34 姉妹会議
「お母様のお母様――妖精女王の娘ユーリディスは魔女狩りによって亡くなった。逃げ延びたお母様は最初から自らが妖精女王の血筋であることをご存じだったけど、ユーリディスの二の舞とならないように必死に力を秘匿して生きてきたのよ」
「へぇ~、よく黙っていられたわね。お母様とヒルダ姉さんなんて、『私たちが妖精女王の後継者です!』なんておもいっきりお金儲けに利用しそうなのに」
「ちょっと! 私たちだってそのくらいの分別はついてるわよ! ……まぁ、私はそれをやろうとしてお母様に止められたのだけど」
軽口を叩き合うヒルダ姉さんとエラの声を聞きながら、私はまだ放心していた。
私の母はブライアローズ様の亡くなった娘のさらに娘で。
つまりはその娘である私もブライアローズ様のひ孫ということで……いやいや、いきなりそんなこと言われてもびっくりですよ!
でもそう考えると、私に妙な魔力が宿っていたのも納得できるかな……。
ブライアローズ様と母さんは二人で話すことがあるということでどこかへ行ってしまった。
今は離宮の傍のガゼボで、久々に姉妹三人が顔を合わせている状況だ。
「……いやいや、何で二人ともそんなに落ち着いていられるの? これってとんでもないことなのよ!?」
「だって、お母さんの義理の娘である私は別に血が繋がってるわけじゃないし。ヒルダ姉さんとアデリーナのおまけみたいなものよ」
「あーら、この私が妖精女王の血筋だなんて箔がつくじゃない。美しく高貴な私にぴったりだわ!」
エラはともかく、この状況でここまで余裕を見せる姉さんはある意味うらやむべきなのかもしれない。
じっとりした視線を向けると、姉さんは小さくため息をつく。
「……私だって最近知ったのよ。あんたがホイホイ妖精王に関わるようなことがなければ、きっとお母様は墓まで持って行ったでしょうね」
「う……」
ヒルダ姉さんによると、妖精女王の異変を感じ取った母さんが意を決してここまで来てくれたのだという。
……私が知る限り、お母さんは一度も、自分が魔法使いだということも妖精女王の血を継いでいるということも口にしなかった。
それだけ、恐れていたのだろう。
両親が亡くなった魔女狩りに、自身や家族である私たちが再び巻き込まれてしまうのを。
私は、母さんのことをとんでもない人だと思っていた。
派手好きで、エラの父が残してくれた遺産を使い潰し、権力や名誉に目がない人間――。
でも、私が見ていたものだけがすべてじゃなかったのかもしれない。
…………いろいろ言いたいことはあるんですけどね!
「……とにかく、お母様のおかげで私たちは今まで無事に生きてこられたの。それだけは、忘れてはいけないわ」
ヒルダ姉さんが口にした言葉に、私は渋々頷いた。
私たちが生まれた頃には、既にブライアローズ様は春の妖精の郷を閉ざしていたはずだ。
ということは、各地で常冬現象が少しずつ進行していたのだろう。
そんな中で私たちが「春の妖精女王の血を継ぐ者」だと知られれば……きっと、大変なことになっていた。
全部が全部賛同できるわけじゃないけど、まぁ……ここまで誰にも疑われずに来られたのは母さんのおかげなのだろう。
「あっ、戻って来た」
そんなエラの呟きに顔を上げると、ブライアローズ様が一人でこちらへ歩いてくるところだった。
あらためて見てみると私たちの母さんの方がよっぽど年上に見えるのに、実態はブライアローズ様の孫だなんて。
世の中って本当に不思議ですね……。