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11 王子様、牽制する

「……アレクシス王子殿下、どうかその後、わたくしにダンスを教えてはいただけませんか? こんな田舎の小国では、なかなか外の方にお相手をしていただく機会がなくて……」


 そんな見え透いた嘘に、俺は思わずため息が出そうになってしまった。

 目の前のセオドラ王女の態度には、初対面の時から違和感を覚えていた。

 やたらと俺とアデリーナを引き離そうとし、俺に対してはあからさまなこの行動だ。

 少し鈍いところのあるアデリーナは、今だに彼女の思惑に気づいていないようだが……このままにはしておけないだろう。


 俺はアデリーナ以外の妃を迎えるつもりは一切ない。

 側妃の打診ならそれこそ雨後のキノコのごとくポコポコと湧いてくるが、そのすべてを蹴ってきたのだ。

 もちろん、アデリーナには悟らせないように。


 アデリーナは優しく、聡い。それに加えて簡単に自分の気持ちを押し殺そうとする傾向がある。

 俺に側妃の打診が来ているなどと知れば、「……それが国や王子の益となるのであれば、私は構いません」などと瞳を潤ませ、絞り出したような小さな声で、そう口にするに決まっている。


 するとどうだ。アデリーナの姉妹やあの海賊野郎などが「それみたことか」とやって来て、「こんな薄情な王子のことは忘れろ」とアデリーナを連れ去っていくのが目に見える。

 冗談じゃない! やっと見つけた最愛の相手を、みすみす手放すつもりはもちろんあるわけがない。

 アデリーナは「私みたいな凡人じゃ王子には不釣り合いなのでは……」と常々口にするが、それは大きな間違いだ。


 むしろ俺の方が、彼女を繋ぎ止めておくのに必死だというのに。


(100%俺のせいだが)最悪な出会い方をしたせいで、アデリーナは俺の愛情にずいぶんと臆病だ。

 俺にできるのは、そんな彼女を一途に愛し、「俺には君しかいない」と伝え続け、彼女を不安にさせないようにすることだけだろう。


 そんな中現れたセオドラ王女は、俺にとっては厄介としか言いようがなかった。

 やんわりと拒絶しても、「俺はアデリーナが愛おしくて仕方がない」とくどいほど主張しても、懲りずに近づいてくるのだから。

 このダンスの申し出も、断ろうかと思ったが……ここまでしつこいと、一度はっきりと言ってやった方がいいだろう。


「アレクシス王子ならぴったりですね、とてもお上手でいらっしゃいますから」

「大丈夫ですよ、王子! 王子のダンスの腕前は私が保証しますから!」


 そんなアデリーナの無邪気な言葉に脱力しそうになりながらも、「ダンスの練習相手」という名目で申し出を受ける。

 既に勝ち誇ったような笑みを浮かべるセオドラ王女を、哀れに思わずにはいられなかった。



 

 アデリーナとのダンスは、いつも俺の心を和ませてくれる。

 ぎこちないステップが徐々に洗練されていく様も、ちらちらと足がもつれないように足元を気にする様子も何もかもが愛おしい。

 俺の一挙一動に驚いて慌てたり顔を赤らめたりする様子などは、まさに小動物のように愛らしい。

 だが、そんな楽しい時間もすぐに終わってしまう。


「アレクシス王子殿下、次はわたくしと踊っていただけますか?」


 ダンスが終わるとすぐさま近づいてきたセオドラ王女に、思わず顔をしかめそうになってしまう。

 アデリーナをダンフォースに託し、俺は渋々セオドラ王女の手を取った。


 再び曲が始まり、セオドラ王女の手を取りステップを踏み始める。

 彼女が矢継ぎ早に話しかけてくるのを適当に相槌を打ちつつ、俺は目の前の王女を観察する。

 自分に自信があることを裏付けるような、大胆なドレスを身に着けている。

 それも似合っていないわけではない。


 客観的に見れば、彼女は美しい部類に入るのだろう。

 ダンスの腕だって、わざわざ俺が練習に付き合ってやらねばならないほど下手なわけではない。

 このくらいの腕前なら、どこに行っても恥をかくことはないだろう。

 辺境の小国の王女という立場ではあれども、容姿も教養も申し分ない。


 だが、俺の心には少しも響かなかった。


 アデリーナという最愛の存在を得た今、俺には他の女性など目に入らないのだ。

 彼女も俺になど固執せずに、もっと他の相手を探せばよいものを……。

 俺の心ここにあらずと言った態度に焦れたのか、セオドラ王女が少し強めに囁いてきた。


「アレクシス王子殿下……どうか、少しでも二人だけでお話しするお時間を頂けないでしょうか。大事なお話があるのです」


 ……これ以上まとわりつかれても厄介だ。

 俺にその気がないということを、一度はっきり宣言してやった方がいいだろう。


「あぁ、だが妃が心配なので手短に頼む」


 平坦な声色でそう返すと、セオドラ王女の表情が歪んだ。

 そんな彼女から視線を逸らし、アデリーナの姿を探す。

 これだけの人がいても、不思議と俺はすぐにアデリーナの姿を見つけることができる。

 本人にそう言うと、なぜか不思議そうな顔をされてしまうが……。

 すぐに目に留まった彼女は、ダンフォースだけでなくコンラートやゴードンも傍についているようなので安心した。


 早く、俺もあそこへ行きたいものだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 運命の姫だったはずのエラの事さえ今は「アデリーナを奪いに来るあの姉妹」呼ばわりでちょっと笑う。
[一言] 少なくとも海賊野郎は大喜びで拐いに来るだろうな!(笑)
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