2 シンデレラの姉、即席結婚式に臨む
そんなこんなで私がお城に拉致同然に連れてこられると……なんと、既に結婚式の準備は整っていたのである!
行動早すぎですよ王子。どんだけエラと結婚したかったんですか。
「あれがアレクシス王子の運命の相手?」
「なんていうか……」
「思ったより地味だな……」
あの、聞こえてますよ……?
なんて言うこともできず、私は好奇の視線にチクチク刺されながら控室へと放り込まれてしまった。
控室には既にウエディングドレスが用意してあった。さすがは王子、仕事が早いですね。
待機していた侍女たちがわらわらと集まって来て、あっという間に着せ替え人形と化す私。
「くっ、ドレスがきつい……! 王子の注文通りのサイズで作ったのに!」
内臓が飛び出そうになるほどコルセットで締めあげられて、危うく嘔吐しそうになるところだった。
王子がエラの為に誂えたウエディングドレスは、私にはきつすぎたのだ。
しかし王子、目測でドレスを仕立てるなんてちょっとチャレンジャーすぎじゃないですか?
これたぶん、小柄なエラでも相当きつきつですよ??
なんとか私の標準ボディをドレスに押し込めて、花嫁(仮)の完成だ。
そのまま「次はこちらです」と案内され……気が付けばアレクシス王子と共に、礼拝堂の前の扉に立っていた。
……うん、もう逃げられないね。逃げるつもりもないけど。
たぶん王子が私の存在を認識してから、実に数時間でここまで来てしまった。
ちらりと横を伺うと、彼は視線だけで人を殺せそうな顔をしていた。正直怖い。
「いいか、エヴァリーナ」
「アデリーナです」
「貴様の名前などどうでもいい。とにかく貴様は、あの舞踏会の日に俺に見初められたのだ。ガラスの靴もお前にぴったりだった、いいな?」
いいな? とか聞いておきながら、たぶん私の意見を聞く気はないのだろう。
答えは「はい」か「YES」で。断れば死が待っている。
大丈夫、ちゃんと存じておりますとも。
「すべて仰せのままに、王子」
エラの前では猫被っていたくせに、今や不愛想な俺様王子が前面に出ている。詐欺ですよこれ。
エラちゃんこの人に引っかからなくてよかったね。
なんて、他人事みたいに考えてしまったり。
「アレクシス王子様、並びにお妃様の入場です!」
景気のいいトランペットの音色と共に、私たちはしずしずと礼拝堂を進む。
え、王子の運命の姫けっこう地味じゃない……? みたいな視線が突き刺さるのはもう慣れてしまった。
神父様ですら「えっ、この人ですか?」みたいな顔をしている。聡いお方だ。
しかしもうここまで来てしまったからには、王子は結婚を取りやめる気はないらしい。
王子に睨まれた神父様は慌てたように式の進行を再開させた。
病める時も健やかなる時もなんとかかんとか。
虚ろな気分で誓いの言葉が終わり、あっという間に誓いのキスの時間がやって来てしまった。
王子が雑な手つきで私のベールを払う。
その視線は冷たい。いかにも不本意ですって感情がビシバシ伝わってくるようだ。
でも不本意なのは私も同じ。というか、私の方がよっぽど理不尽な目に遭ってると思うんですけど?
……なんて考えてる間に、王子の顔が近づいてくる。
額かな? 頬かな? なんて予想を裏切り、しっかり唇にチューしてくれやがりました!
まったく、律義というかなんというか……。
あぁ、さようなら私のファーストキッス。いきなりすぎて感想は特になし。
こうして、非常に残念な感じに私の結婚式は終わってしまったのです。