16 お妃様、大量の招待状に襲われる
結果的に言えば、歓迎会はつつがなく終わった。
「運命的に出会ったお妃様にしては地味ですな……?」みたいな視線が突き刺さるのは、もう慣れてしまったので気にしない。
「よくやったぞ、カテリーナ。南の国の親善大使はたいそう喜んでいたそうだ!」
やたらと嬉しそうな王子からはお褒めの言葉も頂けた。
ふぅ、これで何とか首の皮は繋がったままですね。
だが別に、私は何か褒められるようなことをしたわけではない。
元々姉や義妹に比べて地味な容姿の私は、社交の場に出ることもあまりなく、図書館で借りた本を読むのが日課だった。そのため、どうでもいい雑学は山ほど頭の中に入っているのである。
姉には「そんなのなんの役に立つのよ!」って随分と馬鹿にされたっけ……。
でもまさか、役に立ってしまったんですよ。
今回、向こうの親善大使もたまたま私と同じ人種だった。
うっかりマニアックな遺跡の話で盛り上がってしまい、時間も忘れて話し込んじゃったっけ。
興奮してちょっと早口になっちゃったのは、今思うと少し恥ずかしい。
王子は嬉しそうだったから、これでよかったのかな?
でも、今回はあくまで運がよかっただけ。
たぶん親善大使が私の姉みたいな「引きこもって本ばっかり読んでるなんて信じられなーい。キャハハ!!」みたいな人だったら、私の評価は地に堕ちていたことだろう。あぶないあぶない。
そんな綱渡りのようなパーティーだったけど、一つ収穫があった。
我らがアレクシス王子殿下は……非常におモテになるのです!
南の国の親善大使が教えてくれたところには、彼は近隣諸国の王族貴族の女性から非常に人気があるらしい。
彼が結婚すると発表された時には、多くの女性が枕を涙で濡らしたとか……。
確かに容姿は物凄くいいもんね。まさに「王子様!」って感じで。
王子が結婚すると聞いて悲嘆に暮れていた女性たちは、宴の場で地味な私を見て「この程度なら勝てるんじゃない?」と燃え上がったようだ。
私が横にいるにも関わらず、アプローチを仕掛ける女性を何人も目にしたのだから。
もちろん、私はそんなことで落ち込んだりはしません。……ちょっと自尊心は傷つくけどね。
王子にアプローチする女性陣は、皆はっとするほど綺麗な人ばかりだった。
あんな風により取り見取りの美人に迫られたら、きっと一人くらいは王子のお眼鏡にかなう人もいるのでは?
歓迎会の場ではそんな女性たちに対してそっけない態度だった王子も、いつかは本当に愛する人を見つけるかもしれない。
……エラを失った、痛みを乗り越えて。
そうなれば私なんてお役御免。
お妃様の座はもっとふさわしい人にお譲りして、綺麗に表舞台を去りましょう。
もちろん、慰謝料を貰うのは忘れずにね!
なーんて考えていた私は甘かった。
この歓迎会を皮切りに、私のニート生活に変化が訪れたのである。
……なんとも残念なことに、私の望まぬ方向に。
「見てください、お妃様。招待状がこんなにたくさん!」
「皆、賢妃と名高いお妃様と親交を持ちたくて仕方がないのですよ!!」
どうやら歓迎会の場で親善大使と盛り上がっていたのが、かなり曲解されて方々に拡散されてしまったようだ。
山のように届くお茶会への招待状に、私は思わず頭を抱えてしまった。
うわー、招待状とか勘弁してください。私、社交界苦手なんですってば!
しかも賢妃なんて……とんでもない噂が広まっている始末。
これ実物見たら絶対がっかりする奴ですよ。
でもこれだけの招待状を全部無視していたら、うっかりとんでもない重要人物を怒らせてしまったりするかもしれない。
そうなれば私の命など風前の灯火。最近は少し打ち解けられたような気がする王子殿下も、ころっと態度を変えて私の首を刎ねるかもしれない。
そんなのは嫌だ。円満に離婚すれば、念願の田舎暮らしが手に入りそうなのに!!
……仕方ない。せいぜい出席して恥をかいてきましょうか。
どうせ物珍しさで招待されただけだし、一度会ってがっかりすればもう誘われないだろう。
私も一応王太子妃だし、そこまでひどい扱いはされないと信じたい。切実に。
「招待状を優先度の高さ順に仕分けしてもらえる? すべてに出席するのは無理そうだから」
「かしこまりました!」
……はぁ。
王子、早く私の代わりのお妃様を見つけてくださいね。