21 お妃様、お疲れの王子を労わる
夏が過ぎ秋が訪れても、私のお妃様生活は変わらなかった。
川釣りに興じて、羊やアルパカと戯れ、畑の世話をして採れた野菜を摂取する日々。
……もちろん、社交の方もそれなりにはこなしていますよ?
最近では一応王太子妃である私の機嫌を損ねてはまずいと思ったのか、淑女の皆さまが私のスローライフトークに合わせてくれるようになっていたり。
皆の装いも私より目立たないように気を遣われているのか、心なしかシンプルなものに変わりつつある。
はぁ、誠に申し訳ない……。私がもっと気の利いた話が出来て、豪華な宝石やドレスの似合う妃だったら、皆もっとのびのびとできたでしょうに……。
美しく着飾ったエラを見初めた御方だし、きっと王子もああいうキラキラした女性の方がお好みのはず。
次のお妃様は、是非私よりも華やかで社交的な方を選んでいただきたい……!
まぁ王子の周りにいらっしゃる女性で、私以下の御方はそうはいないでしょうが……。
それにしても、王子はまだ愛人さん(仮)に片思いのままなんでしょうか。
ちょっと暴走気味なところがあるけど、王子にもいい所はあるんだよね。
きちんと国の未来や民のことを考えているし、そのせいでオーバーワーク気味になったりもする。
手違いで娶ってしまった邪魔でしかない私のことも、十分すぎるほど気にかけてくださる。
最初はとんでもない人だと思ったけど、いつの間にか私は彼に対して親しみを覚えるようになっていた。
だからこそ、彼には幸せになって欲しいのだ。
◇◇◇
「……というわけで、来月同盟締結の為に西の国の王女一行が我が国を訪れることになっている。済まないが、滞在中には君にも歓迎会をはじめとした様々な行事に出席してもらうこととなるだろう」
「それは構いませんが……王子、お疲れですよね……?」
本日の王子殿下は、いつにも増して疲れた様子だった。
顔色が悪いし、目の下にはうっすらと隈までできている。
お仕事に励むのは結構ですが、体を壊しては元も子もないですよ!
「慰め程度にしかならないでしょうが……疲れに効くハーブティーを淹れて参ります。少々お待ちください」
カモミールにリンデンフラワーにローズヒップ。
レシピを見ながら、きっちりと分量を量ってブレンドしていく。
エラだったらこういう時は天性の勘で上手いことやってしまうけど、私は凡人。やっぱりレシピ通りが一番だ。
「お待たせいたしました」
「あぁ、済まないな」
王子は私の淹れたハーブティーを口にすると、ふっと表情を緩める。
「……ありがとう、これでもう少し頑張れそうだ」
「王子、きちんと休むことも大切ですからね! あっ、どうせならアルパカをモフっていかれますか? 癒されますよ~」
「……あぁ、頼む」
どこかぼぉっとした様子の王子を引っ張るようにして、牧場へと連れていく。
備え付けられたベンチに彼を座らせてアルパカを連れてくると、彼は素直にモフモフしていた。
アルパカちゃんは王子に会えたのが嬉しいのか「フーン♪」といつもよりテンション高めに鳴いている。
さすがはイケメン、動物まで誑かすとは……!
……なんてことを考えていると、ふと肩に重みが。
いったい何だろう、と思いそちらを振り返り……思わず仰天してしまった。
なんと、王子が私の肩にもたれるようにして……目を閉じてお休みになっているではないですか!
あわわわ、こういう時はどうすれば……!
「お、王子……」
おそるおそる呼びかけてみたけど、王子は起きない。
小さな寝息も聞こえてくるし、これ完全に寝入ってるやつだ……!
無理やり起こすのも忍びなくて、私はアルパカと目を合わせて「どうしよう」と途方に暮れてしまった。
だが、そうしてるうちに事態は更に悪化していく。
「わわわ……!」
徐々に王子の頭が傾いて……危うく私の肩からずり落ちそうになってしまう。
落ちそうになる王子の頭を支え、私の体の位置をずらして、王子の体もそっとずらして……なんとか無事に王子の頭を私の膝に着地させることに成功した。
ふぅ、これで安心……じゃなくて!
この状況を何とかしなければ!
助けを求めようと、遠くから見守っている王子の護衛や離宮の侍女たちに視線を送るけど、何故か皆微笑ましいものを見るような顔でにこにこするばかりで助けてはくれなかった。
はぁ、仕方ない……。
私の膝なんて不本意でしょうが、今だけは役立たずの妃の私が王子の枕にとなりましょう。
「フェ~?」
「王子が寝てるから、少しだけ静かにね」
結局しばらくの間王子は起きなくて、起きた時にはこちらが申し訳ないほど平謝りされてしまった。
少しでも王子が休めたのなら、私はそれでいいんですけどね。