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38 さすがは私のお姉ちゃん!

「わぁーお」

「おとぎ話でもなかなか無いシチュエーションだね」


 エラちゃんも不審者――もとい魔法使いさんものんきに感心してる場合じゃないですよ!

 これ、普通に考えればとんでもない事態ですからね!?


「ななな、何かまた大変なことでも起こったのですか!?」


 慌てる私に、ブライアローズ様はにこにこと笑いながら教えてくれる。


「そんなに心配しなくても大丈夫よ。言ったじゃない、助っ人って。アデリーナが困っているみたいだから、私が呼んできたのよ」


 確かに困ってはいたけど……そんな、たかが一国のお祭りの催し程度のことで妖精王を二人も呼び出すなんて!

 さすがはブライアローズ様、規模感がバグっていらっしゃる……!


「この馬車を飾り付ければいいのね? 任せて!」


 生き生きとしたブライアローズ様が、オベロン様とユール様を引き連れて馬車へと近づく。

 そして――。


「生命の息吹芽生える、春の祝福をここに」


 ブライアローズ様がそう唱えた途端、必死に集めた花たちがふわりと浮かび上がり、シンプルな馬車を彩っていく。


「情熱の炎が燃える、夏の祝福をここに」


 オベロン様がそう唱えた途端、馬車を彩る花たちがどんどんと育っていく。

 葉と茎を伸ばし、また新たな花を咲かせる。

 中には見たことのないような色鮮やかな花もあって、私は呆気に取られてしまった。

 あっという間に、シンプルな馬車は見る者の目を惹きつけずにはいられない、華やかなものへと変化したのです!

 でも、これだとちょっと派手すぎるような……。


「……白き静寂の降り注ぐ、冬の祝福をここに」


 少し呆れ気味に、ユール様がそう唱える。

 その途端、鮮烈な色の花と花の間から、するすると小さな白い花が伸びてくる。

 白い花が増えてくると、オベロン様の咲かせた色鮮やかな花も馴染んできますね。

 そう、いい感じのアクセントになって――。


「わぁ……!」


 完成したのは、私の理想の……いいえ、もっともっと素晴らしい花の馬車だった。

  まさに春の訪れを体現したかのように、美しくて華やかで……それでいて、私や王子の存在感を引き立てる気配りも見て取れる。

 すごい……ほんの少しの時間で、こんなに素敵なものができるなんて……!


「むぅ、これでは少し地味ではないか? もう少し彩りを――」

「やめろ、貴殿のセンスは派手すぎる。これは乱痴気騒ぎではないのだぞ」


 更に鮮やかな花を増やそうとしたオベロン様を、ユール様が止めている。

 ありがたやありがたや……これ以上派手になると、王子はともかく私なんて存在が掻き消されてしまいますからね。

 よかった、なんとか間に合って。

 でも――。


「これで、よかったのかしら……」


 私の理想以上のものが出来たのは嬉しいけれど、正直に言えば私……何もやってないんですよね。

 王太子妃としての仕事だったのに、果たしてこれでいいのでしょうか……。

 ぽつりとそう零すと、傍らのダンフォース卿が優しく口を開く。


「妃殿下、人は誰しも、一人で生きているわけではありません。他者の力を借りることは、決して責められるようなことではないんですよ。むしろ人の上に立つ者ほど、うまく他者を動かすか力が求められるのですから」

「そうですよぉ、アデリーナ様、王子の部下の人がよく愚痴ってますもん。この世界はコネと根回しが重要だって」


 ダンフォース卿とロビンの励ましの言葉に、私は微笑んだ。

 ふふ、いつも愚痴っている王子の部下っていうのは、コンラートさんのことかな?

 そうですよね、王子だって、一人で何でもできるわけじゃない。

 うまく皆の力を合わせることこそが、大変で重要なお仕事なのでしょう。


「いくら頼まれたとしても、信を置けない者に助力はできない。それは、人も妖精も同じだろう。アデリーナ、皆があなたを助けるのは、あなたを信頼し、力になりたいと思っているからこそだ。あなたは、それを誇りに思うといい」

「……ありがとうございます、ディアーネさん」


 おかげで、吹っ切れた気がします。

 私はまだまだ半人前の王太子妃、一人でなんでもできるなんて、思い上がりも甚だしい。

 だからこそ、謙虚に皆様のお力をお借りいたしましょう。


「ふふ、しばらく会わない間にお妃様っぽくなったんだね、アデリーナ」

「エラが王子と結婚していたら、こうなっていたかもしれないのよ?」

「私には無理だよ。たぶん三日くらいで脱走してると思う。だから、アデリーナはすごいよ。さすがは私のお姉ちゃん!」


 エラに抱き着かれて、私は嬉しくなった。

 美しいおとぎ話ではありえないような、滑稽な道の先に今が続いている。 

 それって、とってもすごいことですよね。


「いってらっしゃい、アデリーナ。それと、お祭りが終わったら少し話があるの。王子様と一緒に来てくれるかしら」

「はっ、はい!」


 ブライアローズ様はあらためてそう口にし、私は慌てて頷いた。

 妖精女王のお話……いったい、何なのでしょう。

 気になるけど、今は目の前のことに集中しないと!


「妃殿下、そろそろ身支度に入るお時間です。控えの間へ急ぎましょう」

「そうね、ダンフォース卿。でもこの馬車は――」

「私が責任を持って届けよう。何も心配することはない」

「ありがとうございます、ディアーネさん!」


 みんなが協力してくれているのだから、みっともない姿は晒せませんね。

 少しでも王子の隣に立つにふさわしいお妃様に近づけるように、私は身支度を急ぐのでした。

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