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24 逃避行

「……よし、ある程度距離は稼げたっぽいっすね」

「今のところ追っ手の影は見えません」


 ゴードン卿とダンフォース卿の報告に、私はほっと安堵の息をついた。

 現在、私たちは妖精女王の城を出て馬車で郷の外へと向かっている。

 本当はブライアローズ様に郷を開いてもらうように説得できればよかったんだけど、もはやそれどころではなくなってしまった。


 まさか、妖精女王が寄生型マンドラゴラ(?)なる生き物を私に寄生させて、操ろうとしていたのです。


 ここ数日の記憶は曖昧で、何が起こったのかは当事者の私にもはっきりとはわからない。

 ただ、様子のおかしい私を心配した王子がディアーネさんに掛け合って、マンドラゴラを引っこ抜いてくださったとのこと。

 そっと頭に触れても、違和感はない。

 マンドラゴラに寄生されているってどんな状態だったんだろう。

 気になるような、怖いような……。


「だが、まさか君が『城の壁を壊した瓦礫の山で足止めしましょう』なんてことを言い出すとはな!」


 王子が愉快そうに告げた言葉に、私は恥ずかしくなって俯いた。


「いえ、思い返せば切羽詰まった状況とはいえとんでもないことを言ってしまったと――」

「何を言う、君の機転のおかげで助かったんだ。君の観察力の賜物だな」


 大真面目にそんなことを言う王子に、私は恥ずかしさと同時に嬉しさが沸き上がってくる。

 この城に来た時から、なんとなく気になっていたんですよね。

 妖精女王の城は、美しいけど人間の建造物に比べると明らかに作りが脆いのだ。

 常に気候は温暖で、外敵らしい生き物も存在しない。

 そんな環境なら、確かに苦労して城の壁を堅固にする必要はないですよね。


 というわけで、ゴードン卿に持っていたハンマーで壁を壊せないかと打診したところ……一撃で思った以上に瓦礫の山ができてしまったのです。

 でもそのおかげで、私たちを追ってこようとした者たちを足止めし、脱出できた。

 なんとかこのまま、無事に《奇跡の国》へ帰れますように……。


「……君が元に戻って良かった。君に『先に帰ってもいいんですよ?』と言われた時はさすがに肝が冷えた」

「す、すみません王子……。私、覚えていないとはいえとんでもないことを……!」


 うぅ、いくらマンドラゴラに寄生されていたとはいえ王子に向かってなんて失礼なことを……。

 いたたまれなくなって何度も謝ると、王子は気にしなくてもいいというように抱き寄せてくれる。


「……大丈夫だ。普段の君なら、そんなことを言うはずないということはよくわかっている」

「王子……」


 王子は私を信じてくださった。それが、とても嬉しい。

 ずっと雲の上のように感じていた存在が、今はこんなに身近にいる。

 その感覚にはまだ慣れないけど……王子が私を信じてくださるように、私も王子を信じなければ。

 そんなことを考えていると、御者席で手綱を操っていたディアーネさんが声を上げた。


「そろそろ近道を使う! 来た時とは違い揺れるから気を付けろ!」

「え……ひゃあ!」


 ディアーネさんが言い終わるやいなや、馬車ががたんと大きく揺れた。

 思わずバランスを崩してしまった私は、王子に抱き留められてなんとか事なきを得た。

 窓の外に視線をやれば、通常では考えられないほどのスピードで景色が流れていく。

 きっと、ディアーネさんが私たちを逃がすために無理をしてくれているのだろう。


「でもディアーネさん。こんな風に私たちを助けたら、ブライアローズ様の意志に歯向かうことになるのでは……」

「彼女はその覚悟を持って君を助けることを決めたんだ。……《奇跡の国》についたら、彼女のことは間違いなくこちらで保護する。今の俺にできる限りのことはするつもりだ」

「はい……」


 妖精女王――ブライアローズ様は、私を亡くなった愛娘の代わりにしようとしていたらしい。

 その愛娘――ユーリディスさんとディアーネさんは親しかったようだった。

 それでも……ディアーネさんは女王の意に反してまで私を助けてくれた。

 それは私のためでもあり……きっと、亡くなったユーリディスさんのためでもあるのだろう。


「ブライアローズ様の追っ手は、郷の外まで来るのでしょうか……」

「おそらくは来ないだろう。あれだけ強固に郷を閉じていたんだ。いくら君を取り戻すためとはいえ、郷を開き他の妖精を危険に晒すとは考えにくい」


 王子にそう言われ、私はほっとした。

 まだ確証はないけど、なんとか逃げ切れるといいな……。

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