持て、アデリーナ。妖精王の珍妙なセンスなどなくとも、君は君のままが一番美しいのだから」

「王子……」


 センスを否定されたお三方がぶーぶー言うのには気づかない振りをして、私はそっと頷いた。


「王子も、とても素敵です。本当に、おとぎ話の中に出てくる王子様みたいで……」


 今日のアレクシス王子は、私のドレスよりも少し濃いグリーンの礼服を身に纏っていらっしゃる。

 それがまたよく似合っていて……というよりもこの御方に着こなせない衣装などないのでは? という感じですね。

 まぁ何を言いたいのかと言えば……見惚れてしまってうまく言葉もでてこないということです。


「惚れ直したか?」


 耳元でそう囁かれ、一気に体温が上昇する。

 あぁもう……私の心なんて、お見通しなんでしょうね!


「アデリーナ、例の騒動で少なからず民の間にも動揺が広がっている。だから今日のパレードは、そんな民に『何も心配することはない』『長い冬は終わり、新しい春を祝福しよう』というメッセージを伝えるのが目的だ。君はそのメッセンジャーとなる」

「はい、重大なお役目ですね」


 不安にさいなまれる皆様に、楽しかったり、嬉しかったり、そんな暖かな気持ちになってもらうのが私の役目。

 何があっても、この方たちがいれば大丈夫だと皆に思ってもらえるように。

 王子の隣で、笑っていよう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 精霊王の前でイチャイチャしてる( ˘ω˘ )
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ