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31 ダイヤモンドダスト

 とはいっても、頑張るのは《奇跡の国》へ帰ってからにしてくれと王子には止められてしまった。


「わかっているのかアデリーナ、君はまだ病み上がりなんだ」

「でも……もうベッド生活は飽きちゃいました」


 せっかく冬の妖精王の郷に来たんだから、もっといろいろなところが見たい……!

 そんな私に、王子はため息をつきつつ苦笑した。


「まったく……君は少しも俺の思う通りには動いてくれないんだな」


 でも、そんな私を選んでくださったのはあなたですよね?

 そんな思いを込めて微笑みかけると、王子は降参だとでもいうように笑った。


「……わかったわかった。リハビリも兼ねて少し散歩しようか」

「はい!」


 王子にエスコートしてもらい、部屋の外へと足を踏み出す。

 部屋の外でちょうど私たちの世話を焼いてくれている妖精さんとすれ違い、いいことを教えてもらった。


「お二人とも、お出掛けですか? ちょうど今ダイヤモンドダストが降っていて綺麗ですよ!」

「この近くで見るのに適している場所はあるか?」

「えっと……屋上庭園なんてどうでしょう!」


 おぉ、この宮殿には屋上庭園もあるんですね! すごいなぁ……。

 教えてもらった場所へ向かうと、確かに屋上庭園へと繋がる階段が。

 一歩一歩階段を上り、突き当りの扉を開いて……私は思わず歓声を上げてしまった。


「わぁ……!」


 深い蒼穹を背景に、キラキラと虹色に輝く氷の粒が降っている。

 すごい、こんな綺麗な光景を見るのは初めてかも……。


「……見事なものだな」

「はい、まるで星が降っているみたいですね……」


 そっと手のひらを差し出して氷の粒を受け止めてみたけれど、私の手に触れた途端氷の粒は溶けてしまった。

 残念、持って帰ることはできなさそうだ。

 それなら、私の目と心に焼き付けておこう。

 二人で寄り添うようにして、しばし無言で目の前の幻想的な光景を眺めた。


 ……自然の力って不思議ですね。

こうしていると、私の悩みなんてちっぽけなものに思えてくる。

 空気は冷たいけど、すぐ隣の体温は暖かい。

 そっと寄りかかると、王子は私を抱き寄せてくれた。


「……寒くないか?」

「はい、少し。でも……もう少し、このままで…………」


 暖かなぬくもりに包まれると、胸のうちの不安が消えていく。

 彼が隣に居てくれるのなら、きっと何も怖くない。


「……明日、またユール様にお話を伺いに行こうと思います。私のルーツのこと、やっぱり……知りたいと思うんです」


 ユール様がどこまでご存じなのかはわからないけど、それでもできる限りは知っておきたい。

 ……大丈夫。何があっても私は私。

 アレクシス王子の妃のアデリーナであるという事実は、変わらないのだから。


「あぁ、そうしよう。……アデリーナ、心配するな。俺が傍にいる」

「…………はい」


 王子の言葉に、不安や迷いが消えていく。

 どんな魔法よりも、きっと彼の言葉が私にとっては一番効くのだろう。



 ◇◇◇



「……心の準備はできたようだな」


 再び訪れた私たちを、ユール様は超然とした笑みをたたえながら迎えてくれた。

 気を落ち着かせるように息を吸い、私はゆっくりと口を開く。


「……今日は、先日の続きをお伺いするために参りました」


 そう告げると、ユール様は愉快そうに口角を上げた。


「……わかった。少し長い話になるだろうから、楽にしてくれ」


 勧められるままに椅子に腰かけ、きゅっと膝の上で拳を握る。

 すると、隣に座った王子がそっと私の手を包んでくれた。


 ……そうですよね。私は一人じゃない。

 この人と一緒に、どんな真実でも受け止めていこう。


「まず……我ら妖精の役目については存じているな?」

「はい、季節を巡らせるお手伝いをしていると伺いました」


 私がそう口にすると、ユール様は緩やかに頷いた。


「あぁ、その通りだ。我らは古来より特別な魔法を用いて、正しく季節が巡るように……時には、人間のために自然の脅威を弱めてきた」

「人間を、守ってくださっているんですね」

「あぁ、今まではな」


 ユール様は静かに息を吐くと、遠い昔を思い出すような目をした。


「いつからか人間は未知の存在を恐れるようになり、妖精や幻獣は徐々に人間の前から姿を消すようになった。だが、それでも我らは自らの役目をまっとうしようと、心を砕いてきたつもりだ。しかしながら……我ら妖精王のうちの一人が、その役目を放棄するようになった」

「えっ……?」


 そんなことは初耳だ。私の隣で話を聞いていた王子も、驚いたように息をのむ。


明日は書籍版3巻の配信日です!

というわけで、3話くらいまとめて投稿予定です!


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― 新着の感想 ―
[一言] イチャラブしてやがるぜ…(笑)
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